衝撃の論文発表――「セックス未経験」は雇用や収入のせいなのか?

「草食系男子」が増えている――。

 近年、「日本人のセックスレス」傾向が強まっていることは度々指摘されてきた。欧米メディアでもさかんに取り上げられている。

 だが、実はこうした議論は、正確なデータに基づいたものではなかった。そもそも「日本人の性生活」の実態を示す調査がなされていなかったからだ。

 そんななか、4月初めに英国の医療雑誌に掲載された1本の論文が大きな反響を呼んだ。

「日本成人における異性間性交渉未経験の割合の推移について」と題された論文で、責任著者は、スウェーデン在住の医師で疫学研究者の上田ピーター氏(33)。上田氏は、スウェーデン人の父と日本人の母をもち、日本への留学経験もあり、現在、東京大学大学院医学系研究科の渋谷健司研究室にも客員教授として籍を置いている。


©iStock.com

 上田氏によると、「日本国内だけでなく、国外からも大きな反響があり、CNN、『ニューズウィーク』、『フォーブス』、『ガーディアン』、『インデペンデント』など大手メディアのほか、アジアのメディアからも取材や問い合わせがあった」という。

 上田氏を始めとする調査チームは、厚生労働省の「出生動向基本調査」と「国勢調査」を元に、(1)年齢グループ別に異性間性交渉未経験の割合を推定し、(2)「未経験者」の割合の推移を時系列的に追い、(3)「未経験」と社会的・地域的要因(「収入」「学歴」「雇用形態」「住居地域」「居住地区の人口規模や人口密度」)の関連性を明らかにしようとした。

 その結果、他の先進国に比べ、日本人の性交渉活動の開始年齢は遅く、「未経験率」は極めて高く、その「未経験率」は近年上昇傾向にあり、とくに男女とも30代での「未経験率」が高いことが分かったという。

 さらに興味深いのは、男子では「未経験率」と「雇用形態」「収入」との間に強い相関関係があること、「未経験率」に地域差があることだ。

「『正規雇用』の男性に比べ、アルバイトなど『非正規雇用』の男性は、『未経験』である確率が約4倍で、『無職』では約8倍となっています。さらに『収入』は、男性の場合、『雇用形態』以上に強い相関性があることが分かりました。たとえば年収800万円以上の男性に比べ、年収99万円以下の男性は、『未経験』である確率が約20倍という結果が出ました」

「男性の25〜39歳で見ると、『未経験』である確率が低いのは、北海道、九州・沖縄、中国・四国の順です。次に中部で、『未経験』である確率が最も高いのは、関東と近畿です。女性の場合もほぼ同じ傾向です」

 その上で上田氏はこう述べている。

「出生動向基本調査には、自分の一生を通じて考えた場合に『いずれ結婚するつもり』もしくは『一生結婚するつもりはない』のいずれかを選ぶ質問があります。

 2010年の調査では、18歳〜39歳の『未経験者』で、『生涯を通じて結婚の希望がある人』の割合は、女性で85.8%、男性で82.8%でした。25歳〜39歳で見ても、女性で81.0%、男性で78.2%です。つまり、『未経験者』の8割近くは、結婚を望んでいます。ここから、『未経験』は、必ずしもみずから望んだものではなく、他の要因が影響している可能性がある、と推測できるわけです。

 自分の意志の結果なのであれば、『未経験』を問題にする必要などありません。しかし、もしそれが本意ではなく、他の要因も絡んでいるのだとすれば、問題にすべきでしょう。日本の大きな課題である少子化にも関係している可能性があるとすれば、なおさらです」

 今回の調査の意義を上田氏自らが解説した「30代の150万人が『性交渉未経験』」の全文は、 「文藝春秋」6月号 に掲載されている。

 日本人の「性行動」に、どの程度「経済的要因」が影響しているのか。さらなる研究が待たれるところだ。

(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年6月号)


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