看板に偽りなし、『ページをめくるとジャズが聞こえる 村井康司《ジャズと文学》の評論集』からは音楽が聞こえてくる。紹介されている小説に数々の曲が登場するから、あるいはQRコードで音源が聞ける凝ったつくりだから、というだけではない。著者の文章から、それは直接響いてくる。

 アメリカの作家ケルアックとビート世代はジャズと切り離せないが、著者は『地下街の人びと』に触れて「文体自体がとても『ビ・バップ』的だ」と書き、ケルアックの俳句を自ら日本語に移して紹介している。「指を鳴らせ! 世界を止めろ! 雨は激しく」

 村上春樹をはじめ、フィッツジェラルド、和田誠、佐藤泰志らの作品とジャズを縦横に語り、油井正一や相倉久人の評論について畏敬(いけい)の念と共に達意の筆でつづる。本書収録の書評の一つに「音楽体験とは知識や楽理とは異なる『感覚の体験』であり、その感覚的な気持ちよさを多くの聴き手と共有したい、と願う著者の熱意」が印象的という一文があった。同じことを本書に感じる。(福田宏樹)=朝日新聞2020年5月2日掲載