色鮮やかな当時の情景そのままに、憧れていた夢や憧れを現実のものにする。その対象がナローポルシェだった場合、生越 守氏率いるグループ・エムは心強い。抜群のセンスと優れた技術を持つ彼らのレストアを、今回、ボディ側から覗こう。

「ナローポルシェと括られる年代のポルシェ911をどう捉え、向き合っていくか。ここ数年の価格高騰化に伴って投機対象とされるような風潮や、それに付随した短期的な価格の乱高下に一喜一憂する前に、まずは半世紀近くも前の旧いクルマということを念頭に置きたいですね。日に日に個体がなくなっていくのはやむを得ない。しかし、それを憂うのではなく、逆境だからこそどうやって空冷911を楽しむか。そんなことを日々考えてきました」
 
グループ・エムの代表を務める生越 守氏は、そうして今まで数えきれないほどのポルシェ911を修理し、自分なりのモディファイを加えてきた。取材で訪れた日も全国各地からあらゆるポルシェが入庫して、まさに駆け込み寺の様相を呈していた。


 
その整然としたファクトリーには、グループ・エムの核と言えるレストア部門がある。ここではあらゆるボディワークや、エンジンをはじめとする機関系の重整備まで、すべての作業がインハウスで行われる。1台につき年単位の時間がかかることもめずらしくない。丹念にレストアされた個体は、まるで新車のような色艶を持って第二の人生を歩み出す。
 
ユーザーからの希望には可能な限り応えてきた。基本的には誰の意見も否定することもなく尊重する。だが、生越氏には確固たる信念がある。「程度の良いクラシックポルシェが減った今だからこそ、単に純正崇拝をするのではなく、いろいろな組み合わせを試したい。私はナローのコーディネート術を提唱しているのかもしれません」
 
純正をリスペクトしつつも、ポルシェが歩んできたその後の歴史を見据えて、高年式の部品を組み合わせたり、アフターパーツを使ってオリジナルの1台に仕上げる。あるいはTやEといったグレードの個体をカレラRSスペックに持っていく。そうした幅広い考え方で"ナローポルシェ"を構築する。


 
それならば、もっと高年式の車両をベースにナロー化したほうが手っ取り早いという意見もある。例えば964改ナロールックなら、快適なナローが手に入る。出力性能や快適性で言えば高年式のモデルに分があるからだ。しかし、生粋のナローならでの魅力として、生越氏は"軽さ"に魅力を見出す。

「同じ300馬力であっても、車重が1トンと1.5トンではその価値がまるで違う。クルマは軽いに越したことはない。基本的には同じ骨格が維持されてきた空冷911の中でも、ナローの軽さは絶品です」 たとえ軽くても、ボディが脆くては台無しだ。そのナ軽さを最大限に活かすためには、ボディには相応の強さが必要となる。半世紀近くも前の車両のうえ、溶解亜鉛メッキで防錆処理されない頃である。錆による腐蝕を取り除いて作り直し、随所に補強を加える。グループ・エムはそうした作業を得意とする。


 
今まで数えきれないほどのレストア実績を持つグループ・エムである。腐食の激しい部分を見定め、その気になればすべてをイチから起こしていく。ボディ構築に関して厳密な設計書などなくても、あらゆる情報と経験を加味して、時に職人の指先の感触頼りに仕上げていく光景には圧倒される。搭載されるエンジン性能を見越して、そうとは気づかせない程度に純正設計+αの補強を加える術もある。

「乗られる方の好みや、走るステージに合わせて、ボディワークやエンジンなどにほんの少し手を加えます。とはいえ、70年代の雰囲気や時代背景を無視したチューニングではない。当時の面影が残る佇まいや世界観を意識して作ってきました」
 
この日は並行して2台の作業が進められていた。1台は1972年式の911Sで、純正に準じたフルレストアの最中だった。さらに塗装ブースに入っていたものは1973年式の911T。こちらはボディを終えたら、エンジンをカレラRS2.7に準じたうえでほんの少しハイコンプ仕様とした2.7リッター改を搭載する予定だという。忠実に純正に戻してもよし、ユーザーの希望や用途を加味したファインチューニングを加えてもいい。その幅の広さがまた魅力である。


 
グループ・エムには、当時の憧れを現実のものとするセンスと技術がある。それを再確認し生越氏の考え方を聞いていた時、昨年に公開され、今もなお話題を集める映画「ボヘミアン・ラプソディ」をふと思い出した。この作品は70〜80年代に世界を席巻し、日本でも絶大な人気を誇ったロックバンドであるクイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーのドキュメンタリー映画である。当時を知る者は懐かしさを覚え、若者にとっても新鮮なエンターテイメントとして、異例のロングヒットを続けている。ストーリー性云々はもとより、当時、ラジオやレコードでしか得られなかったクイーンが、最先端の映像技術を持ってこの時代で可視化できるのだから、往年のファンにとっては堪らないようである。
 
クイーンという存在を、ナローを含む空冷時代のポルシェ911だとしたら、グループ・エムはまるで映画の制作者として『ボヘミアン・ラプソディ』の感動をユーザーへ提供しているようだ。最新の技術を駆使した完膚なき仕上げを提供するものの、あくまで当時の雰囲気や世界を尊重し、過度なまでの演出は控えるあたりなど、まるでそっくりだ。
 
グループ・エムは、当時憧れたポルシェ911をこの時代によみがえらせ、ユーザーの趣味嗜好までを見越したクルマをオーダーメイドで紡ぎあげる。ユーザーにとって千差万別な”ナインイレブン・ラプソディ”がこの工房から始まるのである。