この春、高校を卒業しプロサーファーとして東京オリンピックを目指す野中美波さん。子どもの頃から大好きな『ドラえもん』も、プロ選手としてオリンピック代表候補となった今、あらためて読み返してみると、以前とはまた違った発見と驚きがあるそう。辛いときにもそっと寄り添ってくれるドラえもんの優しさについて、野中さんに語っていただきました。

お話を聞いた⼈野中美波(のなか・みなみ)

2001年生まれ、埼玉県出身。株式会社RADTAKE所属のプロサーファー。国内外の大会において優秀な成績を記録し、2019年には権威あるISAワールド・ジュニア・サーフィン・チャンピオンシップU18で準優勝。今回の東京オリンピックから正式種目となったサーフィン日本代表強化A指定選手として注目を集めている。

プロになって、『ドラえもん』の読み方も変わった

――野中選手は、普段はあまり漫画を読まないと伺いましたが……?

 そうなんです。私はむしろ、普段は活字の本ばかり読んでいるんです。小学生の頃は恋愛小説ばかり読んでいたし、今でもネガティブな気持ちをポジティブに変えるために自己啓発本とか、メンタルに関する本を読むことが多いです。でも、今回は「おススメの漫画を紹介してほしい」ということだったので、迷いなく『ドラえもん』をおススメしたいと思います!

――普段は漫画を読まない野中選手でも、『ドラえもん』は読んでいるんですね。

 漫画を手に取るようになったきっかけは幼稚園の頃にテレビアニメを見たことでした。その後に映画を見て、すごく感動したんです。タイトルは忘れちゃったけど、ピー助という恐竜が出てくる作品で……。

――『ドラえもん のび太の恐竜』ですね。1980年に公開されて大ヒットして、2006年にリメイク版として『ドラえもん のび太の恐竜2006』が作られました。たぶん、この作品を見たんですね。

 あっ、そうです。『のび太の恐竜』を見て、すごく感動しました。幼いながらに、すごく感動してずっと泣いていたのを覚えています。それで、『ドラえもん』が好きになって、そこから漫画も読むようになりました。

©藤子・F・不二雄/小学館

――くしくも、2020年は『ドラえもん』50周年の記念の年でもあります。あらためて野中さんが考える『ドラえもん』の魅力とは何でしょうか?

 誰もが、「あったらいいな」とか、「こんなことができたらいいな」という思いを、さまざまな道具を使って、ドラえもんが実現してくれるところが魅力的ですよね。昔はただ単にそう考えていたんです。でも、最近は「ドラえもんが手助けしすぎないのもいいな」って思うようになりました。道具の力があればすぐに問題を解決することができるのに、ドラえもんはのび太君にいろいろトライさせてからようやく道具を出してあげるじゃないですか。だから、のび太君も少しずつ成長して行けるんだと思うんです。

――確かに、すぐに手助けはしないで、まずはのび太自身に挑戦させていますね。どうして、野中選手はそのように考えるようになったのですか?

 きっと、自分がプロサーファーになって真剣にサーフィンと向き合うようになったからだと思います。何の苦労もなくうまくいくことなんて、普通はないですよね。私の場合も、海外の大会に出場しても、グイグイと前に出てくる外国人選手に気後れして、本来の力を発揮できなかったこともありました。「うまくできないんじゃないか」ってネガティブな思いが強くなって、自分のサーフィンができなかったこともありました。そういうときに力を発揮できるようにするためには、「日頃から苦労することも大切なんじゃないのかな」って考えるようになりました。

――なるほど、プロとして生きていく上での実体験を通じて、『ドラえもん』の見方も変化していったんですね。

 さっき話に出た『のび太の恐竜』の中にも、ドラえもんのセリフで「自分の頭で考え、自分の力できりぬけてほしい!」というセリフに続けて、「ぼくはあくまで、かげから見守っていてあげるからね」という場面があるんです。こんな言葉を投げかけられたら、のび太君も頑張るじゃないですか。どちらかというと私自身はのび太君側で、見守られる側ですけど、でもドラえもんの気持ちにグッとくるんですよね(笑)。『ドラえもん』には名言が多いのでそういう点も大好きです。

私の周りにもドラえもんはたくさんいる

――他に、印象に残っているセリフなどはありますか?

 いろいろありますよ。「人にできて、君にだけできないことなんてあるものか!」みたいな喝を入れるタイプのセリフはやっぱりモチベーションを上げるのにはいいですね。大会に出る前にモチベーションやテンションを上げるにはぴったりの言葉だと思います。根本は優しくて、でもときにはあえて突き放す厳しさもあって、でもやっぱり最後は元気をくれる。ドラえもんはすごいと思います(笑)。

――野中選手にとって、ドラえもんみたいな存在の人はいますか?

 もちろん、たくさんいます。子どもの頃からサーフィンをやらせてくれた両親もそうだし、遠征費などを支えてくれる方、練習を見て下さる方、たくさんの方にお世話になっています。そういう方々に支えられていることを実感できるようになったから、小さい頃は「のび太君目線」だったのに、最近では「ドラえもん目線」で読むようになったのかもしれないですね。

――多くの方々の支えがあって、今の自分がいる。その思いがあるからこそ、『ドラえもん』の見方も変化していったんですね。

 プロサーファーとして活動はしていますけど、「お金を稼ぐ大変さを知ろう」という思いや、「少しでも遠征費の足しにしたい」という思いもあって、時間があるときにはアルバイトを始めました。そんなこともあって、今まで何も文句も言わずに海外練習のお金を出してくれた両親やサポートしてくださる方々のありがたさを痛感するようになりましたね。私の周りにも、ドラえもんはたくさんいるんだと思います(笑)。

――ところで、ドラえもんの道具の中では何が一番欲しいですか?

 やっぱり、どこでもドアですね。冬の時期だと寒い日本での練習は辛いので、この時期はいつも海外で練習をするんです。毎回9時間から10時間以上も飛行機で移動するんですけど、移動は本当に辛いですね。到着しても、しばらくの間は身体がバキバキで大変です。そんなときには、「あぁ、どこでもドアがあればいいのになぁ」って、いつも思いますね。4月にはオリンピック出場選手を決める大事な大会があるので、今年の2月も3月も海外で最終調整をしてきます。また長時間のフライトになるので、やっぱりどこでもドアが一番欲しいですね(笑)。

>野中美波選手が競技生活について語る後編は2月21日公開予定です。

『ドラえもん』藤子・F・不二雄、小学館、全45巻

藤子・F・不二雄による国民的漫画作品。22世紀からやってきたネコ型ロボット・ドラえもんが、四次元ポケットから繰り出すさまざまな道具を使って、勉強もスポーツも苦手な野比のび太を支えていく。のび太を取り巻くジャイアン、スネ夫、しずかちゃんたちとの日常を描いたSF(少し不思議な)作品。日本国内だけではなく、東南アジアを中心に世界中で大人気。アニメや映画化もされ、いずれも大ヒットを記録している。