(1)石牟礼道子著『はにかみの国』(石風社、2002年刊) 人間として生きとし生けるものの間に存在し、限りある生命を生きることをめぐって紡がれた、素晴らしい詩集。『苦海浄土』の著者による詩作品の豊かさに触れることができる。その根底にあるものは深い直観と鋭い洞察だ。

 (2)渡辺京二著『逝きし世の面影 日本近代素描1』(葦書房、1998年刊) 日本社会の近代とそこに生きた人々、時の流れを見つめる視線に、深さと優しさがあり、感動を呼ぶ。現代の暮らしが失った事柄を考えさせられる。これからの日本社会を思い描くために、読み継がれるべき名著。

 (3)柄谷行人著『世界史の構造』(岩波書店、2010年刊) 交換様式の観点から社会を捉(とら)え直すという画期的な視座を展開する名著。現在と今後の社会を考えるために従来の見方を根本から考察し分析し直す方法には視野の広さと大胆さがあり、心打たれた。

 (4)原武史著『大正天皇』(朝日選書、2000年刊) それまで誰も書かなかった視点から大正天皇を考察した重要な書。大正天皇の独特の人物像が浮かび上がる。天皇制研究に新たな可能性を切り拓(ひら)いた本書は、斬新な発想と柔軟な視点の大切さを示す。社会を考える上で今後も必要な書。

 (5)網野善彦著『日本の歴史をよみなおす』(ちくまプリマーブックス、1991年刊) 日本の中世を根本的に捉え直した著者の論。本書は、若い読者にも読みやすいかたちで書かれている点がよい。親しみやすくかつ大切な書。=朝日新聞2020年2月5日掲載