さあ、熱いうちに食べましょう 料理エッセイ集 [著]入江麻木

 すさまじい日常からひととき逃避するには格好の、おとぎ話のような本。著者は小澤征爾夫人の母で、ロシア人の上流家庭に嫁ぎ、戦後には料理研究家となった。1970年代から没するまでの80年代後半にかけてのエッセーとレシピがまとめられている。
 私は詳細で丁寧な記述や仕草(しぐさ)に接すると、首筋から頭にかけて血管がぞわぞわする(いい意味で)性分だが、読みながらぞわぞわしっぱなしであった。嫁ぎ先で義父から教えられたロシア料理、義母から教えられた女性の生き方。様々なしきたりやパーティ。移り住んだ世界各国の情景と美味(おい)しそうな料理。くわしく書かれたレシピは、写真がないだけにいっそう想像をかきたてられる。
 戦時中の厳しい生活の話題にも触れているが、そのすべてが美しいもやのなかに包まれているようだ。そして本を置いて周りを見回し、さあここには何もないが、とにかく生きるのだ、と独り言(ご)つのである。