「何したらいいー?つまんなーい」「ねぇママこれみて!」「おやつ食べていい?」

そして、いつもの兄妹ゲンカが始まる。

在宅勤務をしているリビング。会社員の女性はイヤホンを両耳に突っ込み、PCに向かう。「イヤホンつけてる間は話しかけないでね。聞こえないからね」とあらかじめ伝えているので、聞こえないフリに徹する。どうしても仕事にならないときの最終手段だ。

手作り「ビンゴカード」で時間稼ぎ

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長男(7)の小学校は3月下旬から休校に、長女(5)の保育園は4月上旬から休園になった。女性は2人の面倒を見ながら、すでに1カ月以上、在宅勤務を続けている。

夫も在宅勤務になってからは、午前と午後で交代で、一人は子どもたちのいるリビングで仕事をし、もう一人は別室にこもって集中する時間を確保している。

「リビングで仕事をする間は、細かい資料作成などはあきらめて単純作業やメール対応のみ。パフォーマンスは通常の6〜7割程度でも仕方ないと割り切るしかない。そうじゃないとやっていられません」

子どもが退屈しないよう、アクアビーズ、レゴブロックなど集中して遊べるおもちゃを総動員。テレビの時間が増えがちだが、この状況下では仕方ないとあきらめた。オンラインタブレットの学習教材も申し込んだ。

宿題、音読、なわとび、ピアノの練習などを「ビンゴカード」にして、1列丸がついたらおやつというルールにしたら「次は何したらいいー?」がなくなった代わりに、「○○やったから丸つけていい?」と話しかけられる回数は増えた。

「『ママと遊びたい!』という子どもの要望に応えられず、申し訳なさを感じます。なるべく向き合うようにしていますが、携帯でメールチェックしながらになるので、『ママ携帯ばっか見ないで!』と怒られ、結局どちらも中途半端になってしまうんです」

保育園も学校も習い事もない。友達とも遊ばせられない。公共施設も開いていない。祖父母のところで遊ばせることもできない。

「長期戦に備え、完璧を目指さないことですかね......。仕事をしている親の姿を見せたり仕事内容を話題にしたり、いい意味で仕事と家庭がつながればいいのかな......」

「無理なこと」をずっと続けている

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やまぐち・りえ / 総合電機メーカー勤務を経て2010年6月、育休後コンサルタント®として独立。ダイバーシティ経営企業100選の企業を含む100以上の企業や官公庁、自治体に女性活躍推進コンサルティング、社員向けセミナーを提供。2011年から育休後カフェ®、育休後面会相談などのサービスを提供している


育休後コンサルタントの山口理栄さんのもとには、こんな相談が寄せられているという。

「日中に子どもの相手をしなければならないので仕事にならない」

「子どもにテレビを見せ続けていることに罪悪感を感じてしまう」

「一人っ子で、友達とは遊ばせられないので遊び相手がいない」

「上司や同僚から、サボっていると思われているのではないか」

こうした悩みは、育児休業から職場復帰したときに抱える仕事と育児の両立の課題とは「まったく種類が異なります」と山口さんは言う。

「仕事と育児を両立する親は、子どもを保育園に預けている間に仕事に集中して、短時間で効率を上げることを目指してきました。しかし今は、子どもがそばにいながら仕事をするという、本来なら無理であるはずの特殊な状況をこなし続けているんです」

この状態は、例えるなら「保育士がデスクワークをしている」ようなものだ、と山口さん。

2017年、釜山大学のロバート・ケリー助教授がBBCで生中継中に、2人の子どもたちが部屋に入ってきた動画が話題になったが、あの状態がいま世界中の家庭で、日常的に起きているのだ。

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特別休暇の取りづらさ

「慣れてしまって意識していないかもしれませんが、この異常事態に対応することは、確実に重荷になっています。それをおくびにも出さず、子どもに不安を感じさせないようにふるまっていることも、相当な負担になっているはずです」

仕事と育児の両立という物理的な負担に加え、子どもの精神的なケアもしなければならない。そうした不安や負担を解消する制度や支援が足りていないこともまた、ストレスにつながるのだという。

厚生労働省は、保育園の休園などで保護者が仕事を休む場合、有給の特別休暇を作って休ませた事業主に、助成金を支給している。

この制度によって親は有給休暇をとることはできるものの、歓迎の声ばかりではない。「何度も休むのは気がひける」「同僚に迷惑をかけてしまう」「仕事が溜まるだけ」などと特別休暇の申請を躊躇する親は少なくない。

冒頭の女性も「やらなきゃいけない仕事はあるし、同僚も取っていないので自分だけ申請しづらい」と話す。

ルールがはっきりしないストレス

また、日中は仕事に集中できないため、子どもを寝かしつけてからやり残した業務に取りかかろうとすると、勤務時間帯のルールが支障になるケースもある、と山口さん。

「事情に応じて柔軟に対応してくれる上司ならいいですが、勤怠管理が申告制ではなく、パソコンのオンオフの記録などだと、矛盾が生まれてややこしくなってしまいます」

「半日単位や時間単位で柔軟に特別休暇が取れるのかとか、日中にできなかった仕事を夜にやってもいいのかとか、ルールがはっきりしない中で働くことの不安定さは、精神的な負荷につながります」

山口さんは、管理職がオンラインで雑談の機会をもうけるなどして、メンバーがどんな状況で在宅ワークをしているかを把握することが必要だ、と話す。

100%の力を出せるはずがない

経団連は、テレワーク・在宅勤務を実施している会員企業は97.8%との調査結果を発表したが、LINEと厚生労働省の調査によると全国では27%にとどまっていた。

導入している企業でも、サーバーにアクセスが集中して接続が遅くなったり、オンライン会議システムに全員が慣れていなかったりと、リモートワークの体制が100%万全に整っているところばかりではない。

「緊急的になんとか体制を整えつつあるのが今なのですから、そこで生産性が上がらないのは、従業員のみなさんのせいではありません。仕事の効率が上がらないというのは、そもそもわかっていることなんです」

「100%整っていない環境で100%のパフォーマンスを目指そうとするよりも、親自身が心身の健康を保つことを最優先に考えてください」

子どもの過ごし方まで考える余裕がない

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山口さんが心配しているのは、目の前の仕事に十分に取り組めないことや成果が上げられないことに焦るあまり、親が心の余裕をなくしてしまいがちなことだ。

「お絵かきの道具、家の中に貼るテント、簡単な料理など、子どもが自宅で楽しく過ごすためのおもちゃや教材、ハックはネット上にあふれています。しかし、新しいものを取り入れるには、それなりに考えたり行動したりするキャパシティが必要で、今はそうした情報を収集する気力さえなくなっている親がいます」

「朝起きたときに『今日も頑張ろう』と思え、どうすれば子どもが元気に過ごせるか時間の使い方を考えて対策ができれば、親子の生活がうまく回るようになります。まずは、親が気持ちの健康を保つことが大切です」

そのうえで、現状の受け止め方について、6つのアドバイスを山口さんにまとめてもらった。

・仕事と育児を無理に切り離そうとしない

仕事だけをする、育児だけをするという時間の使い方はもはや難しいです。

仕事をしながら洗濯機を回したり、宅配便が届いたら受け取ったりするし、子どもとお風呂に入っているときに企画のアイデアが浮かんだりもするでしょう。

仕事も育児も連続した時間としてとらえる方向にシフトすることが必要です。ワークとライフを混ぜることは、悪いことではありません。

・ここぞという時間は確保する

ふだんは仕事と育児を切り離さなくても、重要なオンライン会議など、相手の時間を奪わないために責任をもって対応しなければならない時間もあります。

その間はパートナーに任せる、テレビを見せる、数十分でいったん休憩をもらって子どものフォローをするなど、工夫をして計画的に確保する時間というのも必要です。

・楽(ラク)は楽しみになる

子どもとの外遊びをベビーシッターに頼んだり、子どもの好きなファストフードのデリバリーを利用したりと、外注サービスを有効活用することに罪悪感をもたなくていいんです。

3食すべて栄養バランスのよい食事をつくる必要はないですし、子どもにとっては楽しみの時間にもなります。

オンラインでママ友・パパ友としゃべったり、そこに子どもも参加して友達と会わせたりすることも息抜きになります。

・誰も正解を持たない

子どもの年齢、夫婦の勤務状況、業務の種類や裁量など、仕事と育児の両立のスタイルは人それぞれです。

誰も経験したことのない特殊な状況を乗り切ろうとしているのだから、人と比べず、自分がやりやすい方法を模索してみてください。

・自分はマシと思わない

仕事があるだけマシ、在宅勤務ができるのは恵まれている、といった声に惑わされる必要はありません。

税金を払ったり、消費して経済を回したりすることも大切な役割です。

いま仕事があることに感謝しながら一生懸命に取り組めばいいし、他人に遠慮せず弱音を吐いていいんです。

・コロナ以前の自分と比べない

新型コロナウイルスの感染が広がる前には、もう戻れません。そのときの仕事の成果と比べても仕方がありません。

そもそも、コロナ以前はハッピーだったのかを思い出してみてはどうでしょう。「子どもといられる時間が少ない」「夫婦で家事が分担できていない」。そんな不満をもっていませんでしたか。

「理想の生活」を追い求めてないものねだりをするのではなく、今の状況が可能にしていることを考えてみませんか。

Ryosuke Sugimoto / BuzzFeed


ゆっくり休みたいときもあれば、自分や誰かを守るために家にいるという選択をすることもあります。

・周りの人を感染させないためにできること

・医療崩壊を防ぐためにできること

・経済活動を止めないためにできること

・家族の不安を和らげるためにできること

みんなが豊かに過ごすために、一人ひとりにできること。

いまだからこそ、自宅で過ごす時間の意味を見直してみませんか?

BuzzFeed Japanは、ひとりひとりの行動や企業や団体の取り組みを応援するため、#おうちでできること の情報を紹介していきます。