名探偵シャーロック・ホームズと助手ワトソン、刑事ドラマ「相棒」の杉下右京とその部下たち――男性同士がコンビを組む「バディもの」は多いのに、どうして女性同士は少ないの? そんな思いに応える決定的な一冊が、2020年の小説界に投下された。芥川賞作家、藤野可織さんの長編第一作『ピエタとトランジ〈完全版〉』(講談社)。身のまわりに殺人事件を引き寄せてしまう体質の名探偵トランジと、親友ピエタの物語だ。

短編の「その後」年重ねた2人の関係は

 「ピエタとトランジ」は元々、13年に文芸誌「群像」で「8月の8つの短篇(たんぺん)」として掲載された作品のうちの一つだった。女子高生のピエタが年上の彼氏に会いに行く途中、電車のなかで転校生のトランジに出会う場面からはじまる。頭がよくて何でもお見通しのトランジに興味を持ち、彼氏に紹介しようと一緒に行ったアパートで見つけたのは、当人の刺殺体。トランジは、身近に殺人事件を引き寄せてしまう体質の名探偵だったのだ。

 「私は小さいときから『火曜サスペンス劇場』とか『名探偵コナン』が好きで。見ていると、行く先々で殺人が起こるじゃないですか。最初はそれを逆手に取るというか、皮肉った感じで書けたらと思ったんです」と笑う。

 それから3年後の16年、続編を連作短編として連載することにした。「自分でもすごく気に入ってる短編やったんです。前に自分で書いたもののことをあんまり考えないので、そういうことは私にとっては珍しくて」。一方で、どうしても気にかかることがあった。

 「『ピエタとトランジ』は、女子高生という言葉とイメージが持つステレオタイプに頼って書いたんですね。女子高生というのは、ちょっと破壊的で、めちゃくちゃだ、という実際とはちがう言説がある。私はそういうものに、すごく影響された世代だった」

 1990年代のコギャル全盛期に高校生活を送り、「みんな制服が好きで、ルーズソックスが好きで。私自身はそういうタイプとは遠かったけれども、そのイメージに対する嫌悪とあこがれが、私にはまだ同時にありまして。若さの特権のようなものをここで書いてしまった、乗っかってしまったと思ったんです」。

 だから、「これを長編にする意味があるとすれば、この2人が年を取ることだけだと思っていた」という。「ちゃんと年を取っても人生は進んでいくし、その人生はまったく色褪(あ)せない、ということを書く責任があると思いました」

 〈完全版〉では、ピエタとトランジは大学生になり、それぞれの職業に就き、さらに年を重ねていく。2人の関係はつづくが、ただしそれは恋愛ではない。「女性同士の友情って、私はいいものだなと思ってます。友情のままで人生の伴侶になるってことも十分にあるし、とてもすてきなことです」

 また、「男性のバディものはすごくたくさんあるのに、女性ってなかなかない」とも思っていた。どうしてなのだろうか?

 「男性同士のバディは、いわゆる家庭をおざなりにして、家庭の外の仕事や現象に立ち向かっていく余地があるんですよ。でも女性は、ある一定の時点で家庭を中心にすることを要請されるから、家庭の外にある女性のバディが成立しづらかったんだと思います」

 翻訳家の岸本佐知子さんは、本作の帯文に「これは、私がずっとずっと読みたいと思っていた、最強最高の女子バディ物語。」と寄せている。まさに、待望の一冊だ。(山崎聡)=朝日新聞2020年3月18日掲載