千曲川決壊の長野、現地ルポ

千曲川決壊の長野、現地ルポ

 住み慣れた家が泥に覆われている。コンクリートの電柱が濁流に押し倒されている。千曲川の決壊現場に近い長野市穂保(ほやす)地区や浸水被害が深刻な同市豊野地区で、住民たちは泥をすくい、自宅の片付けに追われていた。水が引かず、家に近づけないまま避難所で過ごしている人もいる。生活の再建は見通せず、多くの被災者が不安を募らせている。
 約七十メートルにわたって堤防がえぐれた決壊現場。十五日、現場に入ると、近くの建物は土台を残して跡形もなく流されていた。平安時代から続くという神社も濁流にのまれ、周辺の家屋のほとんどが水没。堤防の修復作業は続くが、一帯には大量の土砂が残っている。住民たちは深いぬかるみに足を取られながら泥やがれきを懸命に撤去している。
 穂保地区で一人で暮らす吉村弘子さん(82)は、二階建ての自宅の一階のうち三分の二以上が浸水。流木と土砂が室内に押し寄せた。吉村さんは昨年十一月に夫を亡くしており、「先に逝った人の方が幸せかな。こんなみじめな物を見なくて済むから」。そう話しながら涙をこぼしたが、「この家を管理する責任がある」。手伝いに来た親戚とともに、泥まみれの家具や寝具を庭に出していた。
 穂保地区には特産のリンゴ農園も広がっていたが、赤く色づいた実が茶色い土砂の上にいくつも散乱している。農園では車が横転し、至る所で電柱や樹木が倒れていた。
 垂れ下がる電線を避けながら実家に向かった女性(70)は、沼地のようになった敷地内で流木に手をつきながら玄関にたどり着いた。「鍵穴が変形して開かない。ここで一人で住む脳梗塞の弟を施設に入れることも考えないと」。先の暮らしへの不安がぬぐえず、ぼうぜんと立ち尽くした。
 一方、穂保地区から北に約五キロ離れた同市豊野地区にかけての国道18号沿い。十四日、茶色く濁った水が広がり、深さは成人男性のひざ下くらいまで達していた。リンゴの直売所が並び「アップルライン」として知られる沿道にもリンゴが散乱し、泥だらけの車があちこちで横転していた。
 「リンゴが泥水に漬かってしまい、商品にならなくなった」と、リンゴ農家の男性(75)。市内では十四日、断続的に強い雨が降り、大雨・洪水警報が発令された。「木が折れる可能性もあり、客との付き合いも今年で終わるかも」と険しい表情を見せた。
 近くのガソリンスタンドの従業員竹内智哉さん(29)は「地下タンクに水が入り、油が浮いてきた。スタンドがいつ再開できるか見通せない」。娘の家に身を寄せているという近隣の女性(61)は「腰まで水に漬かっているから自宅には入れない。いつになったら住めるのだろうか」とつぶやいた。
 (伊勢村優樹、安永陽祐、今坂直暉)


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