「このまま基礎科学研究が衰退してしまっては、日本は最終的に“三等国”に成り下がってしまうのではないかと危惧しています」

 そう警鐘を鳴らすのは、2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章氏(61・東京大学宇宙線研究所所長)だ。

「文藝春秋」4月号で、作家・数学者の藤原正彦氏(76)と梶田氏が日本における大学研究や教育の現状について語りあった。


梶田隆章氏 ©文藝春秋

高校での「文理選択」で失われるもの

 話題は高校教育へ――。

 梶田氏が指摘したのは、多くの高校で早くから大学受験のために「文理選択」がおこなわれているということだった。早期に進路選択をさせることで、子供達が幅広い分野に興味を持つ機会を失っていると言う。

「理系と文系はそれぞれが独立したものではなく、お互いに補いあう立場にあるのではないでしょうか。(中略)理系の世界では『AであればBである』というはっきりとしたことが言えますが、人間の世界はAであっても必ずしもBとなるわけではない。文系の学問の少なくともその一面は、様々な面から人間社会や人間そのものについて理解していこうという取り組みですよね。その営みの姿勢、重要性を忘れちゃいけないんじゃないかと思うんです」(梶田氏)

“文系的なもの”から科学が生まれた

 それを受けて藤原氏は、文理の“補完性”についてある例を挙げた。

「文系と理系が互いに補完的な役割を果たし、社会にとって重要な変化が生まれたという例があります。ヨーロッパで起こった『ルネサンス』以降の流れです。まずは14世紀から16世紀にかけて、ギリシア・ローマの文化を復興しようという動きが起こり、思想、文学、美術などで新しい文化が生み出されていきました。それを受けて16世紀に『宗教改革』、そして17世紀にはニュートンなどによって『科学革命』が起こり、18世紀からは『産業革命』の波が一気に押し寄せました。文系的なものから科学が生まれ、科学から技術が生まれたのです。文系と理系のどちらが欠けても、社会は発展していきません」(藤原氏)