上方の料理といえば京料理と思われがちですが、元来、京は着倒れで大阪こそがれっきとした食い倒れの町だ、と大阪生まれの人間としては一応、主張しておきたいところであります。

 京料理と大阪料理の味の違いは、私のような素人にでもくっきりわかる範囲だけでいうなら、京料理が素材を生かす利尻昆布を使うのに対し、大阪料理は旨味(うまみ)の強い真昆布を使う。

 使う魚も京都はグジに代表される日本海の魚、大阪は鯛に代表される瀬戸内海の魚というのは有名な話ですが、最近では漁場も流通も変化したし、イクラを料理の彩りに使われたって私としては何の文句もありませぬ。しかし、しかし、だからこそ、真昆布だけは変わらぬ大阪料理の真髄(しんずい)……なのですが、この真昆布に関して私には一つ悔いがあります。もう10年ほど昔に出した『めざせ日本一! 熱投!北海アニマルズ熱々!大阪オイデヤス』という長大な題の童話での悔い。

 この話は元々、あべ弘士画伯と大阪で呑(の)んでいた時に生まれた。画伯は旭山動物園の元飼育員であり、飼育員仲間で結成した強豪野球チーム、旭山アニマルズの正捕手にして主軸打者。で、飼育員じゃなく動物の選手が登場する野球絵本を作ろうということになった。「一番はチビトガリネズミだ。ストライクゾーンが狭いから常に出塁する。オジロワシも出すぞ。どんなホームランもフライングキャッチ! あ、捕手はヤマアラシにしよう。誰も本塁に近寄れない」などというので、「じゃ、大阪は食い倒れチーム。一番のタコヤキは爪楊枝(つまようじ)に慣れてるからヤマアラシの針なんか平気。二番は串カツね。腰を屈(かが)められないからバントは下手で、フライになっちゃうけど」とやってるうちに、絵本におさまりきれなくなって長編の童話になった。

 長編といっても小学生向けだし、全国区でわかりやすい選手起用となる。

 背番号10の不動の四番お好み焼きは、広島からトレード移籍した広島風お好み焼きが背番号を「じゅうじゅうで20」と自分より美味(おい)しそうにしたのを恨んで確執が生まれる。本拠地以外で人気のないきつねうどん、在日三世スターのキムチ……と先発オーダーを固めるなかで、ビジュアルがいまいち地味でプレーヤーとしても動きが悪そうな真昆布を外してしまった。

 が、今思うにやはり真昆布は登場させるべきだった。大阪オイデヤス前監督として「その奥深い教えが全選手に浸透している」とか「現役時代は試合前必ず水風呂に長く浸(つ)かって柔軟体操も怠らなかった」とか。それでコンニャク打法ならぬコンブ打法とまで書くと中高年世代にしか通じなくなるけど、うん、守備位置はやっぱ、調理順でファーストだったよねえ。=朝日新聞2020年3月21日掲載