「生きてさえいてくれれば、その後はある」 NSC講師が見た“芸人にならなかった教え子たち” から続く

 吉本総合芸能学院(NSC)東京校の講師として、EXITなど6000人近くの生徒を育て、放送作家としても活躍する桝本壮志氏が青春群像小説、『 三人 』を刊行した。新型コロナウイルス発生前まで、スピードワゴンの小沢一敬氏、チュートリアルの徳井義実氏という同期の2人と、都内の一軒家で同居していた桝本氏。今までの経験をモチーフに、芸能の世界や芸人の浮き沈みを描いた力作について話を聞いた。

(取材・構成:吉田大助)


桝本壮志さん

小沢と徳井はあくまで「6000分の2」です

──小沢さんと徳井さん、そして桝本さんが、シェアハウスをしていたと聞いたことがある人は少なくないと思います。この『三人』という小説も、お笑いの世界に生きる男3人がシェアハウスしている設定ではあるのですが……いい意味でイメージが裏切られました。三者三様の形でもがきにもがき、人生を変化させようとする男たちの話ですよね。

桝本 小沢と徳井と僕の、中年おじさん3人の和気藹々とした日常が書かれたエッセイみたいなものだと思ってらっしゃる方もいるかもしれませんが、違います。僕がこの小説で書きたかったのは、芸人のリアルです。芸人と、芸人を支えるテレビマンのリアル。

 僕は放送作家をやりながら、10年前からNSCの講師もやるようになり、これまで6000人近くの芸人の卵と出会ってきました。卒業する時、みんなにLINEを公開しているんですよ。普段から相談事の連絡ももらいますし、去年は2000通くらい「あけましておめでとう」が来ました(笑)。彼らの近況報告を受けながら、教え子が芸人として悩んでいたり壁をぶち破ったり、あるいは芸人を辞めて新しい人生を歩んでいく姿を、常日頃から見てきたんです。

 そんな中で感じていったリアルを、表現してみたいなと思いました。イメージとしては、従軍記者ですね。もともと僕はNSCに入りながらも作家になった元脱走兵で、いわば芸人の世界から逃げ出した人間です。僕は笑いという鉄砲も刀も振り回せないけれども、そんな自分にもできることはあるんじゃないのか。最前線に繰り出した新兵たちに従軍させてもらいながら、一緒に泣いて笑っていろんな現実を見たという経験をたくさんメモして、リアルがよりリアルに感じられるよう小説というかたちに加工して、本を通して伝えることはできるんじゃないか。

 放送作家として一緒に仕事をさせてもらっている、トップランナーの芸人さんたちから得たことや学んだことも、小説の中には入っています。新型コロナウイルスが流行する前までシェアハウスしていた、一番近くで見続けた芸人である小沢と徳井のことも、もちろん入っている。ただ、この小説にとって小沢と徳井はあくまでも、僕がこれまで見てきた芸人たちの「6000分の2」に過ぎないんです。