類(朝井まかて、集英社)

口福のレシピ(原田ひ香、小学館)

愛されなくても別に(武田綾乃、講談社)

 子どもは親を選べない、とわかっていても、自分はどうしてこの家に生まれてきたのかと悩むことはままある。

 歌人である中島歌子を主人公に据えた直木賞受賞作『恋歌』をはじめ、これまでに実在した人物を数多く小説として現代に甦(よみがえ)らせてきた朝井まかてが、今回『類』で描いたのは明治の文豪・森鴎外の末子だ。

 陸軍軍医でもあった父と同じく医学博士となった長男の於菟(おと)。森鴎外の娘として恥じぬ文章を雑誌や新聞に発表し、世へ出ていく長女・茉莉(まり)と次女・杏奴(あんぬ)。対して類は、学業不振で進学もままならず、画家を志し留学するも大成できない。陽のあたる場所で、偉大なる父にたっぷりと愛情を注がれ育った類の心は、次第に枯れしおれていく。

 鴎外の子として生まれながら、何者にもなれぬ苦悩と葛藤を抱え、それでいて妻や子を得ても浮世離れしたままの類の姿には様々な感情をかき立てられる。けれど、同時にままならぬ人生を生き抜く力を授けられたような心地に、多くの読者がなるだろう。もしも自分が類の親や兄姉や妻や子だったら。そう考えてみるのも一興だ。

 原田ひ香『口福のレシピ』の主人公品川留希子は、祖母と母が経営する老舗料理学校の後を継ぐことに反発し、独自の道を歩む三十路(みそじ)女子。

 歴史ある家業への反発を含めた複雑な母娘関係の機微や、留希子が直面する仕事の厳しさなど、唸(うな)りどころは多々あるが、随所に挿入される昭和初期に品川家で奉公していた山田しずえのエピソードがとても良い。今では検索ひとつで手に入る料理レシピを、そうか、昔はまさにこうして手探りで作ったのかと軽く興奮してしまうほど。『ランチ酒』シリーズなど、美味(おい)しい料理小説には定評のある作者だが、多彩なメニューが登場する本書の一押しは物語の鍵ともなる「生姜(しょうが)焼き」。定番の秘訣(ひけつ)、読んだらぜひ、お試しあれ。

 三冊目、武田綾乃『愛されなくても別に』は、厳しい現実のなかで喘(あえ)いでいる人々の救いとなる衝撃作だ。

 自らの大学生活を〈クソだ〉と吐き捨てる宮田陽彩(ひいろ)は、学費と生活費を稼ぐため、週に6日深夜のコンビニでアルバイトをしている。母親とふたり暮らしの家に月8万円を入れ、掃除洗濯炊事などすべての家事もこなす。母親が働いていないわけではない。暴力的に支配されているわけでもない。毎朝「愛してるわ、陽彩」と言ってくれる言葉に嘘はないと思う。でも、だけど。

 出口がわからず途方に暮れていた陽彩が、自分の居場所を見つけ出し、家族の呪縛を解くまでの姿に、胸が熱くなる。親は選べない。でも捨てることはできる。その勇気がここにある。=朝日新聞2020年9月23日掲載