フェイスブックやインスタグラムなどのSNSが、どう流行し定着していったのかを解説した『SNS変遷史「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト・プレス)が発売されました。著者は電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬さん。個人ホームページや巨大掲示板といったSNS前史から、TikTokなどの新しいサービスの最新動向まで論じています。SNSの変遷を追うことで見えてきたものとは? 今、注目の動きは? 天野さんにうかがいました。

お話を聞いた⼈天野彬(あまの・あきら)電通メディアイノベーションラボ 主任研究員

1986年生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2012年に株式会社電通入社。スマートフォンユーザーやSNSの動向に関する研究・執筆・コンサルティングが専門。著書に『シェアしたがる心理〜SNSの情報環境を読み解く7つの視点〜』、共著に『情報メディア白書』など。経済番組でのコメンテーターや各種講演でのスピーカーなども務める。

「模倣」がSNSを読み解く鍵

――本書ではフェイスブックこそが代表的なSNSだとされていました。そもそもSNSの定義とは何でしょうか?

 利用者がアカウントを開設・運用し、テキストや写真、動画などをシェアすることができる、独自の圏域を持つウェブサービスやアプリケーションだとしています。特にアカウントをフォローして継続的にその情報をチェックし、繋がりを維持できるようなものです。

 フェイスブックを「ザ・SNS」とした理由は、まずユーザー数の多さです。月間利用者数「MAU」は約24億人で、世界で見ると圧倒的な1位です。しかも、インスタグラムは若い女性ユーザーがメインなのに対して、フェイスブックは利用している年齢層に非常に幅がある。写真、動画、長い文章と、シェアできる機能の多様さもある。また、フェイスブック社はSNSを運営する企業の中で最も企業規模が大きく、影響力があります。

――本書では1990〜2000年代の個人ホームページや巨大掲示板といったサービスから振り返っていましたが、そうしたSNS前史にも着目したのはなぜでしょう?

 中学生時代にインターネットを使っていた、僕自身の原体験があるからかもしれません。学校の友達と個人ホームページを作って、ゲームの攻略情報などを発信していました。2ちゃんねる(現、5ちゃんねる)でも、自分の好きな音楽の「板」にいました。そこでは知らない人同士が交流していて、日常生活とは違った繋がりが生まれている面白さを感じました。

 そう考えると、オンライン上で人と人とが繋がることは、SNSより昔からあったことだと思います。「いいね!」のような機能もブログの時代に個人の発信が広がり始めていた頃から目立ってきていたので、SNSの登場でそうした要素がより一般化したに過ぎない、と論を立てるのが自然だと思ったんです。それは、技術の新しさに右往左往せず、そこで変わらない要素は何であるのかを見定めるという、僕自身が学んできた学問的なディシプリンにも立脚していると感じます。

 たとえば、『天空の城ラピュタ』がテレビで放映される時に、ツイッターで皆「バルス」(主人公たちが唱える滅びの呪文)って呟くじゃないですか。あれはよくよく調べてみると、元は2ちゃんねるのカルチャーなんですよね。「皆で一斉に書いたらサーバーが落ちるから試してみようぜ」というイタズラ心から、同じタイミングで「バルス」と書き込んでいた。マーケティング業界的にきれいな美談として語ってしまうと、「皆で盛り上がっていて素晴らしい」となるわけですが、実はネットカルチャーの斜に構えたような遊びのマインドが源流にある。場は変わっているけれど、コミュニケーションのお作法みたいなものには連続性があるんです。

――SNSを考える上で最も重要な概念として、「模倣」を挙げられていますね。

 一般的には「模倣」とは、誰かがやっていることを自分も真似をする、ないしはその逆もしかりということですが、SNS上においては、例えば、インスタグラムで他人が上げている、映えるスポットの写真を見て「いいな」と思い、自分もそこに行って同じような写真を撮ってシェアするような行動が該当します。SNS上で「いいね!」が集まりやすい投稿には、傾向があります。だから、パンケーキとか、観光地とか、特定の似た投稿が並ぶのです。

 実は「模倣」というのは、人の行動そのものに深く関わっているという考えがあります。社会学者のロジェ・カイヨワは遊びの四要素の一つに「模倣」をあげていますが、模倣の楽しさは、私たちの本能に近い領域に備わる志向性です。現代では、模倣が伝播していくことで情報が拡散していくようになっていますが、それは、人間のコミュニケーションの仕組みそのものにビルトインされた奥深い現象だと思っています。

 初期フェイスブックに投資したピーター・ティール(アメリカの投資家、著述家)は、文芸批評家のルネ・ジラールに学びました。ジラールによれば、人々は「模倣」を通して欲望の対象を選ぶ。「何をしたいか」といった欲望には、「模倣」の力が強く作用します。ピーター・ティールはフェイスブックのようなSNSは、ジラールの理論の「模倣」そのものだと気づいて、フェイスブックの成長を確信し、投資したというエピソードも本書内で紹介しています。

「もっとスローになること」の大切さ

――SNSの登場によって、情報収集の仕方がグーグル検索「ググる」からハッシュタグ検索「タグる」に、比重が変わりつつあると指摘していましたね。

 「タグる」というのは、「ハッシュタグ」と「手繰り寄せる」を掛けた造語です。最近の若者は検索サイトにキーワードを入れるのではなく、インスタグラムやツイッターで載せられているハッシュタグで検索をして、情報収集をするようになってきています。

 最近はグーグルで検索しても、あまりいい情報が出なくなってきたことも一因です。SEOのテクニックが広がって、ページ運営者はどういう風に書くと検索順位が上がるかが分かっている。すると、たくさん見られると広告料が入って儲かるので、皆が似たようなページを作る。例えば、有名人の名前でグーグル検索すると、「あの人について調べてみました!」みたいなページも多いですよね。「身長は?」とか、「人気の理由は?」とか、はたまた「恋人はいるの?」とあって、興味をひかれて最後まで読んでも「結局、調べてみましたが分かりませんでした」と(笑)。

――20代後半の知人に「旅行で行くスポットを探すのに、インスタで土地名のハッシュタグで検索するといいよ」と言われてやってみたことがあります。すぐにビジュアルで情報がたくさん出てきて、パッと見て雰囲気が分かるのでとても良かったです。

 それが、まさに「タグる」の実例ですね。SNS上にあるのは、基本的に特定の個人が発信した情報です。自分と似たような属性の人が発信している情報には、リアリティがある。そこに信頼性を感じるんです。

―本書では、SNSをうまく使うための鍵は、「もっとスローになること」が大事だと指摘されていました。

 SNSは情報を手軽に発信できるし、すぐ拡散する。ファストな情報の良さもある一方で、フェイクニュースのようにネガティブな情報もすぐに広がってしまいます。自分が「ファストなものに触れているんだ」「そういうコミュニケーションをしているんだ」と客観視するのは凄く大事だと思います。

 例えば、ツイッターの論争だけを読んで分かった気にならずに、別のソースにあたってみる。そういう意味では、古典的なメディアリテラシーの話に帰着するんだと思います。どのメディアにも、そのメディアの限界がありますし、どんな人でもある程度のポジショントークから逃れられない。完全中立なポジションはないわけなので、色んなものを見て判断することが大事だと思います。

――天野さんが注目しているスローなサービスはありますか?

 遅いコミュニケーションとして挙げているものは、長いコンテンツのブログみたいなフォーマットですね。ちゃんと文章を書いて、皆が考える土壌を作ることが大事だと思います。最近では「note」がそうですが、ユーザー数が着実に増えているのが面白い兆候だと感じています。「MAU」は約2000万人もいて、フェイスブックの日本での利用者数2700万に並びそうな勢いです。

 そういうしっかりしたものを読みたいというニーズは変わらずにある。スローな思考、それは自分を内省し深い理解に到達できるようなきっかけをもたらしてくれるものです。どんなサービスにだって、そういう珠玉のコンテンツは隠れていて、それに出会えるかどうかという視点が大切なように思います。

これからのSNSの行方

――SNSの世界で今、注目の動きはありますか?

 三大SNS(フェイスブック、インスタグラム、ツイッター)を含めて、機能や利用方法は均質化してきている印象があります。そうすると、ユーザー数が多いサービスはなかなか退場しない。例えば冷蔵庫は新しいモデルが出たら買い替えますけど、SNSはそこにいる人との繋がりが価値だから、スイッチングできません。MAUが多いSNSは、運営会社も事業規模が大きく、投資開発のバジェットや人材の分厚さもあって盤石です。

 その一方で、今の大手のSNSだと満たせないニーズもあります。通信環境がだんだん変わって、情報の発信の仕方が少しずつ変わっていくと、また違う場が必要になってくる。TikTokなどのショート動画共有サービスもおもしろいと思いますし、ゲーム実況系や投げ銭系など細分化したサービスもある。それが小さくポコポコと出てくることが、SNSの発展にとって大事なことだと思っています。

 僕の大学院時代の指導教官だった水越伸先生は、「メディア・ビオトープ」という概念を提起していました。マスメディアのような巨大なメディアだけでなく、小さなメディアがたくさんネットワークしていくことで生態系全体が豊かなものになるという発想です。人と人とがつながりあう場も同じではないでしょうか。そこに新たな動きが生まれる余地が常に内包されています。

――天野さんが気になっているサービスはありますか?

 「LIPS(リップス)」というコスメに特化したSNSがあります。女性のユーザーがほとんどで、自分が使ってよかった化粧品やケア用品をレビューしている。インスタっぽくお洒落にUIがデザインされているから若年層に特に人気で、またいいレビュワーは影響力を持ってインフルエンサーのようになっていく熱量も兼ね備えています。コスメレビュー自体は、すでにインスタグラムやYouTube、アットコスメなどで盛り上がっていたのですが、LIPSは若いスマホネイティブの人たちを中心に新しい場を生み出しています。

 こうした特化型のSNSは、今後も増えるのではないでしょうか。大きなサービスでは満たせないつながりや情報の質、また特化型ならではの熱量があるというのが特筆的です。そうしたサービスがたくさんローンチされ、この界隈全体にダイナミズムが生まれていくのは、とても面白く大切な傾向だと考えています。