東京証券取引所に上場する企業の株式時価総額トップ20には、自動車関連企業は2社しか入っていない(10月16日現在)。1位のトヨタ自動車(時価総額22兆2830億円)と12位のモーター大手の日本電産(同6兆194億円)だ。

 国内自動車大手3社のうち、ホンダ(同5兆5847億円)は23位、日産自動車(同1兆5696億円)は87位と沈む。ただし、1位のトヨタでさえ、世界的に見れば新興の電気自動車(EV)メーカー、米テスラ(同41兆449億円)のほぼ半分だ。 

 日本の自動車関連企業の時価総額の低迷は何を意味するのか。株価には将来の期待値が過度に反映されるケースもあるため、テスラの躍進を「EVバブル」だと評する向きもある。しかし、筆者はそう思わない。確かに一時のテスラは話題先行で、商品の生産能力が追い付かない面はあったが、今は中国・上海に巨大工場を完成させて販売を伸ばしており、来年にはドイツ・ベルリン近郊に新工場がオープンする予定だ。コロナ禍の中でも着実にグローバル戦略を進めている。


永守重信氏(日本電産会長) ©AFLO

コロナ危機でも増益を確保した日本電産

 テスラと同様に、車載事業に積極的に投資し、コロナ禍の中でもグローバル展開の手を緩めないのが日本電産だ。同社の車載事業の中核を担うのがEVの心臓部と言われるモーターとそれを制御する半導体、ギアが一体となった「トラクションモーターシステム」である。同社はパソコンなどの記憶媒体「HDD(ハードディスク)」を動かすモーターで世界シェアの80%以上を握っているが、トラクションモーターでも2030年までに世界シェア35%の獲得を狙う。それに伴って、売上高を現在の7倍近い10兆円に到達させる目標を掲げている。

 足元の業績も好調だ。直近の2020年4〜6月期の第1・四半期決算では、グローバル製造業が軒並み赤字に陥る中、本業のもうけを示す営業利益が前年同期比1.7%増の281億円、営業利益率も0.6ポイント増の8.3%だった。

 日本電産がコロナ危機の中で増益を確保できたのは、「武器」をもっているからだ。「WPR(ダブル・プロフィット・レシオ)」と呼ばれる、徹底した無駄な経費の削減を柱の一つとする日本電産独自の経営術である。2008年、リーマンショックの際に売上高が半分に落ちた時に始めると、翌年の2009年度には過去最高益を記録した。

「秘伝の書」はバージョン4に

 1930年代の世界恐慌の頃でも成長が止まらなかった企業の資料などを徹底的に調べ、業種などが違っても応用できる考え方やノウハウをマニュアル化した、いわば「秘伝の書」だ。導入以来、改定を続けて今回のコロナ禍によってバージョン4となった。

 経費の削減と言っても単純な「ケチケチ作戦」ではない。コロナ禍にあたっては、発想の大転換も行った。たとえば、残業を減らすのではなくゼロにしてもアウトプット(生産性)が落ちない働き方について示し、実務面では、外注から内製強化、生産性の低い製造ラインの削減、グローバル購買の強化などを徹底することでコストを落とした。

 さらには、職場で1円以上のものを購入する際には稟議書を書かせる「1円稟議」も徹底した。「稟議書を作成するだけで1円以上のコストがかかってしまう」とする批判の声も上がりそうだが、狙いはもっと深いところにある。たとえば、トイレットペーパーや鉛筆などであっても、納入業者の言い値で買っていないか、購入価格を他社と比較しているかなどを徹底して調べさせ、日常の意識や行動を変えさせることにあるのだ。