誰が見ても通常開催が厳しいのは明らかだった。ウイルスの感染拡大は終息しない、五輪予選はできない、ここに及んでアスリートに必須の練習どころか日々の移動や生活にも影響が出る。それでも関係各所は通常開催にこだわり続け、疑問の声には火消しを図ってきた。ギリギリまで最善を尽くす姿勢と言えば聞こえはいいが、中身は原則論の域を出なかった。

 複雑な利害関係が渦巻く世界において、迅速な英断は望むべくもなかったのかもしれない。誰かが開催に否定的な発言をした瞬間に雪崩を打つ恐れもあった。それでも思うことがある。

 五輪、スポーツの世界において最も尊いものは何か。100分の1秒にこだわり、猛暑の中で息も絶え絶えになる。10メートルの高さから飛び込み、100キロ超の巨体が全速力でぶつかり合う。大げさではなく、身を削り命のやりとりをするのがアスリートであり、その姿がわれわれをひきつける。そんな選手らに匹敵する勇気を持ち、努力をしただろうか。いま一度思い起こし、今後の難局に当たってほしいと心から思う。 (五輪担当・川村庸介)