(ブルームバーグ): 3月まで日本銀行の審議委員を務めた原田泰・名古屋商科大学ビジネススクール教授は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が長期化した場合、日銀が取るべき追加緩和策としては、マイナス金利の深掘りよりも、国債買い入れの増額など量の拡大の方が望ましいと指摘した。

  原田氏は29日のオンラインでのインタビューで、日銀が3月以降、相次いで打ち出してきた企業の資金繰り支援策や、金融市場の安定化策を中心とした一連の政策対応について、「金融政策によって銀行に資金を供給し、銀行が企業や個人にお金を貸すのを助けている。また、コマーシャルペーパー(CP)や社債などの買い入れで企業の直接金融も支援している。国債を買うことで政府の支出も助けている」とし、「日銀はやるべきことをやっている」と評価した。

  ただ、制約された経済活動が続いていることで「支出も需要も落ち込んでいる状況の中では、デフレに戻ってしまうリスクは常にある」との認識を示し、日銀の金融政策運営は「現在の緩和的な金融政策運営を続けていくしかない」と強調。影響が一段と長期化した場合は「必要があれば、国債をもっと買うことができるし、CPや社債、上場投資信託(ETF)などの買い入れを可能な範囲で増やすこともできる」と語った。

  一方で、マイナス金利の深掘りは「多くの国民に嫌がられる」とし、金利を引き下げるのであれば、日銀当座預金におけるプラス0.1%の付利の引き下げが「有効だと思う」と主張。プラス金利の引き下げによって「銀行は別の投資先を探す必要に迫られ、一部は海外に流れることになるだろう」と述べ、「量を拡大する方が穏当な政策と言えるが、そうした手段を確保しておくことも大事だ」との考えを示した。

  日銀が目標に掲げる2%の物価安定目標は一段と遠のいているが、「コロナの影響で失業率が上がっており、物価が上がるまで緩和を続けていくべきだ」とし、「コロナ前の低い失業率でも物価は2%に行かなかった。物価2%を目指して失業率が元の水準からさらに下がるまで緩和を続けていくことが重要だ」と語った。

預金積み上げが正解

  大規模な金融緩和を7年余りも続けているにもかかわらず、物価2%が実現できていない理由については、「消費税率の引き上げも原因だが、結局は過去の記憶で現在の行動が決まり、現在の行動によって将来が決まるということではないか」と説明した。

  具体的には「リーマンショックによって日本の企業は臆病になり、現預金を積み上げてばかりいると批判されてきたが、コロナショックによって、そうした行動が結果的に大正解ということになった」と指摘。今後も「投資、支出が減り、需要が回復しないから、なかなか物価も上がらない状況が続く」とし、「景気の急回復とか物価上昇のモメンタムが得られないまま、だらだらと悪い状況が続くのではないか」との見方を示した。

  コロナ対策での政府の大規模な財政出動を評価しながらも、「無駄なことに使うのは良くない」とし、具体的には需要が落ち込んだ観光業や飲食産業を支援する「Go To キャンペーン事業」への支出に疑問を呈した。

  現在の状況でキャンペーンを行えば、「感染が再び拡大する可能性がある。旅行者が増えても、感染が拡大すれば、再び自粛ということになる」と懸念。「お金を使って景気を押し上げても、また悪くなると皆が思えば、現預金をため込む行動につながりやすい」と述べ、「コロナの影響で客が来ない観光業者や飲食業者にその予算を直接、配った方がましだろう」と語った。

  原田氏は大胆な金融緩和を主張するリフレ派の論客として知られ、審議委員の在任中は現行のイールドカーブ・コントロール政策に対し、長期金利の変動許容幅が曖昧であるとして反対票を投じてきた。また、先行きの政策指針(フォワードガイダンス)と物価目標との関係を明確にするよう主張していた。審議委員退任後、メディアとのインタビューに応じたのは初めて。

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