お話を聞いた⼈西本昌司(にしもと・しょうじ)街角地質学者

1966年、広島県生まれ。名古屋市科学館主任学芸員。博士(理学)。専門は、岩石学、地球科学、博物館教育。筑波大学第一学群自然学類卒業。同大学院地球科学研究科前期課程修了。名古屋大学博物館研究協力者、愛知大学非常勤講師、NPO法人日本サイエンスサービス理事。地球科学の振興につとめている。著書に『街の中で見つかる「すごい石」』『本当にわかる地球科学』(以上、日本実業出版社)、『地球のはじまりからダイジェスト』(合同出版)など。

【午後1時】待ち合わせ場所・JR東京駅丸の内南口(原敬・元首相の暗殺場所にて集合)

――あ、西本先生! 今日はよろしくお願いします。

 よろしくお願いします。さっそくですが、たくさんの人がドーム天井を見上げてますね。でも、見るべきは下です。幾何学模様になっているでしょう。これ全部、石で造られていて、化石まで入っている。私はここに来ると、下ばかり見ちゃいます。

――いきなり、この場所からガイド開始ですか。荘厳なドームですよね。首都・東京を代表する駅。

 東京駅丸の内南口のドームは、「下を見る」のがポイントです。竣工時のドームが復元される前、1層低い仮のドームがあったんですね。その天井デザインを、石材のモザイクで表現したそうです。石材は、いわゆる「大理石」で、一番白いのがギリシャ産「ドラマホワイト」。ベージュのはイタリア産「ボテチーノ」。グレーのものはイタリア産「グリジオカルニコ」。それから、黄土色のはスペイン産「エンペラドールダーク」……。

絵:前川明子

――うわ、うわ、メモが追い付かない。

 ヨーロッパの石材をわざわざ日本に輸入して、洗練されたデザインのモザイクの床をつくったのですから、「JRさん、気合入れたなあ」って思ってしまいます。

――すごく手間と暇が掛かっていますね。石を使うのは、機能的な、強度の観点からではなくて。

 デザイン重視ってことではないでしょうか。うまく表現できませんが、石造建築には独特の雰囲気がありますよね。セラミックやガラスを多用した建築物とは趣が違います。この床は正真正銘の大理石ですからね。しかも、丸の内南口と北口では、同様のデザインだけど使われている石が違うのですから、凝ってますよね。

――贅沢なんだなあ、東京駅。

 デザイナーさんの意図が多分にあるのだと思います。なぜこれらの大理石を選んだのか聞いてみたいですね。ちなみに、まわりの壁の上部はインド産、下の部分や柱にノルウェー産の石材です。これだけで、石材産地は何カ国になったでしょう。

【午後1時10分】 東京駅丸の内南口を出発

――待ち合わせ場所から一歩も動かずに10分経ってしまいました。外に出てみましょうか。

 赤レンガ造りの建物のイメージが強い東京駅丸の内駅舎ですが、例えばほら、黒い屋根や壁面の白い部分は石です。屋根は「雄勝石」あるいは「玄昌石」と呼ばれる宮城県石巻産の粘板岩。白い石のうち、窓枠は茨城県笠間市産の「稲田石」、壁の下の方に使われているのが岡山県笠岡市北木島で採れる「北木石」で、どちらも花崗岩という岩石です。

――東京駅建築のため、わざわざ瀬戸内海から運んできたのですね。

 瀬戸内海の島々では、江戸時代から花崗岩の採掘が盛んでした。北木島以外の島でも採掘されていたはずですが、「北木石」は営業売り込みが良かったのでしょうかね。

――石の名前と言えば、栃木の「大谷石」は、門外漢の私でも聞いたことがありますが……。

 「大谷石」は東京周辺の石垣などでよく見かけます。ただ、少々軟らかいので床に使うのには適しませんが、彫刻を施して装飾用に使います。愛知県の明治村に移築されている旧帝国ホテル玄関などが代表例ですね。最近は、喫茶店のカウンターなどで見かけるので、インテリアとして流行しているのかもしれません。

――さてさて、どこに向かいましょうか。

 その前に丸の内駅舎を、もう少しだけ。白い部分をよく見ると、パッチワークみたいに色違いの部分がありますよね。竣工当時の石材と新しい石材やコンクリートなどで補修された部分が混在しているからだと思います。おそらく、くすんだ色の部分が元々使われていた花崗岩でしょう。

――「昨日今日の、若輩者の石」がまざってるってことですね。

 街を歩いていても、そんな部分を見つけては、「うまく補修したね。でも気付いちゃった」なんてニヤニヤしてるわけです(笑)。

【午後1時15分】丸の内口地下通路

――地下に降り、団体待ち合わせ場所の方に向かって歩いています。

 まわりの壁が全部石なのですが、気付いてましたか?

――ほんとだ! 石だらけ。このへん、修学旅行生が待ち合わせする場所ですよね。

 ぜひ、待ち合わせ時間に見てほしいな。このベージュの大理石は「クレマヌォーバ」というトルコ産の石灰岩です。

――化粧板のようにツヤツヤですね。

 表面が磨かれていてツヤツヤでしょう! よく見てみると、ブチブチした網目模様があるじゃないですか。これ全部、サンゴの化石です。

――ええっ!? サンゴ?

 サンゴをスパッと切った断面が見えているわけです。

――点描でポンポンと打ったように見えますね。

 なるほど、いい表現ですね。もっとわかりやすい化石があるんですけど……どこだったかなあ。……あ、あった、あった! ほら、巻き貝!

――本当だ。10センチ弱で、完全な形状で残っていますね。

 おもしろいでしょ。探したくなってきましたか。ここの壁は化石だらけです。ジュラ紀の終わりから白亜紀初めの頃、およそ1.5億年前の二枚貝や巻貝の化石が見つかります。残念ながら化石の断面しか見られませんし、割ってみることもできません。断面だけを見て、何の化石なのか見分けることは難しいけれど、何気なく見えていた模様が、実はサンゴや貝などの化石だとわかるようになると面白いじゃないですか。

 この石は、もともとサンゴ礁だったのです。サンゴ礁は、石灰質の殻を持った貝や石灰藻などの死骸の集まりです。それが長い年月を経て固い岩石となり、1.5億年後にカットされて、「あ、綺麗だな!」って、人々を喜ばせているわけです。

――壮大な世界ですね。地下にいながら海を感じるのって、斬新で面白いですね。それにしても、地下街で、石をこんなに使うのって、世界の他都市も共通なのでしょうか。

 どうでしょうか。石の文化と言われるヨーロッパでは多いと思いますが・・・・・・。日本国内では、東京駅周辺は特に石が多く使われていると思います。丸ビルの地下入口は化石観察ポイントです。ほら、アンモナイト。

――ああ、凄い! テンション上がる!

 ビルの中にもいっぱいありますよ。これは「ベレムナイト」という化石。今の生き物でいうと、イカの甲みたいなもので、ライフルの弾丸のカタチをしています。軟体部は化石として残らないので、この部分だけ残っちゃった。断面しか見られないので、元の形を知らないと「何だこれ?」ってなりますよね。

――ただの模様としか見えない。

 ここにもアンモナイトがありますよ。考えてみてください。渦巻きの真ん中まで見えるように切断する確率って低いですよね。それが、たくさん見つかるというのですから、実際には目立たないアンモナイトがたくさん含まれているはずです。他にも、海綿や有孔虫などの化石が含まれていますから、この石材は化石の宝庫と言えます。ドイツ産の石灰岩で、石材としては「ジュライエロー」と呼ばれています。「ジュラ」は、もちろん「ジュラ紀」の「ジュラ」です。

――石材の名前を知ると、産地や岩石の種類が分かるようになるのですね。

 石材名は、ワインの銘柄のようなものです。ワインの銘柄が分かれば、生産地やブドウの種類、年代などが分かりますよね。石材も同じで、石材の種類・銘柄が分かれば、産地、岩石の種類、形成年代などが分かります。そうすると、どんな人がどのようにして運んできたのか、どのようにしてできた岩石なのか、背景にある物語にいろいろ想像をめぐらせることができるんです。

――深い世界ですね……。

 そうなんです。石材を通して、都市の文化や歴史、地球の変動の物語を垣間見ることができます。それで「街角地質学」ということにしたのです。さてさて、次はどこに行きましょう。上に行ってみましょうか。

【午後1時30分】「丸ビル」1階外観

――先生は、少年時代から石に興味を抱いていらっしゃったのですか。

 はっきりとは覚えていないのですが、きっかけとなったエピソードはいくつかあったように思います。例えば、父親と九州に旅行に行った時に、海岸の石を拾って水切りして遊んでいました。パンパンパーンって石を飛ばしたら、最後に沈むはずの石が浮いてしまいました。私は火山がない広島県出身で、軽石なんて見たことなかったものだから、とてもビックリして、軽石を大量に持って帰ったことがあります。小学校4年生の頃ですね。

 ……丸ビル1階の外壁に使われている石は珍しいのですよ。私はここでしか見たことがありません。

――黒い、荘厳な印象の石材ですね。どこの国の何という石なのでしょうか。

 米国に「レークプラシッド」って都市がありますね、かつて冬季五輪が開かれたことがある街です。その名を取って「レークプラシッド・ブルー」と呼ばれています。黒く見える部分をよく見ると、青く光ることがあります。学術名としては「アノーソサイト(斜長岩)」。月の高地もアノーソサイトです。今度は、石材が宇宙とリンクしちゃいましたね。

――こんどはお月さま!

 正確に言うと、同じアノーソサイト(斜長岩)でも、地球と月とでは成分はちょっと違うのですが、日本にはない珍しい岩石であることに違いありません。

――すごくふんだんに使っていますね。やるなあ、丸ビル。

 日本にない珍しいこの岩石をなぜ選んだのか、設計者に聞いてみないと分かりません。この丸の内界隈では、そんな珍しい石材に出会うことが多いですね。

――地下で太古との対話、地上で宇宙との対話。すごいな。

 最近のビルの外装はガラスであることが多いですね。特に高層部は……私にとっては、外壁に石が使われていないと寂しいですねぇ(笑)。

――丸ビル1階のオフィスロビーが見えてきました。壁、真っ白ですね。

 真っ白です。これは「シベックホワイト」というマケドニア産の大理石です。

――よく目を凝らすと、右上から左下に向かって層があるように見えます。

 これもデザイン。石にある縞模様をタテにするか、ナナメにするか、ヨコにするか。それはもうセンスですよね。最近はナナメのすることが多いようです。

――ほほう、トレンドがあるんですね。

 高度経済成長時代のビルだと、大理石の模様が対称になっています。そのことを知っていると「あ、これは70年代ごろかな」って推測できます。

――それにしても、誰がそのトレンドを決めているんでしょうね。興味深いなあ。

 石材の種類にも流行があるし、柄合わせにも流行がある。これを知っておくと街歩きは飽きません。でも、石材の種類は、慣れないと区別できないですけどね。……皇居のほうに歩く前に、ちょっと北側に行ってみましょうか。

――行幸通りを渡って北へ。じゃあ先生、新しいビルが完成すると、すぐ見に行かれるのですか。

 もちろん! 大きなビルができると石材を見に行きます。

 ここの駅前広場、中央部だけ白いでしょう。上から見るともっと分かりやすいんですけど、行幸通りの方向に白い筋があります。その白い敷石が「稲田石」です。

――丸の内中央口の前の広場ですね。

 「稲田石」は花崗岩の中でも白っぽい石材です。すぐに汚れてしまわないかなあ、って心配しちゃうくらい。このあたりから両側のビルを見比べてみましょう。丸ビルの外装には、高層部まで石材が貼られていますが、新丸ビルの外装には石が使われていませんね。好みではありますが、鉄骨剥き出しより、石材に覆われている丸ビルの方が好きですねぇ(笑)。

――本当ですね。丸ビル、新丸ビル。音叉のように同じ形のビルだと思っていました。

【午後1時50分】新丸ビルから永楽ビルディングへ

――「新丸ビル」1階をお邪魔にならないように通り抜け、皇居側に出てきました。地下街への入り口も、石造り。本当、こんなにも石だらけだとは気づきませんでした。

 この仲通りは石畳になっていて趣がありますね。アルゼンチン産の火山岩です。

――趣がありますよね、シックな感じ。

 そうですよね。道路も全部、石にしてほしいくらいです。日本工業倶楽部に使われている白っぽい石材も「稲田石」です。玄関まわりや柱、1階部分の外壁を「花崗岩」で造って、上の方をスクラッチタイルとテラコッタで仕上げています。この建物の中に入ってみたいなあ、たぶん、贅の限りを尽くした綺麗な大理石の暖炉があるんじゃないかと、勝手に想像しています(笑)。

――建設中のビルがところどころにあります。

 建築用の石材は今、殆ど中国で加工しています。昔は、建築現場で石材を加工していたらしいですが、今ではそんなスペースはとてもないですよね。そこで、鉄枠に石材を取り付けた状態で持ってきては設置していく「プレキャスト工法」でつくられます。すると国内で加工する必要が少なくなっていますね。石材からも産業の空洞化が見えるわけです。

――こちらは「丸の内永楽ビルディング」。今までとまた違う石に見えます。何だかゴージャスです。

 大きな赤い粒がたくさん入っていますね。「ガーネット」です。デカいでしょう。光が差すと、赤く輝いてきれいです。

――オフィスというよりは、高級ブティックがたくさん入っていそうなイメージになりますね。

 そうですね。ブラジル産の片麻岩で、石材の名前としては「ジャロサンタセシリア」と言います。岩石の名前も石材の名前も聞き慣れないかもしれません。

――岩石学としての名前と、石材としての名前が違う、というのも面白いですよね。複雑ですが。

 業界が違えば、名前をつける目的も違いますからね。

――丸の内永楽ビルディングの北側に移動してきました。大手町駅の地下入り口に通じるところですね。このへん、ここ10、20年に建て替わったエリアですよね。 

 さらに北にある「大手町ビル」に行くと面白いですので、ちょっと行ってみましょう。「大手町ビル」はこの辺では珍しく建て直されないで高度経済成長の頃の姿を残していて、私にとっては、超一級のビルです。

 入ってみましょう。あ、ちょっと改修工事ですね! 貴重な石材が姿を消してなければいいのですが!