彼女の体とその他の断片 [著]カルメン・マリア・マチャド

 自分にとっての世界の見え方や価値観が、あらゆる価値や文化の評価基準だと信じている人たちは、いつも正しそうに見える。世界に対するみずからの解釈が、今、自分の生きているこの社会において最も支配的なナラティブと重なっているおかげで、自分は間違っているかもしれない、と疑う機会が彼らにはめったにおとずれないからだ。言うまでもなく、彼らがいつも正しそうにしているからといって、その正しさがあなたや私にとっても正しいとは限らない。この世界には「その他」の正しさが溢れている。
 『彼女の体とその他の断片』は、自分は間違っているかもしれない、と疑ってばかりいる人を、あなたこそ正しい、と鼓舞する小説集である。もしもあなたが自分に与えられた物語の中心をいつも他の誰かに独占されていると感じていれば、なおさらだ。この世界は自分が思っているよりももっとよいものだと感じられる物語を、他でもない自分自身のために書き換える勇気をこの本は与えてくれる。バラエティーに富んだ八篇の小説は、あなた自身の正しさに忠実であれ、自分の違和感の根源に敏感であれ、と絶えず囁(ささや)きかけてくる。「この世には特定の人にしか見ることのできない真実がある」のだから、と焚きつける。
 マチャドの言うとおりだ。さあ、今こそ、これまでずっと闇のなかに力ずくで捨て去ってきた断片の数々を掬いあげてリストアップしてゆこう。そこに宿っているはずの、私やあなたの真実を直視しよう。本書が堂々と証明するように「政治的であることと芸術的であることは両立する」と言うマチャドを信じて、私たちも本心を語るための言葉を磨くのだ。私やあなたが本気でそうすれば、この声が雑音なのだとは誰も言わなくなる。いつも正しそうに見える人たちもきっと「自分が見ているものは世界のすべてではない」と気づく。この世界は、いつも正しかった彼らのためにのみあるのではない。世界は、私やあなたや、ありとあらゆる「その他」の存在のものでもある。私たちの声が光の中に現れれば、彼らも含めた私たちみんなにとってのこの世界は、もっと複雑な彩りを獲得できるはず。
 「わたしは不可能なことが起こる世界を信じている。愛が残忍さに打ち勝ち、中和し、これまで一度もそうだったことはないけれど、新しくてより美しいものに姿を変える世界を」
 マチャドの言葉を信じよう。
 本書が、「エトセトラ(その他)」という名を冠する、まだ伝えられていない女性たちの声を届ける出版社から刊行されたことも特記に値する。
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 Carmen Maria Machado 1986年、米国生まれ。デビュー作である本書は全米批評家協会賞など9賞を受賞。ニューヨーク・タイムズ紙の「21世紀の小説と読み方を変える、女性作家の15作」にも選ばれた。