◇龍の背に乗って

 4回には147キロをライト前に鋭く打ち返し、6回には145キロを右翼ポール際に打ち込んだ。阿部は速い球に強い。そして右方向に強い打球を飛ばせる。明大の後輩・森下からの2安打には、阿部らしさが詰まっていた。

 しかし、ほんの4年前まで、彼は自分のストロングポイントに気が付いていなかった。2016年。阿部は合宿所「昇竜館」の大浴場の扉を開けた。湯気の向こうに、誰がいるのかを知っていながら。

 「専用のスリッパが入り口にあるからわかるんです。僕もそうでしたが、普通は時間をずらして入ります。でも、あのときだけは、思い切って入っていったんです」

 スリッパの主は落合GMだった。風呂場で気まずい雰囲気になるのを恐れなかったのは、当時の阿部が追い詰められていたからだ。26歳のオールドルーキー。1年目から勝負とわかっているのに、プロの球に対応できない。どうすれば打てるのか。何が足りないのか。それが知りたくて全裸で飛び込んだ。

 「おまえは真っすぐに強いんだぞ…」。返ってきたのは予想していなかったひと言だった。

 「自分では思ったこともなかったんです。むしろ速い球には苦手意識があったくらいなのに」

 気付かせたかったのか。それとも暗示をかけてやりたかったのか。真意はわからないが、阿部は三冠王3度の大打者の言葉をそのまま受け入れた。オレは真っすぐに強い。速い球を打てる…。

 「しっかり振り切ることができました。スタンドまで届いてくれてよかったです」

 森下は開幕ローテーション入りが確実視されている。1打席目は空振り三振に打ち取られたストレートを、残り2打席で仕留めた。昨季は打てなかった右越えの本塁打。4年前の阿部が「打ったのはストレート」と知ったら、きっと小さな目が丸くなるはずだ。

(渋谷真)