マイ・ファースト911であった96 993カレラMTの懐の深さが忘れられずに、88ターボとの同棲が始まった94 993カレラ。しかしマニュアルではなく、Tiptronicだ。何故、時代遅れの4速しかないトルコン式ATのTiptronicを選んだのか。それは…同じく4速しかないMTのターボで得たある経験から、湧き出た好奇心によるもの。

毎週のように山登りで911カレラ3.2を駆り、追走してくる友人の証言によると、「6速の993カレラよりも、4速ターボの方が離され方が絶望的」にわかに信じ難い、この言葉の裏にあるのは、手動による変速回数の違いで、993よりも遥かに古い時代のターボでもアドバンテージを稼げる…ことなのか。しかも、すべてのギアが6速車に比べてワイドなおかげで、挙動が乱れにくくフルブーストがかかっても安定していて、心置きなくトラクションをかけるように踏める。変速回数が少ないから、ステアリングとペダル操作に集中できる…このメリットが4速ターボの美点であることは、今まで何度か記した。


4速ターボにTiptronicへのヒントが隠されていたとは…

その経験を活かして「魔法の足廻り」と名高い993で4速、しかもペダルが2つしかないTIPは遊べるに違いない!とまたしても根拠のあるような、ないような自信から、思い切ってTiptronicを選択してみたのだ。Tiptronicはベースがトルコン式ATとはいえ、低い回転域からしっかりとロックアップが効いてくれるし、MTモードにしておけばガンガン回せる。仮にDレンジに入れっぱなしでも、走行条件をコンピュータが分析して、予めマッピングされた5つの変速モードから最適なのを選んでくれるから、普通のATみたいな「意図しないアップシフト」もない。


今では古臭い感じすら感じる、左右独立ゲート式のスポーツATだか、その魅力は奥深い。

これこそが、あのポルシェが約30年近くも前に世に放った元祖スポーツATの真実。それを模倣したような、同時代の他車スポーツATとは似て非なる物。ギア比の合わない狭い場所では流石に苦労はするだろうし、MTのターボみたいに1速をロング化するような裏ワザも、物理的に不可能。しかし、993ならではの魔法の足廻りを活かせば、いくぶんかカバーできるかもしれない。そもそも…この数年間に受講した脇阪薫一氏レッスンで得た大切な事。


2ペダル、このメリットを活かさない手はない!左足ブレーキの練習だって思う存分できる。

それは…速く効率良く走るのに必要なのは、ガンガンMTを引っ掻き回すシフトテクニックや根性突っ込みなどではなく、いかに点と点を無駄なく結んで、最短距離で線を引けるか。彼らレーシングドライバーの仕事は趣味性や快楽を求めるものではない。とにかく速く走らなくてはいけない専門家ならではのアタマを使って走る、というやつだ。結果的に現代のレースカーでは2ペダルパドルシフトが主流になった。

つまり、「操縦」を楽しみたいのであれば手動MTじゃなくてもいいじゃないか。ギアの段数こそ少ないが、空冷時代のTiptronicだってステアリングとABペダルに集中できる「操縦」に専念できる。


Tiptronicだって、ここまでマフラーを白くできる。MT同様に「エンジンを回してやる」ことだ。

それでも「操作」に趣きがあり、それをひたすら楽しみたいのであれば、3ペダルとHパターン手動変速機を駆使して華麗な変速シークエンスを味わえばいい。3ペダルMTと2ペダルATの狭間にある、メリットデメリットをお互いに埋め合う楽しみこそが、我々素人趣味ドライバーに許された特権だ。915/G50、どちらが良いのか論争!と同じように、マニュアル/Tiptronicも、間違いなく同じポルシェ911。優劣なんか自分で決めればよい。

Tipじゃ走りを楽しめない!のではなく、Tipで走りを楽しんでやる!なのである。後編へ続く・・・