『「他者」の起源』 人種概念からの解放へ深い洞察

『「他者」の起源』 人種概念からの解放へ深い洞察

「他者」の起源 ノーベル賞作家のハーバード連続講演録 [著]トニ・モリソン

 黒人としての自分を嫌悪する少女の悲劇を描く第一作『青い眼がほしい』から半世紀。モリスンは、奴隷制や人種主義の根源に迫る小説を発表し続けてきた。自分の子どもを殺した奴隷の母親を描いた『ビラヴド』、人種的純粋性を誇る黒人町の軋轢と暴力とを語る『パラダイス』。人種の符号を転換させたり肌の色を伏せたりしながら、彼女は問いかける。肌の色を文学に取り込む意味はどこにある? 人種がわかったとしてその人物の何がわかるのか?
 この講演録が示すように、モリスンの凄さは、肌の色や人種への執着がもたらす害毒と、人種概念の空虚さとを同時につかみ、表現する力にある。人種に科学的根拠はなく、人を「他者化」するのは、自分の帰属や優越性を確認するためにすぎないと彼女は語る。だが、人種が創り物だからといって、差別や暴力が消えるわけではない。むしろ彼女が描くのは、科学や論理ではなく、歴史や権力関係に絡めとられているからこそ、人種概念の解体が困難だという現実だ。それは、難民や移民を「よそ者」として排除する昨今の状況ともつながっている。
 「他者」や「よそ者」は、わたしたちの変型にすぎないとモリスンはいう。「他者」は、互いに知り、受け入れようとする相手であり、また、創作を通じてその姿を蘇らせたい存在。そう、例えば幽霊として現れる『ビラヴド』の殺された子どもなのだ。
 講演は、ギニア人作家カマラ・レイの小説『王の輝き』で結ばれる。アフリカに漂着したヨーロッパ人の男が、紆余曲折の末、文化的鎧を捨て、裸になって王に近づいていく。そこで耳にするのは「お前を待っていたのを知らなかったのか?」という言葉。「他者」を人類へと迎え入れるこの言葉こそが、「よそ者」を追放し、人類の共通性を否定させようとする圧力からわれわれを解放する。先日逝去した著者による洞察に満ちた小著である。
    ◇
Toni Morrison 1931〜2019。米オハイオ州生まれ。93年にアフリカ系アメリカ人として初のノーベル文学賞。


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