『これからのエリック・ホッファーのために』で三浦つとむ、南方熊楠など「在野」研究者の優れた先達16人を列伝風に見事に綴(つづ)った荒木優太が、知名度はさほど高くないが現役の在野研究者15人、その苦難の学問遍歴の自伝を編みあげた。『在野研究ビギナーズ』、大学を卒業・修了しても勉学を続けたいひと必携の好著だ。

 在野研究とは大学の教員職に依拠しない自由な研究。周知のように、90年代から推進された「大学院重点化」で大学院生が増えたものの、アカデミックポストの数がふえず生活に苦しむ研究者は多い。また晴れて大学教員になった者も広く研究の有用性の説明を強いられ、事務仕事もいよいよ煩雑になる。だからこそ「職」と研究を分離する在野研究に光明を見出(みいだ)す動きが広まる。本書はそんな志向をもつ人たちに、具体的な研究方法、論文のアウトプット方法と、いわば心情的な励ましとを、ともに伝えることで人生指南書の役割も果たす。けれどもさらに面白いのは、在野研究が必然的にもつ多様な拡(ひろ)がり自体ではないだろうか。

 大学での植物研究の折にふと魅せられたアシナガバエ。言説空間に現れる矢印の記号的役割。怪異・妖怪たち……。このように題材が非主流的でポップなだけではない。成果物ではなく生産過程に着目して在野研究者を支援する者がいたり、「分析哲学」を目指した者が広告代理店に入って上司から“ゼミ授業”を受け博士後期課程に入学してしまったりと、個々の生にも新しさがある。

 生業の日常に追われて全くない研究の時間をどう作るか、それぞれの苦心を読んでゆくうち彼・彼女らの不屈の人生に感情移入が起こる。元気になる。熱い本書が最終的に目指すのは在野ならではの脱領域性だろう。だから教育学者・山本哲士へのインタビューに重心がある。山本は言う。個々人で「どんどん別な自由な大学つくりなさいって」。=朝日新聞2020年5月2日掲載

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  明石書店・1980円=3刷1万2千部。2019年9月刊。読者アンケートをもとに紀伊国屋書店の書店員らが人文書ベスト30を選ぶ「紀伊国屋じんぶん大賞2020」の3位に。に安らぎと希望を感じさせてくれる作品に出会えたことに、一読者として感謝させて頂きたい。