グループ・エム率いる生越 守氏は、常にポルシェのコーディネートを考えてきた。特に思い入れのあるナローポルシェは、寝る間を惜しんでアレコレと夢想する。その上で過去の経験を踏まえ、かつ自社の卓越したレストア技術を総動員させて単に純正を模すだけではなく、自分なりの解釈を加えたインテリアを構築する。

とある個体をどう作ろうかと考えている時、私にとって一番楽しい時間は、インテリアのコーディネートを模索している時なのかもしれません。エクステリアや機関に関して、私はさんざん試しましたし、世界のビルダーやチューナーたちからも、ありとあらゆるアプローチが提案されてきました。しかし、インテリアって意外と後回しにされるような気がします。常にドライバーの身体を包み、五感へと訴えかけ、あるいは視界に入ってくるインテリアこそ、徹底的に自分好みのコーディネートをすべきではないかと考えています」
 
グループ・エムを牽引する生越 守氏は、所狭しと並べられたレストア中のナローポルシェたちを前にそう述べる。せっかくボディのすべてを見直す作業だ。できる限り、ユーザーの希望を汲み取った仕様に持ち込みたい。もちろん、純正に忠実に従って再構築することだって否定はしない。ユーザーが望めばそれが正解だ。しかし、せっかくなら自分の好みや感性を活かして、そこにオリジナリティを含ませる提唱をしてきた。
 
オリジナリティとはいっても、生越氏には、今まで述べてきたボディやエンジンワークと同じようなルールがある。そのクルマが現役で走っていた時代の雰囲気を踏襲させるということ。例えば、この時代にはカーボンやアルカンターラは普及していない。もちろんナビをはじめとするAV機器もない。時にアフターパーツやリ・プロダクションパーツを使うことはあっても、決して時代を超えたバージョンアップはせず、当時の雰囲気を残したようなコーディネートを信条とする。


生越氏の愛車とは異なるラグジュアリーな雰囲気を持つ1972年911T。現状でも充分に綺麗な状態だが、これからさらにインテリアのリフレッシュが実施される。

「もちろん、ナローポルシェに限らず趣味としてクルマを楽しまれる方に対して、決して自分の考え方を押し付けるようなことはしません。レギュレーションは乗り手が自分で定義するもの。あくまで僕なりのアイデアとして、参考にしていただければいいと思います」
 
その考え方は、生越氏が数十年来ともに過ごしてきた2台の愛車を見ればわかる。1台は1972年の911Sをベースに、往年のカレラRSR2.8をモチーフとしたもの。まるでたった今、ポルシェのファクトリーから出荷されてきたばかりのような純白のボディに対して、インテリアはセオリー通りの黒で統一される。ダッシュボードや各種の部品は純正を使いつつも、フロアには当時の純正を思い出させる薄いカーペットが独自に敷き詰められる。シートも純正のバケットタイプを、綺麗にレストアして装着している。さらにRSRがモチーフだからこそ、マター製のロールケージが車室を覆い、当然ながらリアシートはキャンセルされている。ちなみにRSR3.0を彷彿とさせるもう1台は、さらにレーシーだ。フロアのカーペットもなく、ダッシュボードもまたレーシングカー然としていて何もない。当時を駆け抜けたRSRを、忠実に切り取って成立させている。これを見たら、当時のポルシェ・エンジニアやファクトリードライバーは感銘を受けるかもしれない。



「これらの車両は、ポルシェに対する私なりの敬意と、さらには個人的な趣味嗜好が手伝って、レーシングな雰囲気を強調させました。しかし、ナローポルシェの魅力は決してそれだけではありません。グレードごとに異なる持ち味があって、とても多彩な表現ができるようなクルマです。TやEなどがベースだったら、あるいはタルガボディだったら、華やかなタンレザーや千鳥格子のファブリックなどで、ラグジュアリーな雰囲気を際立たせるのもいいですね」


 
この日、リフレッシュのためファクトリーに入庫していたクルマは、まさにそんな仕様だった。色鮮やかな深緑のこの個体は、1972年式の911Tである。「Touring(ツーリング)」の頭文字を取ったとされるTだけに、その性格に見合うような遊び心のあるグランツーリスモ路線が貫かれる。インテリア・コーディネートは、決してエクステリアや機関と無関係ではない。内外装の色味や、年式やグレードごとに異なる走りの感触を踏まえたコーディネートの成功例に思える。
 
シートはタンレザーでダッシュボードやカーペットも同系色で統一される。作業の前段階ということでインテリアはそれなりに経年劣化が見受けられるが、そのヤレ具合もまた味わい深い。華やかな雰囲気に加えてこの”時代感”を残したまま、着々とリフレッシュが行なわれていた。
 
一例としてシートを取り上げる。全体的に色がくすんで随所に擦れや破れが見受けられるうえ、中身のウレタン(アンコ)部分もヘタり切っていた。これをグループ・エムの技術でよみがえらせる。この日はたまたま施行前後のシートを見比べることができたが、新品のようになったシートを前に、まるでタイムスリップしたかのような感覚を抱く。Tに採用されるシートはコンフォートで、SやRSはよりホールド性に富んだスポーツシートが用意される。参考までにグループ・エムが蘇生させたシートをいくつか見せてもらった。常に年式やグレードを見据えて、どのような部品が使われたか考えながら作っていくようだ。


 
もちろん、ポルシェ純正部品を調達する能力に長けているのは言うまでもない。しかし、今ではポルシェ純正部品のすべてが手に入るわけではない。だからこそ、ただ新品に交換するだけではなく、朽ちた部品を再生させる部分にこそグループ・エムの技術力が光る。また、幸いなことにポルシェ911は、リ・プロダクションパーツが豊富だ。しかし、本物と見間違うような忠実かつ高品質なものから、安っぽいものまで市場に流通するものは千差万別だという。ナローポルシェが新車で売られていた時代に経験を積んできた生越氏は、あらゆる記録はもとより、彼の身体に染み付いた記憶の部分までを総動員して、それらを見極めてきた。だからこそ、リ・プロダクションパーツを使ったり、現代の生地や糸で裁縫したとしても、きっちりと60〜70年代当時の雰囲気が維持される。

「リ・プロダクションパーツにはメーカーによって私の中でのランク付けがあって、最上級と思えるものを厳選して投入します。また、空冷911は993までの30年以上、同じボディシェルに似たようなインテリアが続いたので、高年式の部品だって簡単に装着することができてしまう。だからこそ、この時代の雰囲気を残すためには、正確かつ的確なモノ選びと、それを破綻させずにきっちりまとめる技術が必要だと考えています」

 
 
確かな情報量と技術力を持ったグループ・エムに対してインテリアメイクを相談できるのは、ユーザーにとって、とても心強いことのように思う。生越氏はただ単に純正崇拝をするわけではなければ、やみくもに改造してチグハグな雰囲気に崩してしまうこともない。ナローポルシェに限らずクラシック・ポルシェの世界観を尊重し、ユーザーと徹底的にコミュニケーションを取って微細にわたるコーディネイトを提案してくれる。だからこそグループ・エムが再構築するポルシェは、他の何にも似ていない唯一無二の存在となる。それはユーザーにとってみたら、世界に1台、自分だけのクラシック・ポルシェである。