安い&広々した「ファミリー向け賃貸住宅」、あと約5年で大量供給…持ち家幻想崩壊

安い&広々した「ファミリー向け賃貸住宅」、あと約5年で大量供給…持ち家幻想崩壊

 これまで家を「買う」の理由のひとつに、単身や結婚したばかりなら賃貸物件もよりどり見どりだが、子供が生まれて家族が増えると、家を借りようにもファミリー向けの良い物件がない、ということが声高にいわれてきた。

 しかし、これからの時代はどうやらだいぶ様相が変わってきそうだ。 

 理由は2つ。ひとつが、今密かに進行している大都市内部における大量の空き家予備軍の存在だ。そしてもうひとつが、都市郊外部における生産緑地制度の「指定解除」だ。

 空き家は全国で820万戸にも及んでいるが、実は空き家が全国で一番多いのが東京都で、その数は81万7000戸にも及んでいる。神奈川、埼玉、千葉を含めた1都3県になるとその数は200万戸を超え、なんと全国の空き家のうち4軒に1軒は、実は首都圏に存在していることになることを多くの人は知らない。

 さらにこれを個人の持ち家の空き家(統計上では「その他」に分類)に絞り込むと、首都圏におけるその数は53万2000戸にもなる。賃貸住宅の空き家の多くは、供給過剰を原因とするワンルームなどの賃貸マンションの空き住戸なのだが、実は家族で住んでいた個人の持ち家の空き家が最近では首都圏で急増しているのだ。

 この流れは今後さらに加速しそうである。というのも首都圏郊外を中心にこれまで、都心から郊外部に伸びる鉄道沿線に開発されてきたニュータウンと呼ばれる開発分譲地に家を買った世代の人たちが、そろそろ「相続」を迎え始めたからだ。

 彼らの子供たちの多くは、親の家を継いでそのまま住むという選択をせず、都心部に居住する傾向にある。ということは、親が亡くなって相続した家に自分で住むことをせずに、その家を賃貸に出すか、売却をするという選択をすることになる。首都圏には団塊の世代といわれる1947年から49年生まれの人たちが200数十万人もいるといわれる。この世代の人たちも、東京五輪後の2024年以降は全員が後期高齢者になる。つまり彼らが買い求めた郊外部の住宅が、今後短期間に大量に賃貸または売却に回ってくるのは確実なのだ。

 また、都心部のファミリー型のマンションのなかには、戦中や団塊の世代が買い求めた物件も数多く存在する。これらの住戸も今後はかなりの数が賃貸に拠出されるようになる。

 これらの物件は、築年数は経過しているものの、もともとファミリー向けに分譲された戸建て住宅やマンションだ。昔の賃貸マンションのような安普請のものではない。広さも確保され、造りもしっかりしている部屋を、リーズナブルな賃料で借りるチャンスは今後首都圏でも確実に広がってくるはずだ。

 ファミリー用の賃貸物件がない、などと嘆かずとも、向こう数年のうちに大量の供給が控えているのだ。

●生産緑地法

 ファミリー向けの賃貸マンションやアパートが今後都市郊外部で大量に出てくることを後押しするのが、生産緑地法をめぐる動きだ。
 
 生産緑地法とは、1974年に大都市圏の一部の市街化区域内における農地の宅地化を推進するために交付された法律である。この法律は当初、指定された区域内にある農地に「宅地並み」の固定資産税を課すことで、都市部に残る農地を宅地化しようと考えられたものだった。とにかく宅地が足りない時代に、少しでも農地から宅地に転用させようという目論見が法律制定の裏にあったのだ。

 ところが、区域内においてもまじめに農業をやろうとする住民がいるとの声に配慮して、91年3月に生産緑地法は改正になり、92年度より生産緑地制度が導入された。自治体に申請された農地で敷地面積が500平方メートル以上で期間中は営農に専念するなどの一定条件を満たせば、30年間にわたって固定資産税は農地扱いとし、相続税については納税猶予となったのだ。対象となったのは、東京23区、首都圏、近畿圏、中部圏内の政令指定都市その他整備法で規定された一部の地域とされた。

 現在この生産緑地として登録されている面積はどのくらいあるのだろうか。国土交通省「都市計画現況調査」(2014年)によれば、14年3月末現在でその面積は1万3654ヘクタールにも及んでいる。首都圏(1都3県)でこのうちの57%に当たる7747ヘクタール、これに愛知、大阪を加えると81%が該当することとなる。東京都だけでもその面積は3330ヘクタール、つまり東京ディズニーリゾート33個分の面積が「都市型農地」として眠っているのだ。

 これら生産緑地の多くが30年の期間満了を迎えるのが、実は2022年ということになる。

 これまでは農業専門に働いてきた人たちも生産緑地にしてすでに30年がたてば、事業承継や相続の時期に差し掛かる。22年を契機に大量の都市型農地が、生産緑地の解除を申請してくることが容易に予想される。

 具体的には、生産緑地を解除する場合には、地元市町村に対して「買い取り申請」を行い、時価で買い取ってもらうのが原則だ。しかし、財政難にあえぐ自治体が多い中、すべての生産緑地を買い取るのは、到底不可能だ。そこでほかに生産緑地として買い取る人がいないか斡旋するのだが、該当者がいなければ、宅地並みの課税が施されるため、多くのオーナーは土地を有効活用するか、または売却することになる。

 その結果22年以降、都市部において生産緑地が大量に不動産マーケットに登場する。売却する土地が増えるということは、当然地価は大幅に下がることになる。

●広がる「賃貸」という選択肢

 また、宅地並みの固定資産税を賄うため、あるいは巨額に膨らむ相続税を圧縮するためにアパートなどを建設して土地の有効利用を図る人も激増することが予想される。郊外であれば、単身者向けのアパートを用意しても、もはや学生などの需要はあまり見込めない。

 そこで最近、アパート業者の間でも注目されはじめたのが、郊外部で「子育て」に適するように十分な床面積を確保した賃貸戸建て住宅やタウンハウスだ。都心居住が進んでいるとはいうが、できれば子供たちを郊外の戸建て住宅やタウンハウスのような家でのびのび育てたいという若い夫婦はまだまだ多いとも聞く。

 そうした夫婦が驚くほどリーズナブルな家賃で広くて環境の良い家を借りられるようになってくるのだ。生産緑地制度30周年がこうした傾向をさらに後押ししてくれることだろう。

 このように、これまでは結婚をして家族が増えると、もはや賃貸アパートなどで自分たちのライフスタイルにあった適当なものがなく、やむを得ず家を買うといった固定化された思考パターンだった人たちにとって、「賃貸」という選択肢が都心部の分譲中古マンションや郊外の広々戸建て住宅などにまで広がることが期待できるのだ。

 土地持ちにとってはつらい時代かもしれないが、住宅を気楽に賃借したり、今よりももっと広い家を安く買える時代はもうすぐそこまで迫っているのだ。あわてて行動を起こすことはないのだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)

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