昨年の台風19号の被害に匹敵するともいわれる「三六(さぶろく)災害」の記憶を語り継ごうと、企画展「忘れない!伊那谷36災害記録写真展」が、阿智村の熊谷元一写真童画館で開かれている。六十年近くが経過した今、三六災害の教訓を、写真とともに熊谷元一写真保存会会長で、元村長の岡庭一雄さん(77)と振り返った。
 会場には、主に飯田市川路や会地村(現阿智村)で熊谷さんが撮影した写真六十点が並ぶ。電柱が倒れ、道は土砂で埋め尽くされた商店街や一面が水で覆われ、葉も木の枝も見えない桑畑など、災害前はどういった光景だったのか想像するのが困難なほど、変わり果てた伊那谷の姿が写し出されている。
 災害を知る住民が高齢化する中、伊那谷でも台風19号のような大規模災害が起こり得ることを、若い世代に知ってもらおうと、今回の企画に至った。
 発生当時、役場の建設課職員として復興にあたった岡庭さんは、伊那谷一帯の地盤が脆弱(ぜいじゃく)で、豪雨などの水害に弱いことを指摘。リニア中央新幹線の工事に伴い発生する残土を、伊那谷の谷筋に埋めることに対しては「滑り台の上に土をおくようなもの。リニアに関してネガティブな話をしにくい雰囲気があるが、三六災害の経験者は心配している。工事を進めるにあたり、安全性など科学的根拠を明らかにする必要がある」と懸念を示す。
 リニア建設に関する議論の中で、「三六災害」は県内でしばしば取り上げられる議題の一つ。関係自治体の住民には、当時の記憶が根強く残っており、岡庭さんは「異常気象が起こる中、三六災害時以上の豪雨が起こる可能性もある。熊谷先生の写真を通して、当時の状況を思い起こし、地域を見つめ直すことが大切」と強調した。
 三月二十三日まで。火曜休館。入場料は一般三百五十円、中学生以下無料。

 (二神花帆)
 <三六災害> 1961(昭和36)年6月に伊那谷一帯を襲った大災害。台風の接近で活発化した梅雨前線の影響で記録的な集中豪雨が発生。一日の最大降雨量は飯田で325ミリを観測した。大鹿村の大西山の山崩れや河川も氾濫し、死者、行方不明者は合わせて136人に上った。「語り継ぐ災害の記録 伊那谷災害記念特集号」によると、県内の被害総額は約340億円。うち約8割が土木や耕地、林務関係。住宅被害は床上浸水が3150戸、床下浸水は1万5338戸にも及んだ。救助活動などの必要から、発生から約3週間の間に、陸上自衛隊員延べ3万6356人が投入された。234戸、1228人が県内外に集団移住した。