本屋のある島を1人で訪ねている。

 2006年に創刊された『LOVE書店!』というフリーペーパーのために、全国の島を巡っては本屋のドアをガラガラと開けてきた。

 足かけ16年、北は礼文島から南は母島、西は与那国島まで色々訪ねてきたが、ここでは「離島じゃない本屋」、つまり街の本屋や村の本屋を中心に紹介していこうと思う。

 今回は千葉市にある、lighthouseという本屋に行くことにした。

 2019年夏、出版ジャーナリストの石橋毅史さんと、作家の温又柔さんのイベントの打ち上げで私は、1人の若者に出会った。若くないかもしれなかったが、ヤングに見えたのだ。彼は当時「千葉で書店をやっているけれど、別の書店でも働いている」というようなことを言っていた。その彼=関口竜平さんの店が、このlighthouseだった。

住宅街に鎮座する3色の小屋

 幕張本郷駅から京葉道路を横切り、10分ほど歩く。すると住宅街の一角に、青と赤と黄色に彩られた建物が鎮座していた。嫌でも目を引くそれは、小屋だった。見事なまでの小屋だった。

「本屋lighthouse」という看板が出ているものの、その脇には角材が置きっぱなしになっている。そして建物の後ろには、これから何かが作付けされると思われる、広い空き地があった。

lighthouseの壁には、文筆家で漫画家の小林エリコさんから近所の子どもまでによる、フリーダムな落書きが

「あ、こういうの嫌いじゃない」

 子供の頃、商店をやっていた友人宅の倉庫に集まり、おしゃべりをしたりマンガを読んだりしていた時のことをちょっと思い出した。店の中に入ると、導線を確保しつつ、びっしりと本が並んでいた。そしてお客さんが1人いて、関口さんがレジ前に座っていた。

「裏は祖父がやってる畑で、夏はナスやキュウリやプチトマトを作ってるんですけど、冬は休みなんですよ」

 そう語った関口さんに、表の3色について尋ねてみた。すると、

「2019年の台風で屋根が飛んだので外壁を補強したのですが、白いカバーが売り切れていたので、3色にしたんです。いやあ、以前の小屋よりもパワーアップしましたよ」

 という答えが返ってきた。

10平米以下の建物なら届けがいらない

 lighthouseの建物はすべて、関口さんの手作りだ。最初は木造にしようと思っていたものの、カラーボックスすら組み立てたことがなかった。だから「素人が木材を直角に組むのは不可能だ」と気づき、足場用の単管パイプをクランプという資材を使ってつなげ、内壁と外壁の間に断熱材を仕込んでいるという。参考資料は坂口恭平さんの『モバイルハウス 三万円で家をつくる』(集英社新書)だ。友人などに手伝ってもらったことはあるが、1年半かけて基本1人で作り続け、2019年5月1日から営業をスタートした。

 今の広さにした理由は、「10平米を超えると建築物として申請しないといけないが、それ以下なら物置扱いになる」から。とはいえ近所の人は突如建った小屋を見て、怪しまなかったのだろうか? 

「それが『関口さんのお孫さんね』と、おじいちゃん効果で意外と怪しまれませんでした(笑)」

 町内会や老人会の仕事で、長年ご近所との関わりが深いおじいちゃん効果が、その地代だったようだ。

 開店当初は在庫がなかったから古本を置いていたものの、現在は9割が新刊だ。1000冊近い本がひしめき合っていて、棚だけではなく引き出しにも収納されている。これは「六本木の『文喫』の雑誌コーナーから思いついた」という。

オープン・ザ・引き出しをするとそこにも本がぎっしり。それぞれの引き出しにはテーマがある

「楽しい人生を送るための、手伝いをしたかった」

 関口さんは1992年生まれの現在27歳で、「大学の入学式の年に3.11があった」世代だ。大学院修了後、「30歳ぐらいで独立して自分の本屋を始めよう」と思い、出版業界の全体が見渡せそうだからと、某取次会社に就職した。しかし本に携われる部署に配属されず「時間を無駄にできない」と、1カ月で辞めてしまった。

 とはいえ、いきなり独立するのは勇気がいる。だから生活費と経験を得るために、書籍の企画・編集・販売と取次代行を請け負う「トランスビュー」と、千葉県佐倉市にある「ときわ書房志津ステーションビル店」でダブルアルバイトを始めた。そこで働きながら自分の本屋を模索したところ、小屋に行き着いたそうだ。

 「自分の本屋を」と考えるほどなのだから、よほど本が好きだったのだろう。そう思ったが「小・中・高とサッカー少年で、本を全然読まなかった」という。

 「幼稚園から高校1年の終わりまで、ほぼサッカー漬けでした。中学は部活ではなく東京ヴェルディ傘下のジュニアユース、高校は東海大浦安です。でもケガで辞めてしまって。不完全燃焼だったから、自分が何をやりたいのかわからない状態で、とりあえず大学(法政大学英文科)に入りました」

 「教えるのは好きな方なので、教職を取ろうかと母校に実習に行きましたが、英語を教えるのではなく、楽しい学校生活を送る手伝いをしたかった、ひいては楽しい人生を送るための『何か』を得る手伝いをしたかったのだと気づきました。そして何より、サッカー少年だった僕は、仕事=本当にやりたいこと=仕事だと思わないものという価値観になってしまっていて、その点からも『教師は絶対違う』と思ったんです」

 そして進んだ大学院時代に、ジョージ・オーウェルの『1984』(ハヤカワepi文庫)を読み、「これって今の時代にリンクしているのでは?」と開眼したことで、本の海に引き込まれた。

 「大学院に行ってモラトリアムを2年のばして、本当にやりたいことは何か、仕事だと思わずにやれるものは何かを探そうと思ったわけです。修士論文を書きながら毎日大量の本を読んでいたら、『本の世界に触れているのは苦痛じゃないな』と気づいた。かつ、楽しい人生を送るための何かを得る手伝い、つまり本屋じゃん!とひらめいたんです。そこで新しい人生が始まったという感覚です」

 ところで関口さんが描く「自分の本屋」とは、どんなものなのだろう?

「個人(家族)経営で住居一体で、本屋+飲食+ライブスペースの3本柱で週休2日以上、できる限り働かない、です(笑)」

 とはいえ、時代によって何が最適かは変わってくるから、「カッチリした青写真」はないと笑う。人生は予定通り進まないもの、本屋だって思い描いたとおりにはならないこともある。「本屋は生きている」と言えるのかもしれない。

「腐ってる」と思う本は置かない

 品揃えは関口さんがセレクトしたものにこだわり、配本されるものは置いていない。

 「そもそも配本がないです(笑)」

 小規模な書店は、取次会社を通して本が送られてくる配本制度から除外されていることが多い。しかし今は、取次を通さずとも本を仕入れることができるようになった。関口さんにとって配本制度は「贅沢かつ悪い意味で無駄」だから、利用する理由がないのだ。

 その一方で、鹿子裕文さんの『ブードゥーラウンジ』(ナナロク社)など、関口さんが「これは!」と思った本への熱いプッシュがそこかしこに見られる。ちなみに ブードゥーラウンジは福岡の北天神にあるライブハウスで、同書は「ボーカルとギターをやってるから『ボギー!』」こと奥村ボギーさんをはじめ、店に集まる「得体のしれないエネルギーを発する変人たち」を描いたノンフィクションになっている。関口さんによれば「1ページ読むごとに「ブードゥーラウンジに行きたい」という感情が抑えきれなくなり、でも(中略)おいそれと福岡まで行くこともできない」と本気でジタバタしてしまうそうだ。

 また、在日外国人やLGBTを傷つける内容のものは、関口さんはで「腐った本」と呼び、一切置いていない。

 この日、客として訪れていた「ハンドルネーム13」さんは、2019年10月に発行された雑誌「BRUTUS」の本屋特集でlighthouseのことを知り、何度か足を運んでいると語った。目下ペルシア語学習中の13さんは、1時間以上棚をチェックしたりおしゃべりしたりと、マイペースに過ごしていた。その後やってきた、旅行雑誌を編集している内田さんは「近くに来る用事があったので、前から来たかったこの店に寄ってみた」そうだ。

 程なくすると近所の小学生軍団がやってきて、駄菓子のゼリーをお買いあげしていった。駄菓子を置くのは文京区小石川にある「てんしん書房」の中藤智幹さんから「子どもの多くは本を買うお金はないが、駄菓子なら買える」と聞いたから。地域の大人も子どもも通りすがりに立ち寄れる、そんな店にしたいからだ。

うっかり来ないように、次の営業日を店の前に告知している

 本を眺めて手に取ったり、壁のポップや「1月1日に店を開けたので書き初めた」という書き初めを眺めたりしているうちに、あっという間に2時間近く経ってしまった。すると「今日は16時で店を閉める」と、関口さんは言った。

 トランスビューとときわ書房のアルバイト今も続けているので、この日は店を閉めてときわ書房に行かねばならなかったのだ。だからlighthouseは日曜から木曜まではお休みで、金曜は15〜20時、土曜は12〜18時という変則的な営業時間になっている。

 「狭いので1人でしか閉店作業ができない」と言う関口さんを残し、13さんと2人で幕張本郷駅に向かう。「また機会があれば」と彼とも別れた電車内で、つい買ってしまった『ブードゥーラウンジ』を開くと、4ページ目にして笑いをこらえるのに必死になってしまった。

 やられた……。

 ここに来なければ知らないままだった本に出合える書店と出合えた喜びが、自分の中からじんわりと溢れてきた。

 

売れ筋

『わたしを空腹にしないほうがいい 改訂版』くどうれいん著(BOOKNERD)盛岡在住の歌人が言葉や食についてつづったエッセイ。版元は盛岡の書店。

『夫のちんぽが入らない』こだま著(講談社文庫)夫婦間のセックスレスを描いた話題作。

『なるべく働きたくない人のためのお金の話』大原扁理著(百万年書房)年収100万円以下で暮らした経験から「年収が下がるにつれて経済的不安から解放される」と説く本。