スター [著]朝井リョウ

 テレビより動画サイト。新聞ではなくネットのニュース。電話やメールよりもSNS。ある世代から下ではもはや普通になったそれらの状況に、違和感や寂しさを覚えている人もいるだろう。そんな方にぜひお読みいただきたい。
 尚吾(しょうご)と紘(こう)は、学生時代に一緒に作った映画で新人の登竜門となる映画賞を受賞した。卒業後、尚吾は巨匠と呼ばれる名監督に弟子入りし、紘はYouTubeの映像の編集に携わる。
 選ばれた制作者で品質にこだわり抜くがゆえに有料の映画と、無料で世に出せて拡散されやすい代わりに品質が担保されない動画。対照的なふたつの世界を舞台に、ふたりが抱くジレンマとやり甲斐(がい)が交互に綴られていく。
 興味深いのは、その題材から連想されるような二項対立の物語ではないということだ。新と旧、素人とプロのどちらが勝ちという話ではない。胡散(うさん)臭い印象だった動画サイトのリアルを知って蒙(もう)を啓(ひら)かれる一方、映画界が抱える問題に触れて考えさせられることもある。古い中に受け継いでいくべきものがあり、新しさの中に瞠目(どうもく)すべき発見がある。知らなかった価値観を知らされ、一章ごとに著者の掌の上でころころと転がされる。実に刺戟(しげき)的だ。
 ここにあるのは、価値も質も時代によって変わるという厳然たる事実だ。表現者たちはその中で足搔(あが)く。趣味や嗜好(しこう)が多様化という言葉では追いつかないほど細分化された今、何を基準に、誰に向けてものを作るのか。そのとき自分の拠(よ)り所となる信念は何なのか。これはすべての職業に当てはまるテーマだろう。そして同時に、受け手としての自分が何を望んでいるのかを、再度見つめ直す行為でもあるのだ。
 YouTube出身の人気者や小説投稿サイトから生まれたヒット作と、大作映画や直木賞作家の作品が並び立つ現代。それは分断や対立ではなく、豊穣(ほうじょう)な世界の証明なのである。
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 あさい・りょう 1989年生まれ。2009年、『桐島、部活やめるってよ』でデビュー。13年に『何者』で直木賞。