天空のアリ植物 見上げる森には不思議がいっぱい [著]盛口満

 高知県の田舎で生まれ育った私は、身の回りに豊かな自然が満ち溢れていた。でもあまりに当たり前過ぎたためか、生き物にはほとんど興味がもてなかった。それどころか、夏の夜に私めがけて飛んでくるゴキブリに植え付けられた恐怖心は今でも残ったままだ。
 中高一貫校の理科教員だった著者は、虫・動物・植物が好きで好きで仕方ない生き物オタク。沖縄大学の学長になった今でも、授業とゼミを担当し、ゴキブリの描き方まで教えている。
 まず横向きの楕円(だえん)を、次に縦向きの変形した楕円を描いた後、その中に網目模様を書き込むこと。言われるまま描いた絵があまりにリアルで、描くのを断念する学生も出てくるらしい(至極当然だと思う)。
 この絵を描く作業を通じて、ゴキブリ、クモ、ムカデ、サソリ、カニ、ダンゴムシが異なる4グループに分類されることが学べるのだ(知ってました?)。
 イモムシの脚はどうなってる? チョウとガを見分けられる? こんな問いから始まる授業を受けていたら、この私ですら虫好きになっていたかもしれない。
 なんせ、わざわざエクアドルの熱帯雨林に出かけ、見たこともない大型ゴキブリや黄色と黒に染め分けられた派手なゴキブリを自ら探し出しては、猛烈に感動してしまう先生なのだ。
 本書の後半は、インドネシアで胡椒(こしょう)の取引をしている教え子を(3度も)訪ねた際の自然体験記だ。そこで出会うのがアリと共生するアリ植物の数々。
 とはいえ私には、現地で供されたニシキへビのカレーやリスの唐辛子炒めのほうがはるかに衝撃的だ(著者のイラスト付き!)。
 前著『生き物の描き方』で著者の描く本物以上にリアルなゴキブリのスケッチに閉口させられた私は、生き物愛と教え子愛あふれる本書にも魅了された。
 巣ごもりを余儀なくされる今だからこそ、在宅でインドネシアの自然を存分に満喫して頂きたい。
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もりぐち・みつる 1962年生まれ。沖縄大学長。著書に『雨の日は森へ』『となりの地衣類』など。