(ブルームバーグ): 米国では、新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす孤立や悲しみ、経済的苦難が精神衛生の危機を生み出している。専門家らは、すでに高い自殺率がさらに上昇する恐れがあると警告している。

  米財団ウェルビーイング・トラストと米家庭医学会(AAFP)は8日公表した調査で、新型コロナ危機の結果、向こう10年で最大7万5000人がいわゆる「絶望死」によって命を落とす可能性があると指摘した。この言葉は自殺や薬物乱用関連の死亡などを指す。調査は同財団と、AAFPに所属する研究者らが行ったもので、査読は受けていない。

  米国の自殺率は過去20年にわたって上昇してきている。米医師会の精神医学専門誌「JAMAサイキアトリー」に4月掲載された記事によると、2018年には1941年以降で最悪の水準となった。同記事を執筆したマーク・レーガー氏は、ソーシャルディスタンシング(社会的距離の確保)が自殺防止の取り組みを阻害する可能性があるとし、そうならないようにすることが「国の公衆衛生上の優先課題だ」と語った。

  また、ロングアイランドを本拠とする非営利団体ファミリー・アンド・チルドレンズ・アソシエーションのプレジデント、ジェフリー・レイノルズ氏は「矛盾が存在している」と指摘。「社会的隔離は命を脅かすウイルス感染から私たちを守ってくれるが、同時に、米国で大きな死因となっている自殺や薬物過剰摂取、アルコール乱用に関連した病気などの危険に人々をさらす」と述べた。

  3月半ば以降、米失業保険の新規申請件数は約3300万件に達している。世論調査機関ギャラップが8日発表した調査によると、同じ期間に米国民の生活満足度は急速に低下した。

  ウェルビーイング・トラストの最高戦略責任者で今回の調査に従事した臨床心理学者ベンジャミン・ミラー氏は「この論文から人々が学ぶべき主題の一つは雇用が大事だということだ」と指摘。「それは経済的暮らし向き、そして精神的・感情的な健康に影響する」と述べた。

  新型コロナによる経済的な先行き不安は、自宅待機命令で深まる孤立感と重なることで、これまでのどんな景気低迷時とも違う状況を生み出しており、従って過去の事例を参考にするのは難しい可能性がある。

  データからは既に、比較的所得の低い層の方が新型コロナ関連のストレスを強く受けていることが示されている。非営利団体カイザー・ファミリー財団の調査では、新型コロナの影響で自身の精神的健康に「大きなマイナス影響」が及んでいると答えた人の割合は年収4万ドル(約430万円)未満の層で26%となった。一方、年収9万ドル以上の層ではこの数字は14%にとどまっている。

(5段落目以降を追加します)

©2020 Bloomberg L.P.