“殺カレ死カノ” “地獄少女”など脱キラキラ化し始めた日本の青春映画たち

(C)2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 (C)裸村/講談社 

少女漫画やアニメなどを原作にティーンを中心にした可愛らしい恋愛ドラマを繰り広げていくキラキラ映画のジャンルは、日本映画の主流の一つとなって久しいものがあります。

もっともどんなジャンルであれ、あまりにも大量に作られすぎると飽きられてしまうのも本音のところで、キラキラ映画にしても過剰供給ゆえに興行成績が以前より振るわなくなってきているのも実情(とはいえ、12月に公開される橋本環奈主演の『午前0時、キスしに来てよ』みたいに、オススメしたい楽しい佳作も今なおちゃんと存在しています)

またキラキラ映画を楽しんでいた観客側も徐々に年齢を重ね、従来のノリからさらに一歩踏み込んだ青春恋愛映画を望んできているような気もしてなりません。

作る側もようやくそういったニーズを察知するようになったか、11月だけでも『殺さない彼と死なない彼女』『わたしは光をにぎっている』『羊とオオカミの恋と殺人』といった異色かつ珠玉の青春映画が公開……

《キネマニア共和国〜レインボー通りの映画街419》

確実に時代が変わってきた感を抱かせる秀作ばかりなのでした!

3組の物語が感動の涙を誘う『殺さない彼と死なない彼女』

(C)2019 映画「殺さない彼と死なない彼女」製作委員会

何とも不可思議なタイトルの映画『殺さない彼と死なない彼女』(現在公開中)ですが、これはTwitterに投稿された漫画家・世紀末の4コマ漫画を原作に、『ぼんとリンちゃん』(14)などの秀作で知られる小林啓一監督のメガホンで映画化したもの。

ここでは高校生が織り成す3つのエピソードが同時進行していきます。

何かと「殺すぞ」を口癖に退屈な日常を過ごしている少年・小坂(間宮祥太郎)と、リストカット常習者の死にたがり少女・鹿野(桜井日菜子)。

恋愛に奔放ながらもどこか不安定なきゃぴ子(堀田真由)と、彼女の幸せを願いつつ、ついつい憎まれ口を叩いてしまう親友の地味子(恒松祐里)。

地味子の弟であまり感情を表に出さない八千代(ゆうたろう)と、そんな彼にめげることなく熱烈ラブ・アピールを続けていく撫子(箭内夢菜)。

これら別々のエピソードがやがてひとつに絡まっていくのかいかないのか、といった筋の詳細などは作品の性質上記すことはできませんし、あまりこれ以上の予備知識は入れずに鑑賞したほうが得策ではありますが、かなり大胆不敵な作劇はそのショックも相まって、相当数の観客の涙腺を破壊してしまうこと必定。

何よりもそれぞれのエピソードが見事に現代性を帯びつつ、純粋であるが故に不器用にふるまってしまう思春期ならではの繊細な趣きを巧みに描出しています。

特筆すべきは野村昌平キャメラマンによる映像構築で、自然光を巧みに活かしながらの流麗なキャメラワークは個々の登場人物の心情の揺れまで見事に描出しています。

SNSでは既に絶賛のコメントが #殺カレ死カノ のハッシュタグとともに飛び交っています。

失われていくものへの哀惜を描く『わたしは光をにぎっている』

(C)2019 WIT STUDIO / Tokyo New Cinema 

『わたしは光をにぎっている』(現在公開中)は前作『四月の永い夢』がモスクワ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞&ロシア映画批評家連盟特別表彰のW受賞を果たした期待の若手・中川龍太郎監督の最新作です。

本作のヒロインは20歳の宮川澪(松本穂香)。

早くに両親を亡くした彼女は長野の伯母(樫山文枝)の民宿を手伝っていましたが、その伯母の入院で民宿が閉館となったことを機に上京。

下町で銭湯を営む父の友人(光石研)に厄介になりながら最初は仕事を探しますが、なかなかうまくいかず、いつしか銭湯の仕事に従事するようになっていきます……。

ここで主題として描かれていくのは、町の風景が“再開発”といった事象によって日々移り変わっていく寂寥感と、孤独なヒロインの心情をリンクさせながら、いつしか“失われていくもの”へのエールを送りながら、前に向かって歩き出そうとする人生の示唆そのものです。

中川監督作品に必須のさりげなくも圧倒的な光の映像が、ここでは下町の路地や古びた建物など普段は気づきもしない町並みを愛おしい美として描出しつつ、決して安易な都市開発批判の域に陥ることなく、巧みなバランスでヒロインの日常に寄り添っていくあたりが実にお見事です。

TV版『この世界の片隅に』(18)や映画『おいしい家族』(19)など、このところ着実に若手女優として躍進し続けている松本穂香ですが、その中でも本作は筆頭株の代表作に成り得ています。

中川監督は本作を「飛べない時代の魔女の宅急便」と語っていますが、そうなると彼女は現代のキキとしてまた多くの支持を得ること必至でしょう。

もし殺人鬼美少女に恋したら?『羊とオオカミの恋と殺人』

(C)2019「羊とオオカミの恋と殺人」製作委員会 (C)裸村/講談社 

11月29日より公開される『羊とオオカミの恋と殺人』は、今回もっとも異色といえる青春恋愛映画です。

原作は漫画アプリ『マンガボックス』に連載されて話題騒然となった漫画家・裸村によるスプラッター・ラブコメディ『穴殺人』。

二浪の引きこもりで死にたがりの主人公・黒須(杉野遥亮)の住むアパートの隣の部屋に引っ越してきた、清楚で可憐な美少女・宮市さん(福原遥)。

しかし彼女の正体は、何と殺人鬼!

部屋の穴から隣室を覗くと、鮮やかなカッターナイフさばきで人を血まみれに切り刻んでいく宮市さんのエクスタシーともいえる恍惚の表情が!

やがて自分の正体が黒須にばれたことに気付いた宮市さんですが、なぜか彼を殺すことなく逆に付き合い始めていくのでした……?

何とも異様かつ異常な世界観の元で繰り広げられていく猟奇色豊かな内容であるにもかかわらず、なぜか爽快感を伴ってしまう不可思議さが本作の最大の魅力で、それには“まいんちゃん”として子役時代から幅広い支持を得てきた福原遥のさわやかな個性が宮市さんの所業とミスマッチしつつ、ふと気づくと美しいまでに同化してしまっていることの驚異に他ならないでしょう。

秀逸なのは殺戮シーンで、まるで血しぶきを吹かせながらダンスしているかのようなアクションの数々は、この映画以外では絶対にお目にかかることのないであろうほどの独自性を発散しています。

監督は『クソすばらしいこの世界』でスラッシャー・ホラー映画に新風を巻き起こした朝倉加葉子。今や血まみれ美少女を描いたら右に出る者はいないほどの(!?)旗手でもあります。

ここでは黒須ならずとも「殺されたいほどI LOVE YOU!」とでもいった倒錯した映画的気分を観客に味わわせながら、主人公ふたりの魅力を大いに引き出してくれています。

青春映画としての『地獄少女』

(C)地獄少女プロジェクト/2019 映画「地獄少女」製作委員会 

TVアニメシリーズから漫画、小説、ゲームなど幅広く発展しながらメディアミックスを成功させていったダーク・ファンタジー『地獄少女』の実写映画版(現在公開中)も、見方によっては青春映画として捉えることは大いに可能でしょう。

午前0時にアクセスすると和服姿の地獄少女・閻魔あい(玉城ティナ)が現れ、依頼者の望み通りに標的を地獄送りしてくれる代わりに、依頼者自身も死んだら地獄行きとなってしまう禁断のサイト「地獄通信」。

総じてイジメや憎悪、嫉妬、誹謗中傷といった負の連鎖がもたらす究極の殺人契約は現代版『必殺!』などといった生易しいものではなく、依頼した側にも非情な代償がもたらされることに「人を呪わば穴ふたつ」とでもいった人生の不条理などが垣間見えますが、それでも依頼してしまう人間の悲しき業を否定していないことに、本作が支持されてきた一因があるのでしょう。

そして今回の実写版では、親友(仁村紗和)がカリスマ・アーティスト(藤田富)に洗脳され、ついには儀式の生贄にされることを知った高校生少女(森七菜)が地獄通信にアクセスするまでの過程が、痛々しいまでの友情と確執の物語として屹立していきます。

これまで『ノロイ』(05)『貞子VS加耶子』(16)といった怖すぎホラーや『不能犯』(18)といった超常的サスペンス作品に才を発揮してきた白石晃士監督ですが、ここでのダーク・ファンタジーの中での思春期の想いを汲み上げていく手腕も大いに讃えたいところです。

ちなみにアニメ版などでは幼女体形の閻魔あいを長身美女の玉城ティナに演じさせるのはかなりの冒険であったと思われますが、仕上がりとしては驚くほどに映画版ならではの閻魔あいとしての魅力を放ち得ており、このまま彼女主演でシリーズ化してほしいと思わせるほどのものがありました。

さて、今回採り上げた作品のうち多くがSNSやアプリなどから発展したり、またモチーフにしているのも偶然ではなく今の時代ならではの事象であり、また逆に失われていくものへの哀惜を謳う『わたしは光をにぎっている』みたいな作品も際立つのかもしれません。

こういった今の時代を見据えつつ、ひとひねりした青春映画が続々作られていくのは間違いないことでしょう。

(文:増當竜也)


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