社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法 [著]西智弘

 編著者の西智弘が内科医ということにまず驚く。医者はとりあえず薬を処方してはくれるが、多忙で福祉のことなんか考えていないイメージがあった。しかし、本書がとりあげる「社会的処方」というのは、医療機関が患者の健康を維持していけるように、ヒアリングをして地域のサークルや団体を紹介するのだという。これは「患者の健康」を目標とする取り組みであり、同時に個人の「孤立」を防ぐための仕組みでもある。独居で人と関わりがなく、脱水症状で運ばれてきたおじいさんの「脱水症状」は治せても、背景の「孤立」は治しにくい、という例えがわかりやすい。イギリスではこうした問題意識から1980年ごろから「社会的処方」の取り組みが始まっており、医師や看護師、ソーシャルワーカー、薬剤師などが行うという。それを日本でどのように広げられるかという問いと、そのヒントになる先進的な事例がとりあげられている。
 「社会的処方」を考えるときに強調されるのは「どんな人でも地域をよくする能力・知識・技術を持っている」という認識の重要性だ。支援する側とされる側の垣根をとりはらい、医師やソーシャルワーカーなどの専門知識を絶対としない姿勢、とも言える。興味深いのは、いくら禁煙を説いても聞き入れなかった肺気腫の患者が、愛煙家の集いに参加をすすめると、仲間と大いに語って交流し、最終的に自ら健康のことを考え禁煙に成功した事例だ。患者が意固地になるとき、相手を叱って見限るかわりに、「これはどう?」と提示する。それは、単にひとつ選択肢が増えたのみならず、いつまでもダメな自分を、それでも心配してくれる人がいる、と感じてもらえるメッセージにもなるのだ。社会的処方の持つ可能性の幅広さを感じると同時に、人を支えるとは本当はどういうことか、それが医療や福祉の現場でどれほど実現されているか、改めて考えさせられた。
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 にし・ともひろ 1980年生まれ。川崎市立井田病院かわさき総合ケアセンター医師。緩和ケアなどに携わる。