中国発の本格SF「三体」劉慈欣さんインタビュー 科学の力、人類の英知を信じて執筆

中国発の本格SF「三体」劉慈欣さんインタビュー 科学の力、人類の英知を信じて執筆

 中国発の本格SF小説「三体」が日本でも評判になっている。本国ではシリーズ累計2千万部を超す大ベストセラー。世界各国で翻訳の出版が相次ぎ、米国のオバマ前大統領らが愛読したことでも知られる。数年前まで発電所のエンジニアと二足のわらじを履いていたという著者の劉慈欣さんに北京で会い、創作の過程や中国SFの今後について聞いた。

お話を聞いた⼈劉慈欣(りゅう・じきん)作家

1963年、中国・山西省生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を書き始め、雑誌〈科幻世界〉に『三体』を連載。2008年に単行本として刊行。「三体」「黒暗森林」「死神永生」の三部作は2100万部を超す売り上げを記録している。2015年、英訳版がアジア人作家して初めて、SF界最大の賞・ヒューゴー賞を受けた。

「三体」あらすじ

 文化大革命(1966〜76年)で父を亡くしたエリート女性科学者は、失意の日々を送るなか、謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこで行われていたのは、人類の未来を左右しかねない極秘プロジェクトだった。彼女が宇宙に向けて発信した電波は、惑星「三体」の異星人に届き、数十年後、科学的にありえない怪現象が人類を襲う。壮大な「三体」三部作の第1弾。

SFは異文化間で共鳴しやすい

 小説のアイデアは、物理学の難問「三体問題」の文章を読んだことがきっかけだった。宇宙に質量を持つ三つの物質があれば、引力が相互に働き、現在の物理学や数学では動きが予測ができない。「たった三つでも予測できないなら、ある恒星系の中に三体運動があったら、文明はどうなるのだろうか」と考えた。

 根底には、人類が生存を続けていること自体が不可思議だという思いがある。「我々は当然だと思っているが、一種の幻想かもしれない。宇宙全体の残酷な生存競争の中で、人類文明は生き続ける力があるか」というのが自身の作品の隠れたテーマだ。

 中国SFは欧米のSFとどう違うのか。「中国SFと言っても、作風は様々で一人ひとりの違いも大きいから、一言でまとめられない」と断った上で、こんな見方を披露した。

 「よく違いについて聞かれるが、むしろ異なる文化間でも共鳴しやすいのがSFだ。個人の感情や人間関係を中心に展開する描くリアリズム文学では、人種に基づく国家の隔たりはなかなか超えられないが、SFでは人類は一つの総体として共同で危機に立ち向かうことになるからだ」

 もちろん、西洋との違いも意識はしている。「欧米のSFにはキリスト教文化が色濃く反映されるのに対し、中国にはそこまで絶対的な存在がない」。西洋では「神の領域」ととらえられる生命の創造、クローン、遺伝子操作といったテーマにも、中国ではそれほど抵抗がないという。

 危機への対処の仕方にも違いを感じる。西洋は特別な力を持つヒーローに希望を託す英雄主義なのに対し、東洋、とりわけ中国は、みんなが一つの目標に向かって力を合わせる集団主義だとみる。

 自らの作風は「1930年代から60年代の米国の黄金時代の創作理念を反映した伝統的なもの」と語る。人と宇宙の関係に注目し、時空の上に広がる壮大な背景の中での人類の生存状態を描く。最近のSF作品が人物の心理などまで細かく描写する傾向があるのに対し、あくまでもSFのアイデアにこだわる。

 「時代遅れと言われても、今後書くのはやはり、人類が宇宙を切り開き、何かを探し、見つけるという物語だ」

文化大革命期にSFと出会う

 SFに目覚めたきっかけにも、お国柄が反映されている。三体の舞台回しに使った全国的な政治動乱、文化大革命(1966〜76年)の時代に幼少期を過ごした。小学生のとき、自宅にあったジュール・ヴェルヌの「地底旅行」を読んだのがSFとの出会いだ。父が50年代に買い求め、文革時代は禁書扱いになったため、ベッドの下の箱の中に隠し持っていたのだ。

 その時の衝撃は忘れられないという。当時の中国には、SFという概念すらなかった。「18世紀の冒険小説のような写実的な作風なので、最初は本当の話だと思っていた。父から『これは想像で書いたものだ』と言われ、本当に驚いた」。それ以来、SFのとりこになった。

 文革が終わった高校生のころから作品を書き始めたが、当時は発表はしていなかった。その後、十数年のブランクを経て、内陸・山西省の陽泉という街で発電所のエンジニアをしながら、余暇を使って98年ごろから再び書き始めた。

 好きな作家にアーサー・C・クラークやH・G・ウェルズを挙げる。特にクラークの「2001年宇宙の旅」や「宇宙のランデブー」に大きな影響を受けたという。宇宙の中で人類が壮大な活動をし、想像力を働かせて細かく精緻(せいち)な世界を生き生きと描き出す点に惚れ込む。

 ジョージ・オーウェルの「1984年」も好きな作品だ。SFの視点から現実を見る視点と、現実を描く力量のすごみを感じる。ただ、超監視社会が今の中国に通じるという見方には反論した。「今の中国は昔の中国よりずいぶん開放的になっている。あちこちに監視カメラがあるではないかと言うなら、米国や英国だって一緒だ」

 日本のSFでは、小松左京の「日本沈没」や田中芳樹の「銀河英雄伝説」がお気に入りだ。最近は小松ほどの重量級の作家が出てこないと感じており、むしろ注目しているのはアニメだという。

 「攻殻機動隊」「王立宇宙軍 オネアミスの翼」など主要な作品はだいたい見ている。SFではないが、最近のお気に入りは新海誠監督の「秒速5センチメートル」だ。「日本の作品には、宮崎駿監督の映画のように、欧米のSFにはないロマンチックで詩的な感じがある」と評価した。

北京の事務所には外国語に翻訳された本が並ぶ

オバマやザッカーバーグも愛読

 翻訳された「三体」は、オバマ前米大統領やフェイスブック創始者のザッカーバーグ氏らも愛読した。外国人に受けた理由は自分でもよく分からない。「必ずしも中国の作品の質が上がったのではなく、中国文化の存在感が強まり、SFも注目を浴びたということかもしれない」と話した。

 ただ、SF文学は世界で最も先進的な国でしか生まれない「国家の発展のバロメーター」という考えは持っている。英国で生まれたSFが米国で発展し、いま中国が注目されつつある。「中国が科学技術への自信をつけたということだ」。SF映画はいずれハリウッドを追い越すか対等になるだろうと予測している。

 だが、中国のSF文学の将来には悲観的だ。名の知れた作家は20〜30人程度で、多くは今でも生活のために別の仕事を持つ状態が続いている。「三体」の第3部が出たのは2010年。それからもう9年たっているのに、大きなヒット作が生まれない。劉氏も国内のSF賞の審査委員を務めているが、「市場も読者もあまり育っておらず、『三体』に続く作品が見当たらない」と嘆いた。

 科学の負の側面を描くSFが優勢になるなかで、人類が科学技術の力を信じ、危機を乗り越える設定にこだわる。現実世界では、中国で科学者が独断で遺伝子操作をして双子を出産させたり、米国が気候変動や核軍縮に後ろ向きな姿勢を見せたりしている。それでも信念は揺らがない。

 「マイナス面があるからといって科学技術の発展を止めてはいけない。現代社会が科学技術を手放したら、1週間もたたずに崩壊する。核戦争の危機を回避できたように、人類は法律や制度、責任感で副作用をコントロールできる」


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