事実上の「一国二制度」の放棄といえる、香港の反体制的な言動を取り締まる「香港国家安全維持法」が施行されたことで、中国政府への批判が世界中で高まっている。早くも多くのデモ参加者が同法によって逮捕されるなど、その影響が心配されている。


7月1日、香港で警察に取り押さえられた「国家安全法」に抗議していた若者 ©︎getty

 コロナ禍の“震源地”でありながら、その混乱に乗じて暴走する中国について、京都大学名誉教授で国際政治が専門の中西輝政氏が検証する。(全2回の1回目/ 後編 に続く)

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 2020年は歴史の節目となった年として、世界史に刻まれることになるでしょう。その主役はもちろん中国です。

 それは、中国が新型コロナウイルスの「発生地」とされて、世界中をパニックに陥れたという理由だけではありません。それに加えて香港をめぐる情勢の緊迫もあって、いま世界中の対中認識が急激に悪化し、各国の「中国を見る目」が大きく様変わりしているのです。

 習近平政権は「中国の夢」という政治スローガンを掲げています。これは、いわば彼らの国家目標です。中国は1840年のアヘン戦争の大敗以降、世界の大国に圧迫される歴史を重ねてきました。そこから約200年かけて勢力を挽回し、いよいよ世界を大きく主導する超大国の座に「復帰する」という明確な覇権志向のビジョンを持っているのです。

 しかし、この習近平主席の「夢」はこの2020年に大きな曲がり角を迎えるでしょう。それは米英仏独をはじめ、印、豪、ASEANなど超大国や多くの経済大国・地域から、“不実な大国”中国への警戒意識がかつてない高まりを見せており、強固な「中国包囲網」が構築されつつあるからに他なりません。まずはその「中国包囲網」の実態を見ていきます。

一変した世界の対中認識

 分かりやすい形で対中姿勢を強めているのはご存じの通り、アメリカのトランプ大統領です。

「新型コロナウイルスは武漢のウイルス研究所から流出した」と主張し、中国の初動が遅れたことで世界規模の感染拡大につながったと批判を強めています。カメラの前でも、「真珠湾攻撃よりも、世界貿易センターへのテロ攻撃よりもひどい。こんな攻撃はこれまでなかった」とまで断じました。

 しかし、いま世界が中国に注目しているのは、ウイルスのことだけではないのです。

 世界の対中認識が変わる決定打となっているのが、コロナ禍のどさくさに紛れて、本格的に香港に手を出し始めたことです。

 周知のように昨年から、香港では大規模なデモが続いています。中国本土に犯罪容疑者引き渡しを認める「逃亡犯条例」の改正に、多くの香港の人々が反対したことをきっかけとして、民主化を求める声はなかなか沈静化しません。

 この状況に業を煮やし、中国の国会にあたる今年5月の全国人民代表大会(全人代)で、「香港国家安全維持法」(以下「国家安全法」と略称)の導入方針が採択された。つまり、中国の国会において、「今後は(香港当局の頭越しに)中国共産党が香港の法的支配を行う」と全世界に宣言したわけです。