この記事は『ヨーロッパをお気に入りのポルシェ356で駆け巡ったオーナーが語る魅力とは』の続きです。

こうして数カ月間ロードスターを楽しんだ頃に、海外で冒険をする機会が近づいてきた。そこで、エンジンの点検を受けることにし、ジョン・モワットにシャシーダイナモテストの予約を入れた。台上試験の結果、後輪で97bhpという立派な数字を計測した。 

最初の本格的な遠出は、ノルマンディーのドーヴィルで開催されたポルシェ356国際ミーティングだった。ロードスターは非の打ち所のない走りをしたと胸を張って言える。金曜日にはこんな出来事があった。トム・ピードとジョン・ハーンと一緒にホテルへ戻る途中、田舎道を飛ばしていたときだ。前を走る青い小型車になかなか追いつけない。
 
私はそれでも踏み続けた。クラシックポルシェの実力を現代のクルマに思い知らせてやろうと思ったのだ。ところが横に並びかけたところで、そのクルマの側面に大きく書かれた「Gendarmerie」(軍警察)の文字が目に入り、あわててブレーキを踏んで後ろに引き下がった。ドライバーが笑みを浮かべるのが見え、「馬鹿なイギリス人だ」と思っているのだろうと私は恥じ入った。あとで聞いた話では、地元の警察は事前にイベントについて説明を受け、"観光促進のために"寛大な対処を約束していたのだそうだ。


 
次の長旅の目的地は、ル・マン・クラシックが行われるサルト・サーキットだった。様々な理由で思い出深い旅だ。食あたりに、シャンパンの盗難。911エンジンを搭載したジェズ・パーソンのクレイジーなVWデラックスバス。それに、ジェフ・タレルとデルウィン・マレットの漫才コンビ。
 
ロードスターもフランスの長いストレートを大いに気に入ったらしい。ジェフがドライブするGT3に並んだときには125mphにも達していた(ロードスターのタコメーターは完全にレッドゾーンだった!)。
 
その頃は、EMPIのスプリットリム型5本スポークのホイールで、Bのブレーキにフィットするようにクリアランスを広げ、そこに古い(つまり硬い)ミシュランZXタイヤを履いていた。しかし、90mphで走行中にウェット路面でスライドして肝を冷やす経験を2回ほどしたので、そろそろ交換する時期だと判断した。純正のRSKスチール/アロイホイールと、公道走行可能なレース用タイヤのエイボンCRに交換すると、安全性はもちろん、ハンドリングも即座に向上した(ただし当時の希少なホイールは、かなりの数のバランスウェイトを必要とした)。


 
私は妻のアンジェラと共にロードスターでほかの356国際ミーティングにも何度か参加した。オランダ、ベルギー、イタリアのほか、ドイツでは絵のように美しい"黒い森"ことシュヴァルツヴァルト地方などを巡った。クラシックポルシェでの長距離ロードトリップほど素晴らしいものはない。そうした旅でロードスターは信頼性と性能の高さを証明し、開けた道でのドライビングを堪能させてくれた。
 
その後、アンジェラが1958年スピードスターを購入し、数年間はスピードスターが356やクラシックカーのイベントに参加する際の足になった。とはいえ、ロードスターにレギュラーの座を失う理由があったわけではない。ただ、ひと味違うスピードスターの走りを私たちが楽しみたかっただけなのだ。
 
ちょうどその頃(2009年頃)、このロードスターを1980年代にアリゾナで所有していたディック・マクナルティーから連絡を受けた。彼の話はこうだ。購入したときにエンジンのスペアパーツが車内に放置されており、カーペットやトリミングにオイルの染みが付いていた。そこで、車内をきちんと清掃しようとシートを取り外したところ、「87901」とシャシーナンバーが刻印された小さな金属板を見つけた。彼はそれを私に送ってきてくれたのだった。エトナ・ブルーに塗られており、ドリルで角に穴がひとつ開けられ、クルマに結び付けるか固定できるようになっている。これは私の推測だが、当時は塗色を間違えないように、製造ラインではすべてのポルシェにこうした小さなタグを取り付けており、完成後か最終検査後に取り外していたのかもしれない。同じものを見たことのある人はいるだろうか。もしいたら、ぜひ話を伺いたい。


 
本来T5ロードスターの車重は850kgだが、私はトータルで100kgほど軽量化した。さらに1720ccのエンジンで出力もアップしているから、そのスピードはかなりのものだ。パフォーマンスは911Tと911E中間に位置すると個人的には思っている。ハンドリングとブレーキも抜群で、俊敏なのでスライドして遊ぶのも楽しい。ルーフを下ろして走るのが一番という点はスピードスターと変わらないが、サイドウィンドウは巻き上げ式のガラスなので、スピードスターのプラスチック製サイドカーテンより視界ははるかにいい。どちらもどこを取っても本当に楽しいクルマだ。ポルシェはたいていそうだが、惚れ込むか、ゾッコン惚れ込むかのどちらかである。
 
5年の休止期間をへて、私たちは3年ほど前から再びロードスターを愛用し始めた。今もクラシックス・アット・ザ・キャッスルやキングスヘッド・クラシックといったイベントへ出掛ける際に頻繁に使用している。息子のチャーリーがステアリングを握ることも多い。このクルマであと何回かヨーロッパ旅行に出掛けたいし、いつかオリジナルスペックにレストアするのもいいかもしれない。エトナ・ブルーは大好きだ(特に赤のインテリアとの組み合わせが)。しかし今のところは、将来の夢をあれこれと思い描きながら、この生き残りを日々楽しむことで満足している。これまでの15年とこれからの15年に乾杯。