ポルシェクラシックが手がけた1台だけの「クラシック プロジェクト ゴールド」があった。じわじわと人気が上がってきている993に改めてフォーカスを当ててみよう。

今からおよそ3年以上前のこと。ポルシェの特注部門である"ポルシェ・エクスクルーシブ・マヌファクトゥール"と、そこに近接するクラシック部門の"ポルシェクラシック"のスタッフたちが、たった一台ぶんだけ残っていた993用スペアボディの活用方法を巡って、互いにアイデアを出し合ったのが、コトの始まりだったという。
 
70周年を目標に、そのスペアボディを使って、特別なモデルを仕立てることができないか。ちょうど特注部門では、911ターボSの限定モデルをプランしていた。のちに、911ターボSエクスクルーシブとして登場する、世界限定500台の"スーパー"ポルシェターボだ。
 
70周年に向けて、ポルシェはタイカンという名の"未来"をカタチにしつつあった。けれども、ヘリテージを忘れたブランドに将来がないことも、よく知っていた。過去を大切にしつつ、未来にも力を入れるポルシェ、が理想である。残された993のスペアボディは、その理想を実現させるもうひとつの輪となった。よく知られているように、ポルシェの"生存率"、特に911のそれは高い。そのため、ポルシェでは古いモデルのオーナーが困ることのないよう、過去の純正パーツを揃えておくことに最も熱心なブランドのひとつと言っていい。そんなポルシェの取組みをアピールする絶好のチャンスとばかりに企画されたのが、「プロジェクト ゴールド」と呼ばれるナゾのプロジェクトだった。


 
ポルシェファンならご存知のように、8月までの数週間に渡って、そのプロジェクトの内容は小出しに公式サイトで報告されてきた。そして、"プロジェクト ゴールド"の成果は、ペブルビーチ・コンクールデレガンスを核に開催されるモントレーカーウィークにおいて熱心なポルシェオーナーたちの前で披露するとアナウンスされていた。
 
筆者も、ブラックエンベロープに金をあしらった、ポルシェにしてはゴージャスな招待状を受け取り、ビッグイベントが目白押しとなる前夜、モントレー半島にある最も標高の高いゴルフコースのひとつ、テハマ・ゴルフクラブへと向かったのだった。
 
披露されたのは、ゴールデン・イエロー・メタリックにペイントされた懐かしい993Sターボ、だった。否、懐かしいのはカタチだけだと言っていい。残されたホワイトボディをベースに、全く新たな993ターボSを組み立てた、と言ったほうが正しい。約5万2000点もの豊富な在庫を誇る純正パーツのなかから、993シリーズ用をかき集め、450psを発揮する3.6リッターの空冷水平対向エンジンはもとより、6段マニュアルトランスミッションや4WDシステムなども、新品が使われている。つまり、このゴールドに輝く993ターボSは、レストレーションではなく、ポルシェが現代に改めて造り上げた"新車"というわけなのだ。そのため、この車両には、98年にロールオフした最後の993ターボの、続きの車体番号が刻印されることになった。ちなみに、993ターボSそのものの生産台数は、わずかに345台であった。


 
しかも、ただ単に蘇らせたわけじゃない。前述したように、このプロジェクトはエクスクルーシブ部門との共同企画である。では、どこに彼らとのコラボレーションの成果があるのだろうか。

ヒントは、ゴールデン・イエロー・メタリックのボディカラーそのものにあった。この色は、500 台限定の911ターボSエクスクルーシブのテーマカラーと同じ、である。ホイールには、ブラックのトップコートをレーザーでリング状にキレイに剥がし、中からゴールドを浮き上がらせるという凝った処理が施されているし、インテリアにもゴールドが随所に映えている。実際、その質感は非常に高く、クラフツマンシップに溢れるものだった。


 
ひとつだけ、残念な点があるとすれば、このクルマを公式に登録することはできない、ということ。コレクションホールに収めるか、プライベートトラックで楽しむほかない。
 
だからといって、ポルシェが"最後"に造った"最新"の993Sターボの価値が薄れることはない。たった一台かぎりの新車である。2018年10月に開催されたオークションにて、341万5000ドルで落札された。