公園でミット打ち

 ボクシングの元日本スーパーフェザー級王者でIBF世界同級3位尾川堅一(32)=帝拳=が8月21日、後楽園ホールでのノンタイトル戦(相手は未定)を予定している。自粛による規制が多い中、彼は何を考え、どう調整しているのか。話を聞いてきた。

 所属する帝拳は3月にジムを閉鎖した。速い決断だった。試合を控えるプロ選手に限定して規制を緩和したのは5月のGW明け。尾川も8日からジムワークを再開した。「ジムに行けない間は毎日走ってました。走った後は近くの公園で練習してました。コーチが来てくれてミットも持ってくれて」。閉鎖をプラスにとらえ、モチベーションの維持に務めたという。

 「選手は試合があるからね」と長野ハルマネジャー。約30人の選手が密を避けるために午前と午後に分散してジムワークに励んでいる。午後参加の尾川は「プロに制限され、お互いの間隔が広いので思い切り動ける。サンドバッグも思い切り打てるのでいつもより多めにたたいている」と話す。充実した練習に不満は聞かれなかった。ただ、スパーリングはまだで「実戦練習にはまだ時間がかかりそうです」とのこと。昨年12月8日以来の試合になるが、それでも練習量への不安はない。

 尾川は愛知県豊橋市生まれの32歳。幼少から父・雅一さん(故人)が主宰する日本拳法成和会道場で英才教育を受けた。進学した桜丘高、明大時代に団体で全国優勝。プロボクシングの世界で拳法を試したいと2009年7月に帝拳に入門した。

 拳法で鍛えた頑丈な体と、打たれ強さが売りで入門翌年の4月にプロデビュー。スーパーフェザー級全日本新人王戦では無傷の8連勝を飾りMVPを獲得した。15年には日本同級王者に就き、5度防衛。その勢いで17年暮れにIBF世界同級王座決定戦に勝利した。だがドーピング検査で尿から禁止薬物が検出されたため“無効試合”に。米国・ネバダ州コミッションから6カ月の資格停止、JBCからはボクサーライセンスの1年間停止を言い渡された。

「負けは引退の声も出る年齢」

 そんな波瀾(はらん)を乗り越え、昨年2月の再起戦では3―0の判定勝ちで復帰した。そしていま、目標を再び世界に戻し、拳に磨きを掛けている。妻と幼子が3人。家族の生活も掛かっている。

 「収入は試合でのファイトマネーですから、試合が無いと厳しい。練習だけはできているので世界戦の話があればすぐにでも行けるようにコンディションを作っています」と語気を強めた尾川。彼の魅力は強い拳法パンチへのこだわり。倒す意識が強いが、意識しすぎるあまりガードが甘くなるのが難点だった。

 「練習時間はたっぷりあったので課題にも取り組めました。いい練習ができています。今は一戦一戦が真剣勝負なんです。世界のチャンスはそう何回もない。負けは引退の声も出る年齢なんで」

 今は世界戦が決まっても渡航規制のため簡単には選手が来られない。解除が待たれるが「サンドバッグもいつもより多くたたけている。いい試合を見せて自分のボクシングをアピールしたい」と尾川。「次戦でいい試合を見せて世界につながるチャンスにしたい」と豪快なKO決着に自信を見せている。(格闘技評論家=第1回オープントーナメント全日本空手道選手権王者)

 ▼尾川堅一(おがわ・けんいち) 1988(昭和63)年2月1日生まれ。愛知県豊橋市出身。身長173センチ。11年度全日本スーパーフェザー級新人王、最優秀選手賞(MVP)。15年12月日本スーパーフェザー級王者。17年12月IBF世界同級王座決定戦で勝利したがドーピング違反で無効試合に。直近の試合は昨年12月のWBOアジアパシフィックタイトルマッチ。5回に互いに偶然のバッティングによる負傷判定で引き分けた。右ボクサーファイター。戦績24勝(18KO)1敗1分け1無効試合。