短篇集ダブル サイドA・サイドB [著]パク・ミンギュ

 ガンの宣告を受ける。もう助からないという。田舎町からソウルに出て大学に行き、就職して、結婚もせずに十五年間ひたすら頑張ってきた。ならば自分は何のために生きてきたのか。
 休職し故郷の町に戻る。三十年前に友人と埋めたタイムカプセルを掘り返す。中には、ベトナム戦争帰りの叔父さんがくれた、軍用の羅針盤が入っていた。もう人生の方向なんてとっくに見失ってしまったのに。
 懐かしいみんなは、流れた時間分老けたまま、相変わらずでいてくれた。彼らと酒を酌み交わしながら、主人公は久しぶりの温もりを感じる。
 そしてスニムだ。主人公は彼女に、少女時代の面影を見る。独身の二人はおずおずと近づく。五月の川沿いの道を歩く。繫いだ手に力が入る。
 お互い今まで、いろんなことがあった。それでも今、自分は幸せだと言えるんじゃないか。「一瞬であっても/一人じゃないというあの気分が僕は、嫌ではなかった」
 本短篇集の冒頭に収録された「近所」は切ない。それは読者の誰もが、主人公に自分の姿を見てしまうからだ。あくせく働いて、気づけば月日が流れ、遠いと思っていた死に突然向かい合うことになる。
 でもそれだからこそ、ほんの少しの温かさが限りなく尊い。著者は言う。「最近は人間自体がマイノリティだと思う。誰もが不幸を抱えた、気の毒な存在ではないか」
 パク・ミンギュの作品は、人間の弱さにそっと寄り添ってくれる。それは、長篇『ピンポン』や『亡き王女のためのパヴァーヌ』でも変わりない。だから彼の作品は信用できる。
 本書には、SFやファンタジーなどを含む多様な短篇が収録されている。その全ての作品において、登場人物たちは精一杯苦闘し、死んでいく。そして読者は彼らと共に生きる意味を探す。韓国文学の最良の成果がここにある。
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 Park Mingyu 1968年生まれ。李箱文学賞ほか、韓国で数々の文学賞を受賞。著書に『カステラ』など。