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大袈裟ではなく、歴史が動いた第92回アカデミー賞

結果から言えば韓国映画の『パラサイト半地下の家族』が作品、監督、脚本、国際映画の4冠を獲得、今年の最多受賞作品となりました。

この快挙は韓国映画という枠組みを飛び越してアジア映画として、そして非英語作品として、初めてのことになります。

フランス映画の布陣で作られた『アーティスト』も言語は英語でした。アーティスト (字幕版)

昨年のアルフォンソ・キュアロン監督作品の『ROMA/ローマ』がスペイン語作品で、初の非英語作品の受賞の可能性があったのですが、惜しくも作品賞を逃してしまいました。

そんな中で『パラサイト半地下の家族』は6部門中4部門、しかも作品の根幹の部分に関わる部門を完全制覇したうえでの、最多受賞なので文句のつけようがない完全勝利と言っていいのでしょう。

大袈裟ではなく、歴史が動いた第92回アカデミー賞のその前夜から授賞式直後までの詳報をお届けします。

まず、下に24部門の受賞作品をまとめました。

【受賞結果】

作品賞:『パラサイト半地下の家族』

監督賞:ポン・ジュノ(『パラサイト半地下の家族』)

主演男優賞:ホアキン・フェニックス(『ジョーカー』)

主演女優賞:レニー・ゼルウィガー(『ジュディ虹の彼方に』)

助演男優賞:ブラッド・ピット(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)

助演女優賞:ローラ・ダーン(『マリッジ・ストーリー』)

脚色賞:タイカ・ワイティティ(『ジョジョ・ラビット』)

脚本賞:ポン・ジュノ、ハン・ジヌォン(『パラサイト半地下の家族』)

長編アニメーション賞:『トイ・ストーリー4』

短編アニメーション賞:『Hair Love』

国際長編映画賞:『パラサイト半地下の家族』

メイクアップ&ヘアスタイリング賞:『スキャンダル』

視覚効果賞:『1917 命をかけた伝令』

音響編集賞:『フォードvsフェラーリ』

録音賞:『1917 命をかけた伝令』

編集賞:『フォードvsフェラーリ』

撮影賞:ロジャー・ディーキンス(『1917 命をかけた伝令』)

長編ドキュメンタリー賞:『アメリカン・ファクトリー』

短編ドキュメンタリー賞:『Learning to Skateboard in a Warzone (If You’re a Girl)』

衣装デザイン賞:ジャクリーン・デュラン(『ストーリー・オブ・マイライフわたしの若草物語』)

美術賞:『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

短編実写映画賞:『向かいの窓』

主題歌賞:“(アイム・ゴナ)ラヴ・ミー・アゲイン”(『ロケットマン』)

作曲賞:ヒドゥル・グドナドッティル(『ジョーカー』)

受賞結果を分析してみる。

演技部門は前哨戦通り波乱のない結果になりました。

しかし、個別に見ていくとやはりいろいろな想いが起こる結果でもあります。

主演女優賞

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主演女優賞を受賞したレニー・ゼルウィガーは2000年代後半からほぼ開店休業状態で、そこにはメンタル面での問題もあったとのこと。それを乗り越えて演じきった彼女は、劇中のジュディ・ガーランド本人とも重なる部分がありました。

ジュディ・ガーランド自身は『オズの魔法使い』から『スター誕生』など映画史に残る作品に主演しながらもオスカーとは無縁でしたので(娘のライザ・ミネリは受賞あり)の彼女の分まで受賞したと言えるのではないでしょうか?

主演男優賞

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主演男優賞を受賞したのは、ハリウッドきっての曲者ホアキン・フェニックス。『ジョーカー』の演技で、絶対に獲るだろうと思われている中での主演男優賞の受賞。

昨年の『ブラックパンサー』に続くアメコミ映画畑からの出馬でしたが、見事にオスカー像を掴みました。

いろいろキワドイスピーチを繰り返してきた彼ですが、今回はメッセージを込めつつ丁寧な言葉選びを見せ、自分たちは声なき者の代弁者になり得ると語りました。

最後に亡き兄リヴァー・フェニックスの言葉を引用したりと感情を持っていかれるスピーチでした。

これで“ジョーカー”俳優(ジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレッド・レト)は全員アカデミー賞俳優となりました。

助演男優賞・助演女優賞

助演部門はハリウッドの皆が応援した形になったローラ・ダーンとブラッド・ピット。

ブラッド・ピットに関してはいつか必ず賞を贈りたいと誰もが思っていたので、ついに賞を贈れる演技をしてくれたという気持ちになったことでしょう。ローラ・ダーンは授賞式翌日(アメリカ時間の2月10日)が誕生日という二重三重におめでたい話になりました。

レニー・ゼルウィガーの『ジュディ虹の彼方に』やブラッド・ピットの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はハリウッドの影の歴史の部分も描いているので、ある意味ハリウッドの贖罪意識の対象になったかもしれません。

ハリウッドが夕日に包まれて、夢の王国で亡くなっていく時間を体現したキャラクターには思わず感情移入してしまうアカデミー会員も多かったのではないでしょうか?

その他

他の賞に目をやると、近年アカデミー賞の最短コースとも言われるトロント国際映画祭で『ジョーカー』を破って観客賞(=グランプリに相当)を獲った『ジョジョ・ラビット』が脚色賞を受賞。

監督・脚本のタイカ・ワイティティはユダヤ系の人で人種や民族に関しての考えを受賞スピーチでの中に取り込んでいました。

技術部門は『1917命をかけた伝令』と『フォードVSフェラーリ』が正面から四つに組み合う形になりましたね。

ここに関しては今、ハリウッドで一・二を争う撮影の名手ロジャー・ディーキンス(『1917』)の撮影賞以外はどっちに転んでもおかしくない展開で、いちばん予想が難しいところでした。

結果として元音源を評価する録音賞が『1917』に渡り、完成した音源(と言うかレースシーンでのエンジン音)の良さを評価した音響編集賞が『フォードVSフェラーリ』に渡りました。

余談ですが、今回、視覚効果賞を獲ったのは『1917』。

一見するとCGを使っていないように見える映画が『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』と言った一見してCG特盛映画に勝つという不思議な現象が起きましたね。

波乱と言えば長編アニメーション部門でしょうか。

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『トイ・ストーリー4』が獲得して、シリーズ二度目のアカデミー賞受賞となりました。長編アニメーション賞の歴史自体が短いので、そこまで騒がれませんがシリーズで獲得というのは初めてのことになります。

長編アニメーションに関してはほぼ結果がそのままスライドすると言われてきたアニー賞で『トイ・ストーリー4』はNetflix作品『クロース』に敗れていたので、まさかの逆転受賞となりました。

衣装やメイクアップ、美術に関しては本当に大混戦でしたが、それぞれ『ストーリー・オブ・マイライフわたしの若草物語』、『スキャンダル』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で分け合いました。

メイクアップ部門で受賞したカズ・ヒロさんは現在アメリカの永住権を獲得してこの名前になりましたが、日本国籍の辻一弘名義の時に『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でゲイリー・オールドマンをチャーチルに変身させた人です。

受賞作『スキャンダル』ではシャーリズ・セロンを大変身させて、この人にかかればまったく似てない人が演じることになっても問題はないのでは?と思わせる匠の技を見せてくれました。ディック・スミスやリック・ベイカーと言った特殊メイクの先人への言葉も印象的でした。

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第92回アカデミー賞、その前夜。大統領選の年、浮き彫りになる課題。

このアカデミー賞で大きな賞レースの流れが終わるわけです。それまでの大小の映画賞の話になるとさすがにマニアックになり過ぎてしまうので、そこは省きますが、諸々の結果を受けて1月13日にアカデミー賞のノミネートが発表されるといくつかの議論が起きます。

もともと、アカデミー賞は直前の年の総決算であるので、その時々の世相や思考、流行やハリウッド映画人の主張などが反映されます。

日本の今年の漢字や流行語大賞などと近い部分もありますが、アカデミー賞の主催が映画芸術科学アカデミーなので、よりメッセージ性のある行動が求められがちです。

戦争の臭いが強まれば反戦のメッセージが強い映画に票が集まりますし、近年で言えば人種・民族や性別(生物学上の性別や社会上の性別“ジェンダー”、そしてLGBTQ)などに対してどう考えるのか、どういう答えを出してくるのかが求められます。

特に、トランプさんが大統領になってからは孤立主義・差別主義とそれに対する融和・相互理解の尊重の狭間でハリウッドは揺れ動いてきました。

とは言え、基本的にユダヤ系で構成され、しかも世界中の人々を相手にするハリウッドなので、アンチトランプさんという空気が定着しているのも事実です。先日終わったトランプさんの弾劾裁判にちくりと刺すコメントもありました。

このように比較的リベラルな思考の人々が集まるハリウッドですが、特にアカデミーになると妙に保守的過ぎて批判を浴びることがしばしばあります。数年前には有色人種の人間が主要部門にほとんど並ばず、“白すぎる・白百合のようなオスカー”という強烈な皮肉をスパイク・リー監督から浴びたこともありました。

昨年はこの点を反省したのか『ブラック・クランズマン』『ビール・ストリートの恋人たち』『グリーンブック』、果てはアメコミ超大作『ブラックパンサー』まで作品賞に並べてきました。さらに、アルフォンソ・キュアロン監督のスペイン語映画『ROMA/ローマ』も主要部門に名前を連ねました。

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結果、いつもアカデミー賞に辛口なスパイク・リー監督に脚色賞を『ビール・ストリートの恋人たち』のレジーナ・キングに助演女優賞を、『グリーンブック』のマーハシャラ・アリに助演男優賞を贈るなど、“おっ、アカデミー賞も変わったな!?”と思わせる展開になりました。

ところが作品賞に“唯一の白人監督による黒人映画”の『グリーンブック』が選ばれたことでなんとも微妙な空気になり、やっぱりスパイク・リー監督に嫌味を言われることになりました。

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このことを踏まえると今年の並びは“白過ぎる”のではないか?という思いにもなります。それをいじる司会者もいたくらいです。

黒人映画と呼べるのは主演女優賞と主題歌賞にノミネートされた『ハリエット』くらいでした。

ただ、人種という点で言えばアジア系も南米系もアメリカ国内の人口比率で言えば決して少なくなく『パラサイト半地下の家族』が主要部門に名を連ねたり、スペインに戻ったアントニオ・バンデラスがノミネートされたりしているのでそういう意味では門戸が狭まったという風にはならないのかもしれませんね。

今年の2大トピック。

それ以上に問題になったのが女性クリエイター、女性スタッフへの敷居の高さです。

“MeToo運動”の文脈とも絡めても語られるこの問題は方が大きく取り上げられました。こちらのテーマの方が大きく取り上げられたために、相対的に人種・民族への言及が減ったとも言えるかもしれません。

例えば作品賞にノミネートされた『ストーリー・オブ・マイライフわたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグが監督賞から漏れたり、前評判の高かったジェニファー・ロペス主演の『ハスラーズ』やゴールデングローブ賞でアジア系としては初めて主演女優賞を受賞した『フェアウル』などの女性監督・女性主役の映画がことごとくノミネートから漏れたことで、この問題が表面化しました。

グレタ・ガーウィングは『レディ・バード』で監督賞ノミネート経験もあるので、今回のノミネートから漏れるというは驚いた人もいたことでしょう。

そもそも92回を数えるアカデミー賞で女性監督が監督賞を受賞したのは10年前の『ハート・ロッカー』のキャサリン・ビグロー監督だけで、実は白人以外の人種の受賞よりさらに高い壁(アメリカ風に言うとガラスの天井)があること浮き彫りになっています。

ハート・ロッカー(字幕版)

一昨年『スリー・ビルボード』で主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマントがスピーチの中で授賞式に参加した全ての女性に起立を促し(真っ先にメリル・ストリープに声をかけたあたりが面白いのですが)、ハリウッドにはこれだけ有能な女性がいると語ったのですが、その言葉がまだまだ深い部分にまで届ききっていないのだなと感じ、残念な思いを抱いてしまいます。

もう一つ、これは昨年も大きな論争を呼んだ動画配信サービスの作品の取り扱いについて。はっきり言ってしまえばNetflix作品の取り扱いについてということになります。

昨年、アルフォンソ・キュアロン監督がアカデミー賞監督賞を受賞した『ゼロ・グラビティ』の次回作としてNetflixから資金提供を受けた『ROMA/ローマ』を製作、結果アカデミー賞の主要部門に10部門にノミネートされました。

業界的な認識の一つを言えばいずれは動画配信サービスにも文芸的(=賞レース向け)な作品が登場することになるだろうとは皆思っていたはずです。

ところが、それがこんなに早く来るとは思っておらず、結果、動画配信サービスの作品は映画か否かで大論争を巻き起こしてしまいます。

『ROMA/ローマ』の無名キャストでモノクロ・スペイン語映画という企画を見たときに、いくらアカデミー賞監督の受賞直後の新作とは言えビジネス的に不安要素を感じた既存のハリウッドの映画会社がお金を出さない中で、Netflixがポンっと資金を出して『ROMA/ローマ』は完成しました。

この流れだけ見れば作品の出自をハリウッドメジャー側の人間が色々言い出すのは後出しジャンケンのような気もしますね。

今回のアカデミー賞ではさらにNetflixが勢力を拡大『アイリッシュマン』『マリッジ・ストーリー』を筆頭になんと合計8作品で24ノミネートを記録しました(昨年は4作品15ノミネート)。配給会社別に見たときこの数字はディズニーの23ノミネート、ソニー・ピクチャーズの20ノミネートを抑えて堂々の一位です。

ここまで来ると個々の意見(スピルバーグ監督などは否定派です)とは別の次元でNetflix作品は映画として定着しつつあるように見えます。

昨年のアルフォンソ・キュアロンにも驚きましたが、『アイリッシュマン』の監督はあのマーティン・スコセッシですから、巨匠と呼ばれる人も選択肢の中にNetflixを入れていることが分かります。

世界的にはいまだに論争が続いていて例えば『ROMA/ローマ』に金獅子賞を贈ったヴェネチア国際映画祭などはNetflixウエルカムですが、カンヌ国際映画祭は完全にNGでコンペティション部門のエントリーすら許していません。

少し視点がずれるかもしれませんがスコセッシなどのベテラン監督がマーベル作品を映画ではないと批判したことが話題になりましたが、そのスコセッシも本流でないという意見があるNetflixとはすぐに協力体制を築いたのを見ると、まぁ状況によって風向きは変わるのかなとも思いますね。

実際『パラサイト半地下の家族』のポン・ジュノ監督は『オクジャ』というNetflix作品を手掛けていますし、もしかしたら数年後にはスピルバーグもNetflixで作品を発表するかもしれませんね。

もしかすると文芸作品は配信系、スクリーン映えする作品はハリウッドメジャーというふうに棲み分けされていくのではという話もあります。

実際に『1917』や『フォードVSフェラーリ』などはスクリーンが大きければ大きいほど映える映画です。

発表直前、変革への舞台が整い始める。

アメリカ時間の2月9日、日本時間の2月10日、第92回アカデミー賞の授賞式が始まりました。

近年、アカデミー賞前の過剰なキャンペーンに批判が集まったこともあって、どんどん日程が前倒し傾向になっています。

そんな第92回アカデミー賞は二桁ノミネート作品が4作品も出るというある意味本命不在という状況。

さらにカンヌ国際映画祭パルムドール受賞の韓国映画『パラサイト半地下の家族』が6部門にノミネートされるという波乱含みのまま幕が開けました。

前哨戦までのムードとしては『1917』が優勢だったところに『パラサイト半地下の家族』が勢いをつけてきてといった感じでした。それでもいきなり韓国語・英語字幕の映画に主要部門はいかないのでないかな、やや『1917』優勢かな?という見立てが多数派でした。

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日本では定着している“映画字幕文化”ですが、アメリカでは少数派でアン・リー監督の『グリー・ディスティニー』が作品賞を獲れなかったのも『ROMA/ローマ』が獲れなかったのもそれが理由だろうという見方がある程です。

ただ、ここでまた動画配信サービスというものの存在が出てくるのですが、国籍を軽々と飛び越えて世界中に作品が配信されることで、非母国語(アメリカで言えば非英語)作品を字幕で見ることが急激に普及し始めていて、ばりばりの日本語セリフが飛び交う日英合作ドラマ『GIRI/HAJI』が大きな話題を呼んだりするなど、字幕で映像を見る土壌がアメリカでもできつつあったのかもしれません。

ポン・ジュノ監督の言葉を借りれば1インチの字幕の壁が思いのほか低くなっているのかもしれません。

この字幕文化の定着が今回の歴史が動いたことに繋がったのかもしれません。

また、アカデミー賞会員の構成も非白人・女性・外国籍の人々の割合が大きくなり、選ぶ人の中身も変わってきていることも事実です。

第92回アカデミー賞授賞式ハイライト。

グラミー賞歌手で『ハリエット』にも出演しているジャネール・モネイによるアカデミー賞を彩った楽曲のメドレーで第92回アカデミー賞の幕は上がりました。

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バックダンサーにはアカデミー賞ノミネート作品に限らず昨年、話題を呼んだ作品を想起させるファッションに身を包んだダンサーが踊ります。ジョーカーもいましたし、話題のホラー映画『ミッドサマー』を想起させる花に身を包んだダンサーもいましたね。見事なパフォーマンスを見せたジャネール・モネイは出席しているスター俳優たちも巻き込んで見事にスタートダッシュを飾りました。

昨年はクィーン+アダム・ランバードのメドレーや『アリー/スター誕生』のレディ・ガガとブラッドリー・クーパーのデュエットで盛り上がりましたが、やはり歌唱パフォーマンスは授賞式の花形ですね。

会が進む中では『アナと雪の女王2』の『イントゥ・ジ・アンノウン』をオリジナルのイディナ・メンゼルを筆頭に日本の松たか子を含めた世界9か国の“エルザ”による歌唱パフォーマンスもありました。

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日本人が受賞者やプレゼンターになったことはありますが、パフォーマーとなるのはこれが初ということで、松たか子と日本での『アナ雪』の成功という功績が認められた証といっていいでしょう。

『ロケットマン』のエルトン・ジョンが圧巻のパフォーマンスを見せてそのまま主題歌賞受賞まで突き進みました。

映画版の製作も決まった大ヒットブロードウェイミュージカル『ハミルトン』の出演者アンソニー・ラモスが紹介する形で、主題歌が映画本編に与える影響の大きさについて、映画史に残る名テーマ・大ヒットソングをメドレー形式で流して紹介。

その流れを受けた後、なんとエミネムが主演映画の『8mile』の主題歌『ルーズ・ユアセルフ』を披露するサプライズ。

ヒップホップのヒット曲ということで口ずさめる出席者が多く、歌い終わるとスタンディングオベーションが起きました。2002年に歌曲賞を受賞していたエミネムがまさか、まさかのアカデミー賞登場です。

毎回恒例のアカデミー賞授賞式の名物コーナーの“追悼”のコーナーでは先日のグラミー賞で史上最年少で主要4部門を受賞した若干18歳のビリー・アイリッシュがビートルズの名曲『イエスタデイ』をしっとりと歌い上げました。

この追悼の中には日本からも黒澤映画で世界的にも知られていた京マチ子さんの名前、つい先日、訃報が飛び込んだカーク・ダグラスの名前もありました。この追悼のコーナーは監督や俳優だけでなくスタッフも多く紹介されるのでとても貴重な場面になっています。

そして、歴史が動いた!!

最初の発表はオスカー俳優4人に囲まれたブラッド・ピットがついに受賞。50歳の彼ですが、今回はノミネートされた中では最年少でした。

役柄に添ったこともありますが日の当たらないスタッフにも平等にスポットライトを当てるというアカデミー賞の本来のあり方にならって、監督や共演者に加えて無名のスタントマンたちにも感謝の言葉を伝えました。

映画プロデューサーとしても実績を積み、若手からベテランまで人望のあるブラッド・ピットのこの“華のある受賞”で一気に授賞式にエンジンがかかりました。

今年からのアカデミー賞の変更点として、 “外国語映画賞”という名称が“国際長編映画賞”に名称が変わりました。昨年の『ROMA/ローマ』のような立ち位置の作品が登場したこともあるからでしょう。

この新名称第一作目に呼ばれたのがポン・ジュノ監督の『パラサイト半地下の家族』。

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この前にオリジナル脚本賞を受賞した後の、読み上げだったこともあって、大半の予想としてはこれで『パラサイト半地下の家族』の受賞は落ち着くのかなという感じだったのは事実です。

何せ、ポン・ジュノ監督自身が、もう声がかからないと思っていたと話してしまったほどですから。

ところが、ところが、監督賞にポン・ジュノ監督の名前が挙がると空気は一変します。

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対照的に本命と言われた『1917』や『ジョーカー』が票を伸ばさない中で、これはもう『パラサイト半地下の家族』が行くところまで行き着くのではないか?というムードになっていきました。

そして最後に社会的・政治的活動家としての顔をも持つジェーン・フォンダが万雷の拍手で登場(ハリウッドリベラルの象徴のような彼女に読み上げられるというのも運命かもしれません)。

作品賞の受賞作として『パラサイト半地下の家族』のタイトルが読み上げられると、会場は総立ちになって大騒ぎ、演技部門ではノミネートがなかったソン・ガンホを筆頭にした出演者たちも壇上に上がり喜びと驚きで表情を爆発させてました。見ているこちらも鳥肌モノの歴史的な瞬間となりました。

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第92回アカデミー賞を巡る闘いは貧富の格差という普遍的なテーマをサスペンスから、ミステリー、コメディまで複数のジャンルを濃密に煮詰めた快作で怪作の韓国映画『パラサイト半地下の家族』に凱歌が上がりました。

テーマが普遍的であるとは言え、あくまでも韓国社会を描いた韓国人に向けた映画が、作られ方や国籍、言語といったものを乗り越えて一つの頂点にたどり着きました。

このことはとてつもない前例となることでしょう。これからはどの土俵で映画を撮ってもアカデミー賞の対象になりうるという確かな実績を築きました。これは多くの映画監督に大きな可能性と強大な課題を突き付けたことになりました。

と同時に、いざとなればアカデミー賞を争う覚悟を持つ必要性を世界中の映画監督たちに与え、それを意識することを避けて通れなくしました。

『パラサイト半地下の家族』日本では韓国映画としては久しぶりに興行収入15億円を超え、動員も100万人を突破するヒット作となっています。今回の受賞で公開規模もまた拡がるかもしれませんので、未見の方は必見です。

メッセージは発信!でも忖度はなし!

この“パラサイト大旋風”ですっかりかすんでしまった感のある前夜までの2大トピック。

Netflix組はいわゆる主要部門では『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンの助演女優賞受賞にとどまりましたが、製作した“米中の融和”を描いた長編ドキュメンタリーの『アメリカン・ファクトリー』(オバマ前大統領夫妻が関わっています)が最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞。ますますNetflixの地盤固めが進んでいるなと感じさせられました。

一方で、女性に関する問題は、オープニングのクリス・ロックの強烈なワード(生放送ならではの強烈な飛び道具)から始まり、プレゼンターの作品紹介や受賞スピーチなどで女性クリエイターが深く関わっていることに言及する場面も多くありました。

作品賞のプレゼンターにジェーン・フォンダを呼んだのも意識したキャスティングでしょう。

未見ですが短編ドキュメンタリー部門を受賞した『Learning to Skateboard in a Warzone (If You’re a Girl)』はタリバン政権下で抑圧されたアフガニスタンの少女たちがスケボーを学ぶというテーマの作品ということで、これも興味深い作品です。

衣装デザイン賞を受賞した『ストーリー・オブ・マイライフわたしの若草物語』のチームはしっかりと監督賞から漏れたグレタ・ガーウィングを名指しして感謝の言葉を贈りまし、他にも女性受賞者から女性映画人へのエールの言葉も多く見ることができました。

余談ですが、作品賞にはノミネートされたものの監督賞から漏れた作品のスタッフが技術系の部門で受賞すると必ず監督にメッセージを贈る姿はとても健全な姿に見えました。

個人的にとても素敵なシーンになったと感じたのが『エイリアン』シリーズのリプリーで戦うヒロインのパイオニアとなったシガニー・ウィバーが登場したところです。エイリアン/ディレクターズ・カット (字幕版)

彼女を挟む形でガル・ガドットとブリー・ラーソンも登場。

ガル・ガドットと言えばDCコミック原作の大ヒット作品『ワンダーウーマン』の主役。ワンダーウーマン(字幕版)

そして、ブリー・ラーソンと言えば『ルーム』で主演女優賞を受賞し、マーベルコミック原作の『キャプテン・マーベル』でタイトルロールを演じています。キャプテン・マーベル (字幕版)

二つの大ヒットアメコミ作品でパワフルな21世紀型のヒロインを演じた二人の女優が強いヒロインの道を切り拓いたシガニー・ウィバーの功績を讃える姿はとても印象的なものとなりました。

この3人がそろって全ての女性はスーパーヒーローですと言うと圧倒的な説得力がありますね。

全体として突き付けられた問題に対して、アカデミー賞と登壇者はリベラルな立ち位置を明確にしたと思います。

その一方で、脚色賞に『ストーリー・オブ・マイラフ/若草物語』を選んだり、主題歌賞を『ハリエット』に送ったりするような、前哨戦の流れを完全に無視した“政治的な忖度”が感じられる受賞がなかったのも、これはこれで良かったと思います。

これで変な忖度エンジンを発動させると日和った感覚を残してしまうのですが、そういったことはなく、今後の課題は今後の課題としたままで中途半端に手を付けることはしかなかったのもある意味、潔かったと思います。

限られたノミネートの枠で現代社会を全て抱え込むこと自体かなりの難題でもあることなので、何かしらの問題は孕んでしまうでしょう。

しかし、アカデミー賞が受賞者の言葉を借りれば“変革の時”にあるということがちゃんと伝わる授賞式でした。

もちろん、多くの課題や問題は残っていますが、『パラサイト半地下の家族』が新たな映画の歴史を切り拓いたことも含めて、最後までとても楽しく、なおかつ嬉しく見ることができるアカデミー賞であったと思います。

最後に、実は二年連続で司会がいないオスカーとなりましたが、元司会経験者を含む豪華なメンバーによるリレーはかえって華やかな感じを生み出しました。

多くのスターを見ることができますし、このスタイルでいくのもいいかもしれません。

私は、24部門の内、長編ドキュメンタリーと短編ドキュメンタリー、短編実写と短編アニメーションが作品を見れていなかったの、残りの20部門を予想した結果、的中11、外れ9という惨敗でした。

とは言えその中に『パラサイト半地下の家族』の作品賞と監督賞があったので、悔しさは全くありません。

(文:村松健太郎)