千葉市役所の隣、みなと公園(同市中央区)の池の中に、謎めいたオブジェがある。下半身だけのロボットのような奇妙な作品だが、不思議なのは見掛けだけではない。行政の記録にも設置経緯が残っておらず、名実ともに「謎のオブジェ」となっている。

 「ジブリ映画」に登場するロボットのような、温かみと無機質さが同居する不思議な味わいの作品で、一帯の景色も含めて異世界に迷い込んだかのような雰囲気を演出している。作者は彫刻家の向井良吉(1918〜2010年)。台座に「1970」と彫られているが、銘板は見当たらず、作品名は分からない。近くに「出洲海岸埋立造成事業記念碑」なる石碑があるが、関連は不明だ。

 設置経緯やテーマが分かるのではないかと、公園を管理する市に問い合わせると、「公園は県企業庁(現企業局)が整備し、70年に市の公園部局に移管された。オブジェも同庁が設置したのでは」とし、「それ以上のことは分からない」という。

 そこで県企業局に取材すると、「当局が設置したかどうかを含めて確認できる資料がない」との回答。県の行政文書管理規則では、文書の保存期間は最長30年と定められており、満了後に歴史的に重要と判断された文書は県文書館に移管されるが、それ以外は廃棄される。担当者は「規則に沿って、関連文書は廃棄されたのだろう」と話す。30年という区切りは、国の公文書管理法で定める保存期間に準じているという。

 屋外のオブジェは後世に残すべき「記念碑」的な目的も持つはずだが、わずか30年で設置当時の記録が消えてしまうのは少々寂しい。本来、作品の前に立つだけでアートは鑑賞できるが、設置経緯や作者が当時残した言葉などを知れば、より深い鑑賞体験につながることも少なくない。

 他にも、行政による文書廃棄で設置経緯が不明になってしまったオブジェが各地にあるのだろう。多くの人が現地に足を運んで鑑賞し、存在を語り継いでいくことが、これらの作品にとってせめてもの救いになるのではないだろうか。

(平口亜土)