出会って12年 高め合う日々
 そろってカウンターの前に立つ、珍しいすし職人の夫婦がいる。金沢市柿木畠にあるすし店「洋次郎」の店主中村洋平さん(46)と妻久子さん(46)。すしはもちろん、「お客さんの心を握ろうね」と誓い合っている。(高橋雪花)
 「いらっしゃいませ」「いらっしゃーい」。二人の笑顔が客を迎える。洋平さんが握るのはシャリの側面をぐっと締めた縦長のすしで、食べ応えのある食感が特長だ。隣で握るのは久子さん。舌の上にのるようなやや小ぶりなすしで、口に入れるとふわっとする。
 出会いは十二年ほど前、二人が勤めていた富山市の回転ずし店だった。久子さんの先生役だった洋平さんは、豊富な知識と経験で魚のさばき方などを指導。さらに店の盛り上げ役も買って出た。「握りたてだよー」と薦め、客が笑顔になる。久子さんは「すごいな。かっこいいな」と徐々にひかれていった。
 ほれ込んだのは洋平さんも同じだ。三十歳くらいの頃にペットフードの製造工場を辞め、思い切ってすし職人となった久子さんを「この年でこの世界に飛び込んで男に負けない給料を稼ごうとしてる。こういう女の人もいるんだ」と好意を持った。
 独立を目指していた洋平さんは二〇一九年五月、地元の金沢市で「洋次郎」をオープンした。ほぼ同時に結婚も。カウンターのすし店も経験がある洋平さんは、カウンター越しの客と交わす会話のしかたなどを久子さんに教えている。
 相手の強みを尋ねると、洋平さんは「握ったすしの出来で言ったらこっち(久子さん)の方が上。口当たり、ほぐれ具合とか…」。久子さんは「すしを握る姿がかっこいい。いろんな握り方も知っとるし。あとは包丁使い」と照れくさそうだ。
 二人で店を立ち上げて、もうすぐ一年になる。洋平さんは「一流の味を気軽に楽しんでもらいたい。会社帰りにふらっと寄って、巻物一本だけでも食べていって」と呼び掛ける。久子さんは「おいしいものを食べると幸せ、って言うじゃないですか。そんな良い時間を過ごしてもらいたい。あとは会話を楽しんでもらえるようにしたい」と笑った。