前川喜平氏を呼びつけた首相補佐官の正体――「官邸官僚」の研究

 平穏だった国会が財務省の文書改ざんの発覚を契機に炎上し、今も沈静化する兆しが見えない。与野党攻防のテーマは「いつ、何のために、誰の指示で公文書を改ざんしたのか」だ。それは、明確な犯罪行為に対するすこぶる単純な疑問の解明というほかない。

 だが、その解明がなかなか進まない。原因の一つは、文書改ざんの動機が「忖度」という目に見えない内心問題にすり替えられ、「指示」系統がはっきりしないからだ。

「まさか首相自らが、公文書偽造という犯罪を指示するわけがない」

 そう信じている国民感情も理解できなくはない。が、反対に誰の指図もなく、官僚が自ら犯罪に手を染めるのも不自然だ。そんな「忖度」問題に触れるにつけ、一連の森友・加計問題におけるもう一つのキーワードを思い出した。「総理のご意向」である。

高級官僚を動かしているキーパーソンの一人

「総理が自分の口からは言えないから、私が代わって言う」

 加計学園の獣医学部新設を巡り、当時、文部科学事務次官だった前川喜平(63)にそう迫ったとされるのが首相補佐官の和泉洋人(64)だ。


和泉首相補佐官 ©共同通信社

 2016年9月9日、和泉から官邸4階にある自室に呼び出され、国家戦略特区での獣医学部設置について早急に対応するよう、圧力をかけられた――こう告発する前川とともに昨年7月、国会に参考人招致された和泉は、前川との面会の事実は認めたものの「(総理に代わって云々とは)言わなかったと思う」と言葉を濁していた。

 今の安倍晋三政権は、政権ナンバー2である官房長官の菅義偉と副総理兼財務大臣の麻生太郎に支えられているという。が、その実、霞が関の官僚抜きではとても政策の立案や行政の執行がおぼつかない。

 一強と持て囃されてきた安倍政権の政策を実現する官僚たちを従え、指図してきたのは誰か。事実上、高級官僚を動かしているキーパーソンが存在する。そのうちの一人が、首相補佐官の和泉である。加計問題で評判になったように、文字どおり首相や官房長官になり代わり、ときに中央省庁の幹部たちを呼びつけ、直接指令を飛ばしてきた。総理の影が官房長官の菅なら、和泉は影の影とでもいえばいいだろうか。いまや霞が関最強官僚の一人といっていい。

 一口に霞が関のキャリア官僚といっても、入省時の立場により、すでに序列ができているのは、よく知られている。外交官試験のあった外務官僚は別格として、国家公務員総合職Ⅰ種合格者の人気は、財務省を筆頭に、総務省や警察庁、経産省などに集中し、試験の上位者が入る。財務官僚は、試験の成績トップ10でなければ出世できないといわれる。

今の内閣では元秘書官らが重用される傾向が強い

 霞が関の序列は、現実の政府内にも如実に表れる。たとえば政権に最も近い首相秘書官は、財務、外務、警察、経産、防衛の5省庁から派遣される。また官房長官に直結する官房副長官や副長官補は、警察や総務(旧自治)、厚労(旧厚生)など、旧内務省系の出身者が抜擢されることが多い。官僚の最終ポストと評される特別職の官房副長官だった石原信雄は旧自治省、古川貞二郎は旧厚生省の出身で、現在は元警察官僚の杉田和博が務めている。

 つまり同じ霞が関のキャリア官僚でも、官邸という権力中枢に近づけるのは、ごく一部のポストに限られ、なかでも今の内閣では、第一次安倍政権時代から首相の信頼の篤い元秘書官らが重用される傾向が強い。今や「首相の懐刀」と評される筆頭秘書官(政務担当)の今井尚哉はその最たる例だし、元経産官僚で、一次政権で内閣広報官を務めた長谷川栄一も、再び内閣広報官に起用され、首相補佐官を兼務している。

 彼らのように、出身省庁を離れているが、官邸を根城に絶大な権力をふるう、従来の「官僚」像とは異なる存在を、本連載を始めるにあたり「官邸官僚」と呼ぶことにする。なかでも和泉は、典型的な官邸官僚といえる半面、他の側近たちとは異質でもある。

 まず比較的権力に遠い国交省出身という点がそうだ。それでいて、首相肝煎りの国家戦略特区構想や国立競技場の建設をはじめとした重要政策を担ってきた。また沖縄の基地問題に奔走し、首相の東南アジア外遊にまで同行している。その動きは水面下なので見えづらいが、加計学園で見せたようなかなりの強権を振るっている。

 1953年5月18日、神奈川県横浜市生まれ。和泉洋人は両親や親戚が政官界出身者の多い高級官僚の世界において、父親がタクシー運転手というごく普通の家庭に育った。自他ともに認める愛妻家で、「今朝は玄関先で女房と2回もキスして出かけてきた」などと平気で話すのだそうだ。半面、官僚っぽいエリート臭さがなく、他の女性にもずい分モテるらしい。

 神奈川の進学校として名高い栄光学園中・高等学校に進み、76年3月に東京大学工学部都市工学科を卒業して旧建設省(現国交省)に入った。省庁によって多少の違いはあるが、中央官庁のキャリア官僚はトップの事務次官を目指す。が、和泉は初めからその座を諦めざるをえなかった。理由は東大時代の専攻にある。

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