お話を聞いた⼈わたなべあや絵本作家

1978年、東京都生まれ。武蔵野美術短期大学グラフィックデザイン科卒業。主な絵本に『おやすみやさい』『ごめんやさい』をはじめとする「おやさい生活えほん」シリーズ(ひかりのくに)、『なっとうぼうや』『はじめての たべもの いちにち あいうえお』(学研)、『おたんじょうびのケーキちゃん』(文・もとしたいづみ、佼成出版社)、『アイ・アイ・アイスクリーム・ショー!』(文・林木林、アリス館)などがある。

シリーズ誕生のきっかけは1本の電話から

―― おやすみ前のひととき。いっぱい遊んだほうれんそうちゃんは、眠たそうに大あくび。にんじんちゃんたちは、ぬいぐるみを取り合ってけんか中。そらまめちゃんたちは、あっちへころころ、こっちへころころ、楽しそうに遊んでいる。さあ、おやすみの時間だよ。わたなべあやさんの「おやさい生活えほん」シリーズの1作目『おやすみやさい』(ひかりのくに)は、かわいい野菜の子どもたちが気持ちのいい布団で眠りにつく様子を描いた絵本だ。

 きっかけは大阪の出版社からの1本の電話でした。ぜひ描いてほしい作品があるとのことで、その後、編集者さんが書いた企画書と、『おやすみやさい』『すっぽんぽーん』の2冊分の文章、おおまかな台割がFAXで送られてきたんです。企画書には、赤ちゃんに楽しく生活習慣を覚えさせることをテーマとした絵本だとありました。

 文章も魅力的で、読んだら頭の中にぱっと絵が浮かびました。私なりの表現で絵本として落とし込むこともイメージできたので、二つ返事で引き受けました。

 当初からシリーズ化したいと聞いていたので、まずはどんなタッチで描くべきか、じっくり考えました。編集者さんは『おとうふちゃん』(学研)の絵を気に入って声をかけてくださったそうなんですが、『おとうふちゃん』の絵は平面的で、ちょっと違うかなと思って。できるだけ定番絵本っぽい装いの絵にしたいけれど、どうすればいいのかと悩んでしまったので、夫に相談してみました。夫は私と同じく絵描きで、短大の子ども学科で図工を教えているんです。夫からのアドバイスで、影をつけて立体的なキャラクターにしてみたところ、とてもしっくり来たので、その技法で描いていくことにしました。

『おやすみやさい』(ひかりのくに)より。野菜の姿は写真や図鑑などを参考にして、リアルさにこだわった。ラフではもこもこしていたにんじんの葉っぱも、絵本ではより本物に近い形で表現されている

 背景はあえて描いていません。それ以前に手がけたお話の絵本では、背景もかなり描き込んでいたんですが、このシリーズは赤ちゃん向けなので、極力シンプルな形にしています。『おやすみやさい』では、夜だということがわかるように、後ろに窓だけ描きました。

―― とうもろこしのつぶつぶちゃんたちが、一人一人おまるに座って、おやすみ前のトイレを済ませる見開きは、わたなべさん自身もお気に入りのシーンだ。

 絵本の絵の楽しさって、文章には書かれていないことまで描かれているところだと思うんですよね。私自身、いろいろと想像して描き込んでいくのが好きなので、『おやすみやさい』でもいくつか私なりのアイデアを絵の中に付け加えています。たとえば、にんじんちゃんたちのけんかのシーン。最初のラフでは、枕を取り合う様子を描いていたんですが、途中でにんじんと言えば馬だよなと思いついて、枕ではなく馬のぬいぐるみにしてみました。

『おやすみやさい』(ひかりのくに)より。とうもろこしのつぶつぶちゃんたちは、おやすみ前のトイレタイム

 とうもろこしのつぶつぶちゃんたちのページは、小さな子どもがおまるでトイレする姿を想像しながら描いていくのが楽しかったですね。にこにこ笑顔で座っている子もいれば、うーんと顔を赤くしてがんばっている子もいたり、すっきりした表情で去っていく子もいたり……一人一人表情を描き分けているので、じっくり見てもらえたらうれしいです。

―― 同時出版された『おやすみやさい』と『すっぽんぽーん』から、シリーズ最新作『いれてくやさーい』まで、「おやさい生活えほん」は現在10作目まで出版されている。キャベツにたまねぎ、にんじん、じゃがいも、トマトといった定番野菜から、白菜、れんこん、ごぼう、さらにはもやしまで、さまざまな野菜が彩りも鮮やかに登場。どの野菜も表情豊かで、愛らしいキャラクターとして描かれている。

 子どもの頃、母がお弁当に入れてくれたピーマンの醤油炒めが大好きでした。母は料理が得意で、いろいろなものを作ってくれたのですが、私にとって母の味というと野菜料理が浮かびます。子どもに栄養のあるものを食べさせたいという思いもあったんでしょうね。私の子どもたちも野菜の好き嫌いはほとんどないので助かっていますが、野菜が苦手な子や、食わず嫌いで食べてくれない子もいると思うので、この絵本をきっかけに、野菜に愛着を感じてもらえたらいいなと思います。

「おやさい生活えほん」シリーズ当初に描いたキャラクターのラフ

 野菜をキャラクター化して描くのは、まったく苦になりません。これまでも食べ物が主役の絵本をいくつも作ってきましたが、私にとっては人間よりも食べ物の方が感情移入しやすくて、すんなり描けるんです。「おやさい生活えほん」シリーズでは、にんじんちゃんはやんちゃに、きゃべつちゃんはちょっぴりセクシーに、はくさいさんは肝っ玉母ちゃん風に……と、お話の中で見えてくるそれぞれの性格を手がかりにしつつ、野菜たちが元気に動き回る姿を想像しながら描くのを楽しんでいます。

 表紙には基本的に、お話の中に出てくる野菜を全員描いています。どの野菜を登場させるかで、表紙の雰囲気もがらりと変わってくるので、色合いも考えながら野菜のキャラクターを決めるようにしています。料理の盛り付けや、お弁当を詰めるのとちょっと似ていて面白いですね。

子育ての経験を生かした絵本作り

―― 「おやさい生活えほん」シリーズは、寝かしつけやお風呂、あいさつ、マナー、友達と遊ぶ際のルールなど、小さな子どもに教えておきたい生活習慣を題材にしている。いわゆる“しつけ絵本”とも言えるが、制作にあたっては、できるだけ押しつけがましくならないように注意したという。

 3作目の『ごめんやさい』以降は、私もそれまでの子育ての経験を生かしたり、周りから聞く子育ての困りごとを参考にしたりしつつ、編集者さんと相談しながらテーマを決めています。『かたづけやさーい』は息子が片付けをしなくて困っていたことから、『ごめんやさい』は甥っ子がなかなか「ごめんなさい」を言えないと聞いたことから生まれました。また、読者アンケートで「きょうだいげんかをテーマにしてほしい」とリクエストをもらったことがあって、我が家も兄妹げんかには手を焼いていたので、仲良く遊ぶことをテーマに『けんかはやめやさ〜い』を作りました。

『かたづけやさーい』(ひかりのくに)は、わたなべさん自身も特にお気に入りの一冊。色別に収納したり、誰が一番早くできるか競争したりと、お片付けの工夫が描かれている

 シリーズ全体を通して心がけているのは、必ずユーモアを入れること。しつけの要素が強すぎると、子どもにとっては面白いものではなくなってしまうし、読み聞かせするママやパパも楽しめないと思うからです。私も子どもたちが小さかった頃は、実家には頼りづらいし、夫の帰りも遅いしで、ひとりで大変な思いをしながら面倒を見ていたことがありました。そんな時に助けられたのが、子どもとの間でときどき起こる笑い。一緒に笑うだけで気持ちがほぐれて、心が楽になったんです。「おやさい生活えほん」シリーズの読者の皆さんにも、絵本をきっかけに少しでも親子一緒に笑う時間が増えたらいいなと願っています。

―― 担当編集者の退職を機に、9作目の『けんかはやめやさ〜い』以降は文章を夫のきだにやすのりさんが担当している。長年、わたなべさんの絵本制作を一番近くで見守ってきたきだにさんの存在は、わたなべさんにとって大きな支えだ。

 夫はシリーズ開始当初から、演出家のような立場で制作に関わってくれています。私は、キャラクターを考えて命を吹き込むところまでは得意なのですが、そのキャラクターがお話の中でどう動くとより伝わるか、夫が細かなところまで気づいて教えてくれるので、とても助かっています。夫からのアドバイスには、毎回「なるほど!」と感心させられてばかり。一人だと思いつくことも限られてしまいますが、夫がいることで、絵本の世界観が広がっていく気がします。一緒に絵本を作ってもらえて、本当にありがたいなと感謝しています。

―― 「おやさい生活えほん」シリーズは現在、来年の刊行を目標に企画を進めている。秋にはパネルシアターキットも発売される予定だ。

 パネルシアターキットは今、パネルシアター作家さんが文章を作ってくれているところだそうです。絵本から飛び出した野菜たちが、パネルシアターの中でどんな風に動き回るのか、私自身もとても楽しみです。

 3月に出版された『はじめての たべもの いちにち あいうえお』では、小さな子どもになじみの食べ物を「あいうえお」に当てはめて、一日の生活の様子を朝から夜まで順を追って紹介しています。「あわわと あくびの あいすくりーむ」から「にんじん すやすや ゆめの なか」まで、本当にたくさんの食べ物を描きました。五十音分の食べ物をリストアップして、リズミカルな文章にしていく段階が大変で、そこまでで1年以上かかったと思います。絵は1日2枚ペースで一気に描き進めました。

 食べ物の名前やひらがな、さらには英語にも親しめる絵本になっているので、親子で読んで楽しんでもらえたらうれしいですね。