ル・マン・クラシックは2020年で10回目を迎える予定だったが、2021年へ延期となった。その10回目を記念して、ポルシェスペシャリストのポール・スティーブンス社がクラシック911をベースにした特別仕様車を10台のみで限定生産。そのプロトタイプを試乗した。

このページを飾る911は、モータースポーツから生まれた初期モデルを手本に、英国東部のポルシェスペシャリスト、ポール・スティーブンス社(PS)が造り上げたものだ。ベースにしたドナーは3.2カレラ。ル・マン・クラシックを主催するピーター・オート社と提携し、第10回大会を記念して10台限定で生産。1年半をかけて製造したのち、2020年のル・マン・クラシックのグリッド上で購入者に引き渡す予定だった。
 
プロジェクト誕生のきっかけをポール・スティーブンスに聞いた。「現在も続くモータースポーツイベントの中で、ル・マン24時間レースは最も象徴的な存在です。その歴史はもちろんのこと、関係者全員に求められる持続力とスタミナも他に類を見ません。作業を行うメカニックから、ステアリングを握るドライバーまで、人間的要素が鍵を握るのです。もちろんクルマも重要です。24時間にわたって続く苛酷なレースは、信頼性と耐久性を試す究極のテストの場です」
 
さらには、マシンを限界に追い込むサーキットも、長年の間に何度も意外な結末を演出してきた。
 
ル・マンの歴史において最も成功を収めたメーカーがポルシェだ。ヒストリックレーシングカーに対する苛酷さではル・マン・クラシックもひけを取らない。ポールはそこに目を付けた。主催者のピーター・オートに、第10回大会を記念する限定10台の911の生産を提案したのである。

「私は、彼らがカープロデューサーやスペシャリストと手を組んだ経験がないことに気づきました。そこで私たちは詳細な企画書を提示しました。製図や3Dレンダリング、外観を示したイラストなどに、彼らのスタイルを重視したグラフィックを添えて。変更を求められた点もいくつかあります。彼らはパリからやって来て、ここで1日過ごしました。マーケティング責任者のグレゴリーと、レースオーガナイザーのピエール-アントワーヌが、私たちのPSクラブスポーツ(やはりクラシック911をモディファイしたモデル)をじっくり見たり、ワークショップを見学したりして、1日かけてコンセプトの全体像を把握していきました。そして帰国後に、もう少し押し進めたいと言ってきたんです」
 


写真はプロトタイプなので、シャシーナンバーは"PS 00"だ。実際のル・マン・クラシック・クラブスポーツのシャシーナンバーは1から10になる。仕様はM471"ライトウエイト"とM472"ツーリング"の2バージョン。このプロトタイプはツーリング仕様で、ラゲッジエリアがあり、相応のトリミングや熱線入りリアウィンドウ、遮音材、アンダーコートを備える。つまりは長距離ドライブに使えるクルマだ。対してライトウエイトは、サイドとリアウィンドウがポリカーボネート製で、アンダーコートもない。乾燥重量はツーリングが1070kg、ライトウエイトが970kgだ。
 
10台はクーペのみで、クラシカルなロングボンネットとシームレスなルーフ(いわゆる"雨樋"はない)を備え、フロントフードはアルミニウム製。塗色はカレラ・メタリックホワイトに緑と黒のストライプで、ル・マン・クラシックのロゴがドアとエンジンフードにあしらわれる。フロントパンパーとダックテールはカーボンコンポジット製だ。あの雨樋を排したこともボディシェルにすっきりした印象を与えているが(ちなみに実車はフロントウィンドウが964と同じ接着式になる)、調整可能なレーシング・ドアミラーと、サンルーフがない点も見逃せない。「サンルーフはなくしました。単に埋めたのではありません。ルーフスキンを丸ごと交換したんです。そのほうがきれいに仕上がるので。見ていただけば分かる通り、パネルギャップはオリジナルの3.2カレラよりずっと狭いですよ」



「ボディシェルには意識してナローの印象を残すようにしました。モットーは"少ないほどいい"。つまりは軽量化です。それは私がケータハムでレースをしていた頃にまでさかのぼります。クルマをより速くする方法はといえば、まずは可能な限り重量を削ることです。ところが、せっかく余分な重量物を取り除いたのに、ついブレーキやホイール、タイヤを大きくしたくなって、また重量が増え、結局は遅くなってしまう。そういうクルマには手こずります。機能性よりスタイルが優先されているからです。私たちが目指すのはその逆。機能性を重視し、すべてに目的を持たせています」

「オリジナルの3.2カレラはホイールのリム幅が6Jと7Jですが、それを7Jと8Jに拡大しました。ホイールアーチにフェンダーローラーをかける必要はありましたが、前後とも幅が1インチ広いものを装着できました。しかし、ブレーキディスクは標準のままです。オリジナルから200kg以上減量したので、ブレーキを拡大する必要はありません。それより重要なのはステアリングフィールです。軽量化によってフィールも増します」


特にユニークな点は?<次回へ続く>