新しい『サスペリア』、オリジナル版を事前に見ておくべきその理由

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世の中にはリメイクすべきではない(と感情的に思わせてしまう)名作映画が多数あります。

しかし商業主義に多くを占められた映画業界において、現実には数多くの映画がリメイクされては酷評、あるいは無視され、あたかもそんな呪われた作品など存在しなかったかのように映画史の闇に消え失せていくものが大半です。

ダリオ・アルジェント監督による1977年製作のイタリア映画『サスペリア』も、決してリメイクすべきではない名作ホラー映画ではありました。

しかし『君の名前で僕を呼んで』(17)などで知られる鬼才ルカ・グァダニーノ監督が、何と2018年にそれをリメイクしてしまった!

恐れ知らずとは、このことか!

しかし、いざ蓋を開けてみたら……

《キネマニア共和国〜レインボー通りの映画街357》

これが1977年版を見事に換骨奪胎させ、リメイクの域を優に超えた“もうひとつの『サスペリア』”とまで讃えたくなるほどの、とてつもない傑作だったのです!

そして1977年オリジナル版を先に見ておくことで、2018年版は2倍にも3倍にも面白くなる!

ダリオ・アルジェント監督の名声を決定づけた1977年版

では、2018年度版の前に、やはり1977年のオリジナル版『サスペリア』がどういう映画であったかを振り返ってみたいと思います。

1977年6月25日、「決して、ひとりでは見ないでください」のキャッチフレーズを掲げて、イタリアン・ホラー映画『サスペリア』が公開されました。

ストーリーは、ドイツ南西部の学園都市フライブルグにある名門バレエ学院に、アメリカからひとりの少女スージー(ジェシカ・ハーパー)が留学してきます。

しかし、殺人を含めて学院内で連続して起きる猟奇的怪事件……。

赤や青の原色を基調としたけばけばしい色彩美の中、それまでに見たこともないおぞましき残虐描写の連鎖は、まるで見る者を徹底的に怖がらせることを作り手が至上の快楽としているかのようでもあり、さらにはそこにイタリアのプログレッシブ・ロックバンド“ゴブリン”が奏でる童謡のような音色とメロディ、その中からかすかに聞こえてくる悪魔のようなささやき声!

しかもそれらが日本独自の音響システム“サーカム・サウンド(音響が劇場内を360度グルグル回る感覚)”を駆使して、見る者をさらに悪夢の迷宮へと誘いこんでいきます。(1970年代はセンサラウンド方式やトレンブル・サウンドなどの特殊音響方式が次々と繰り出されては、観客をドギマギさせたものでした)

そして、ついに明かされる衝撃の真相……!

本作は映画宣伝におけるキャッチコピーの重要性が注目され始めた時期を代表する作品でもあり、『サスペリア』はその洋画代表といっても過言ではないものがありました。(ちなみに77年は、特に邦画で『八甲田山』の「天は我々を見放した!」、『八つ墓村』の「たたりじゃ〜」、そして『人間の証明』の「読んでから見るか、見てから読むか」「母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね」などのキャッチコピーが大流行しています)

そのせいで、多くの映画評論家たちは目を背けつつも興行的には大ヒットした本作は、当時の映画観客に恐怖のトラウマをもたらしながらもどこか甘美な趣きで魅了させ、その後のホラー映画にも多大な影響を与えることになります。

それまで『ウエスタン』(68)原案や『五人の軍隊』(69)脚本などを経て『歓びの毒牙』(70)で監督デビューを果たし、その後も『わたしは目撃者』(71)『4匹の蠅』(71)などのサスペンス・スリラー系ジャーロ映画を発表し続けていたダリオ・アルジェント監督は、『サスペリア』で一躍世界的名声を手に入れることになりました。

おかげで日本では『サスペリア』の前に彼が撮った名作の誉れ高い“PROFONDO ROSSO”(75)に『サスペリア2』とあたかも続編のような邦題をつけて(もちろん、この2作は全く無関係)公開されたり、ジョージ・A・ロメロ監督の出世作『ゾンビ』(78)も、日本では製作に協力したアルジェントが監修したバージョンの修正版を“公開し、当初はそれがアルジェント印の作品であることを強く打ち出してもいました。

(さて、今から40年以上前の名作ではありますが、これ以上の知識を入れずに新旧『サスペリア』を楽しみたいという方は……「決してここからは読まないでください。」!)

その後も『シャドー』(82)『フェノミナ』(85)『オペラ座 血の喝采』(87)などマスター・オブ・ホラーの道を邁進していくダリオ・アルジェント監督ですが、同時に彼は80年に『インフェルノ』を、そして2007年に『サスペリア・テルザ 最後の魔女』を発表し、それらは現在『サスペリア』を第1作とする“魔女”3部作とみなされています。

そう、『サスペリア』のバレエ学院こそは魔女およびそれを信奉する者たちの巣窟だったのです!

『サスペリア』=溜息(もしくは嘆き)の母

『インフェルノ』=暗黒(もしくは暗闇)の母

『サスペリア・テレザ 最後の魔女』=涙の母

実はそれまでジャーロ映画を連打しつつ、新たな方向を模索していたアルジェントは、『白雪姫』のような童話性に基づくホラーを画策し、それがいつしか魔女のモチーフと合致しながら、現実にはあり得ない原色の映像美に基づく究極の恐怖へ導かれていくことになったのでした。(個人的には『白雪姫』よりも『不思議な国のアリス』のようなテイストに仕上がったかなとも思います)

そして13歳のときに『サスペリア』を見て大いにその世界観に魅せられ、いつか自分なりの『サスペリア』を作ってみたいと思い続けていたのが、ルカ・グァダニーノだったのです。

オリジナル版を見事に換骨奪胎した2018年版『サスペリア』!

さて、ルカ・グァダニーノ監督の長年の宿願が叶ってついに完成した2018年版『サスペリア』は、オリジナル版のファンであればあるほど冒頭のシーンから驚かされることは必至です。

それはなぜかと言いますと……。

(今回ネタバレ厳禁の気持ちで書いてはいますが、それでもこれ以上の情報を事前に入れたくはないという方は「決して、ここからは読まないでください。」)

2018年版のアプローチは、オリジナル版のそれとは一見180度真逆のものになっているのです。

まずはオリジナル版は毒々しいまでの幻想美が全編を占めていますが、2018年版はむしろ色を抑えた控え目な映像を構築しながらうす寒い陰鬱さを強調しているかのようです。(もっとも、この時点で既に罠が敷かれています……)

しかしオリジナル版に顕著なシンメトリの画面構図は、2018年版でもさりげなく導入されています。

またオリジナル版は土砂降りの雨から始まりますが、2018年版も雨や雪にこだわり続け、それどころか外の世界はなかなか晴れ晴れとすることはありません。

音楽もゴブリンのような恐怖のお伽噺モードではなく、ここではレディオ・ヘッドのトム・ヨークによる一見正統派な映画音楽が奏でられています。

学院もクラシックバレエからコンテンポラリー・ダンスへ変更されています。(これもドラマの後々に大きな意味を占めていきます)

次に、2018年版はオリジナル版が公開された1977年のベルリンを舞台に据えています。

77年を舞台にするのはオリジナルへのオマージュとして理解できますが、ではなぜフライブルグではなくベルリンなのか?

実はここにもグァダニーノ監督の野心が秘められています。

1977年のドイツはベルリンの壁によって東西に分断されていた時期で、一方では極左テロリスト集団バーダー・マインコフによる“ドイツの秋”事件が勃発しています。

こういった政治的背景から、さらに2018年版はヒトラー率いるナチスによるドイツの惨禍まで彷彿させるものとなっていますが、オリジナル版にそういった要素はあったのか?

あったのです。

これはダリオ・アルジェント監督自身がインタビューなどで発言していることでもあり、劇中のあちこちにナチスやヒトラーのアイコンを秘めこみつつ、魔女が支配する学院そのものをナチスに支配されたドイツに見立てていたのです。

一方で音楽のトム・ヨークらレディオヘッドのメンバーも、実はタンジェリンドリームやクラスターなどドイツのクラウトロックに多大な影響を受けていることは、音楽マニアの間では常識なのでした。

では、ドイツへのこだわりは良しとして、肝心要の恐怖の構築は……これが全然怖くない! というと語弊がありますが、オリジナル版が冒頭から見る者を不快かつ不安にさせる描写に終始しながら、気がつくと流血の惨劇へ導かれていくのに対し、2018年版は「……これって、ホラー映画?」と正直首を傾げたくなるほどのムードが続きます。

が、これがまた、いつのまにかオリジナル版とは別の意味で、恐怖の頂点へと見る者を誘う『サスペリア』に見事に成り得ているのです!(そのすさまじさは、もうじかに確かめてみてくださいとしか言えない!)

ちなみに2018年版の上映時間は、オリジナル版(99分)を大きく超えた152分!

全体を6章+エピローグに分けた、あたかも壮大なオペラのような構造になっています。

キャストに関して言いますと、主演のダコタ・ジョンソンの一見おとなしめな風貌が、いざダンスを踊り始めたときの凛とした激しいものへ一変することの驚きが、映画そのものの情緒にも巧みに機能していきます。

もっともそれ以上にすごいのがやはりティルダ・スウィントンで、ここではオリジナル版のアリダ・ヴァリに通じる教師マダム・ブランを演じていますが、実は彼女、この作品で何とあと2人分の役を演じ分けているのです!

つまりは一人三役!

しかもそのうちのひとりは……!(ぜひとも映画を見て、当ててみてください)

ヒロインの友人サラ役のミア・ゴスも大熱演ですが、『悪魔の棲む家』(05)や『モールス』(10/オリジナルは『ぼくのエリ200歳の少女』)『キャリー』(13)と、なぜかリメイク版ホラーに定期的に出演し続けているクロエ・グレース・モレッツにも「きっとこの手のジャンルが好きなのに違いない!」などと勝手に想像しつつ……。

そして何よりもこの作品、オリジナル版のヒロインを務めたジェシカ・ハーパーが出演しています。

しかも、とても素晴らしい役で!

つまりはこの作品、オリジナル版に最大限の敬意を捧げつつ、ルカ・グァルダニーノ監督が自分なりの解釈で捉えた『サスペリア』として、実に秀逸な換骨奪胎がなされているのです。

それゆえに、本作単独で接しても大いに楽しめますが、むしろ事前にオリジナル版を見ておいたほうが、よりその妙味を堪能できること必至。

できればどこかの劇場で2本立て上映してほしいくらいですが、まあ現実的には難しいでしょうから、ぜひレンタルや配信などでオリジナル版をご覧になってから、この2018年版に足を運んでみてください。

恐らくはその後、双方の作品を何度もループ&リピート鑑賞しなければ気がすまないほど、映画という名の魔女の罠にはまってしまうことでしょう!

(文:増當竜也)


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