うるはしみにくし あなたのともだち(澤村伊智、双葉社)

来世の記憶(藤野可織、KADOKAWA)

妖しい戦国 乱世の怪談・奇談(東郷隆、出版芸術社)

 『ぼぎわんが、来る』(二〇一五年)で衝撃的というか圧倒的なデビューを飾って以来、コンスタントなペースで話題作を送りだしている澤村伊智。ミステリーからSFまで器用にこなす才腕はたいしたものだが、その基底には常に、頑固なまでのホラー魂が息づいているかのようで、嬉(うれ)しいかぎり。隣接ジャンルと違ってシリーズ化の難しい〈ホラー〉というジャンルの可能性をぐいぐい押し広げるかのような膂力(りょりょく)を感じさせてくれる。

 最新長篇(ちょうへん)『うるはしみにくし あなたのともだち』もまた、そんな澤村の面目躍如たる好篇となった。呪文のようなタイトルは、まさしく級友たちの顔を醜く変えてしまう呪いの力を秘めた言葉である。ありふれた都立高校の一クラスで連続する怪奇現象。その背後に不気味に揺曳(ようえい)する真犯人とは? いわゆる〈学校の怪談〉テーマを正攻法で追求した作品だが、各章の冒頭に掲げられた作家作品名――残寿にはじまり、岡本綺堂や田中貢太郎、楳図かずお等々――が暗示するように、これは実のところ、日本的怪談の根幹に関わる底深いテーマでもあるのだ。『リング』や『六番目の小夜子』の正統なる継承者が、ここに!

 ジャンル横断という点では、藤野可織もまた、軽々とジャンルの枷(かせ)を飛び越えて、自らの世界を思うさま展開してみせる得がたい才能だろう。最新の短篇&掌篇集『来世の記憶』には、そんな藤野のさまざまな〈こだわり〉を窺(うかが)わせる二十の物語が詰め込まれている。話題を呼んだ長篇『ピエタとトランジ〈完全版〉』にも一脈通ずる、もうひとつの奇妙奇天烈(きてれつ)な〈世界の終末〉の物語である「スパゲティ禍」、作者にとってトラウマの一つとおぼしき〈怪獣〉をめぐる、痛くて愛(いと)おしき物語「怪獣を虐待する」ほか、一筋縄ではいかないフジノ世界の入門書としても最適な一冊かも知れない。

 東郷隆『妖しい戦国 乱世の怪談・奇談』は、刀剣や甲冑(かっちゅう)をめぐる怪奇幻想譚(たん)の名手として定評ある作者が、自作の糧ともなってきた乱世の怪異を、物語仕立てで再話した物語集。作者が「まえがき」などで述べるように、日本の怪異譚は『今昔物語』をはじめとする平安朝の説話文学と、『伽婢子(おとぎぼうこ)』に始まる江戸の怪異小説集を二つの頂点として、戦国乱世のそれは、従来あまり顧みられることがなかった。その意味で本書は貴重な労作でもある。

 明智光秀による信長襲撃の前後に出現した奇怪な現象を、信長の忠臣・森蘭丸と光秀自身の視点から綴(つづ)った作品から幕を開ける構成で、大河ドラマのファンにも一読をお勧めしたい、興趣尽きない怪奇物語集となっている。=朝日新聞2020年9月23日掲載