仕事に就かず、外出もせず、何年も自分の部屋に閉じこもったまま……そうした状態で日々を過ごす「ひきこもり」が全国に115万人存在するという驚愕のデータが厚生労働省から発表された。

 政府も対策に躍起になっている。しかし、ひきこもりになったきっかけが1人ひとり異なるだけに、全ての人に対して万能な解決策は存在しない。対策を推し進める一方で新たに「8050問題」が発生したり、東京都練馬区でひきこもりの長男を元農林水産省事務次官が殺害するという痛ましい事件が起こっていたりするのが実情だ。

 そんなひきこもりについて、私たちは実際のところどの程度理解しているのだろうか。ひきこもりの治療に携ること10年、精神科医として現場で蓄積したノウハウをまとめた1冊『 改訂版 社会的ひきこもり 』からひきこもりに対する正しい知識、そして対処の仕方を紹介する。

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「特効薬」はない


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 社会的ひきこもり事例の治療に際して、まず確実にいえることは、相談が持ち込まれた時には、状況がかなりこじれてしまっているということです。いったんこじれてしまった場合は、もはや周囲がどのように働きかけても、好ましい変化は起こりにくくなっています。それどころか、働きかけること自体が、本人を追いつめる結果になってしまいがちです。

 ですから、まず家族が理解しなければならないのは、このような状態から短期間で立ち直らせる特効薬はないということです。ともかく、じっくりと腰を据えてとりくむほかはない。しばしば、家族や治療者の励ましや適切なアドヴァイスによって、一気に立ち直ったかのような事例が紹介されます。しかし、私の経験では、このような「美談」は、ありえないとまではいいませんが、まったく例外的なものです。そうでなければ、そうした励ましの効果は一過性のことが多い気がします。一般的にひきこもり状態からの立ち直りには、短くても半年、平均して2〜3年以上の時間が必要となります。もちろん、これはあくまでも、適切な対応がなされていた場合の話です。

 ひきこもりをはじめとする思春期の問題に対しては、「周囲がどれだけ待つことができるか」が、その後の経過を大きく左右します。したがって家族の基本的な構えとしては、「本人の人格的な成熟を、ゆっくり伴走しながら待ち続ける」ことが必要となります。「焦り」は何ももたらしません。むしろ、慢性的な焦りこそが「ひきこもりシステム」を強化してしまいます。