【初試乗】世界初「可変圧縮エンジン」を搭載するインフィニティQX50の走行性とは?

【初試乗】世界初「可変圧縮エンジン」を搭載するインフィニティQX50の走行性とは?

VC-TURBO
for INFINITI QX50

基礎から学ぶ「可変圧縮エンジン」。

ピストンが下がって吸気バルブが開き、空気と燃料がミックスされた混合気を吸い込んで(吸入行程)、バルブを閉じたらピストンが上がって吸い込んだ混合気をギュッと圧縮(圧縮行程)、プラグで火花を飛ばして点火、混合気が燃えて爆発し、その勢いでピストンを押し下げた後(燃焼・膨張行程)、排気バルブが開いてピストンが上がり燃焼済みの混合気を押し出す(排気行程)。ピストンが下がって上がって下がってまた上がるという4回の上下運動で4つの行程が完結するから「4サイクルエンジン」と呼ばれているのはご存じの通り。料理に例えるなら、吸入は食材調達、圧縮は下ごしらえ、燃焼・膨張が調理、そして排気が後片付けといった感じだろうか。

「効率」の意味とは?

最近では「効率」という言葉がエンジンの解説には必ず添えられるようになった。熱効率や燃焼効率などの総称で、要するに「なるべく少ない燃料をなるべくきれいに燃やして、なるべく大きな力を得る」ことを意味していて、自動車メーカーはこれを実現するべくさまざまな知恵を絞っている。排気量を小さくして(=使用燃料を少なくして)過給機でパワーを補う「ダウンサイジングエンジン」もその一例である。

ニッサンが着目したのは「圧縮比」。

下ごしらえの行程でもっとも重要なレシピのひとつである。これを可変するエンジンを開発した。

圧縮比とは吸い込んだ混合気をどれくらいまで圧縮するかを数値で示したもの。ピストンが一番下にある状態を下死点(=排気量)、一番上にある状態を上死点(=燃焼室容量)と呼び、燃焼室容量と排気量を足したものを燃焼室容量で割って算出された数字が圧縮比である。燃焼室容量が小さいほど(=ピストンの上死点が上にあるほど)圧縮比は高くなり、圧縮比が高いほど出力/トルクの向上が期待できる。現在のガソリンエンジンの圧縮比はざっくりと8から14くらいの間に設定されているが、だったら圧縮比はとにかくできるだけ高くしたほうがいいと思うけれど、そう簡単に事は運ばない。

圧縮比を「可変」することで解決。

圧縮比を高くするとノッキングを誘発する可能性がある。圧縮行程ではプラグが火花を飛ばして混合気が燃え広がっていくのが通常の状態だが、燃焼室容量が小さくなる(=圧縮比が高くなる)と、燃焼室の隅のほうで燃焼が伝播する前に自己着火して燃焼してしまう。これがノッキング。ノッキングを起こした付近の温度は、正常時が200〜300度であるのに対して約2000度という高温に達するからピストンやシリンダー内壁が損傷する恐れがある。圧縮比を高くするには、ノッキング対策が必要不可欠となる。

しかし厳密に言えば、圧縮比は常に高くなくてもいい。状況に応じて圧縮比が可変できればそれに越したことはなかったが、エンジンを積んだ自動車が発明されて以来、圧縮比は固定されるものだと決まっている。ニッサンはその常識を覆したのである。

4つのリンクによって容量を変化。

ニッサンはこのシステムを「マルチリンク可変圧縮比機構」と呼んでいる。通常ならピストを支えるコンロッドが直接クランクシャフトと連結するが、コンロッドの代わりにUリンク、クランクシャフトにLリンク、Lリンクの動きを司るCリンク、アクチュエーターとCリンクを繋ぐAリンク、といった具合に4つのリンクを使って燃焼室容量を変化させることに成功した。こうして文字で書くとよく分からないと思うのでイラストを参照していただきたいのだけれど、要するにポイントはLリンクにある。

8:1から14:1まで無段階に可変。

燃焼室容量を変えるにはピストンのストローク量を変えなくてはならず、ピストンのストローク量を変えるにはクランクシャフトの位置を上下さなくてはならない。しかしエンジンの構造上、クランクシャフトの位置を動かすことはできないので、クランクシャフトにLリンクをかまし、これにコンロッドの代わりになるUリンクを繋ぎ、アクチュエーターを使ってCリンクからLリンクを動かしストローク量の調整を可能としたのである。これにより、圧縮比は8:1から14:1まで無段階に可変するという(ピストンの上死点の位置の差は約6mm)。

排気量は法規上統一。

ちなみに、ピストンのストローク量が変わるということは、排気量も微妙に変化するわけで(1970cc〜1997cc)、車検証の排気量表記はどうなるのか? 実際に試乗車の車検証を見せていただいたが、最大排気量の1997ccと書かれていた。法規上、これで問題ないそうである。

2リッター直4でも、3.5リッターV6とほぼ同等のパワー!

マルチリンク可変圧縮比機構を備えたエンジンは「VC-TURBO KR20DDET」と呼ばれる。直列4気筒にターボを備えたユニットで、当然のことながらボアは84.0mmで固定、ストロークは88.9mm(圧縮比=14.0)から90.1mm(圧縮比=8.0)まで状況に応じて無段階で可変する。最高出力は200kW(272ps)、最大トルクは390Nm。ニッサンのVQ35DE(3.5リッターのV6自然吸気エンジン)のパワースペックが273ps/341Nmだから出力はほぼ同等、トルクは約14%増。燃費は約30%向上しているという。

エンジンの重量もKR20DDETが137kg、VQ35DEが155kgで18kg軽い。燃料噴射装置はポート式と直噴の併用で、直噴は多段噴射する。

試乗車は、KR20DDETを搭載した「インフィニティQX50」で、北米市場で販売されているものの、残念ながら日本での販売予定はないモデルである。

試乗中に気づくことはない「可変」。

メーターパネル内に圧縮比が可変する様がリアルタイムで見られるインジケーターが表示できるので、それを見ながら試乗することにした。驚いたのはその可変の速さである。圧縮比の隣にはターボのブースト圧が同時に表示されるのだけれど、ほとんどそれと同じような速度で針が動く。前述した複雑なからくりが、スロットルペダルの微妙な動きに対してこれほどまでに敏感に動いているとはにわかに信じがたい。圧縮比の変化が音や感触としてドライバーに伝わってくるかといえばそんなことはなく、インジケーターを表示しなければまったく分からない(メーターパネル内に圧縮比をリアルタイムで表示できる〈右側〉。「Eco」のほうが圧縮比が高い。写真は、CVTを「P」に入れたままスロットルペダルを踏み込んで空ぶかししている状態)。

二次振動のない「回転フィール」。

アイドリング回転数から最大トルクを発生する1500rpmくらいまでの過渡領域でちょっとトルクが細いと感じるのは、2リッター直4ターボの典型的な特性で、これ自体は可変圧縮比とほとんど関係ないと思われる。一方で、2リッター直4ターボらしからぬ所作を見せたのは回転フィールだった。直4エンジンには二次振動がつきもので、これを打ち消すためにバランサーシャフトなどを追加するのが一般的だが、KR20DDETは二次振動がほとんどなく、バランサーシャフトも持ち合わせていないという。

V6に近いスムーズな吹け上がり!

通常のエンジンはピストンが上下すると、クランクシャフトと繋がれたコンロッドは時計の振り子のように左右に動く。ところがこのエンジンは、コンロッドの代わりとなえるUリンクがクランクシャフトの動きに関係なく、ほぼ真っ直ぐに上下運動を繰り返すのでシリンダーごとのピストンスピードの差が出にくく、振動が大幅に軽減されているそうだ。実際、直4とは思えないほど滑らかに回る。完全バランスの直6にはさすがに及ばないものの、V6に近いスムーズな吹け上がりは正直驚かされた。

やっぱり「技術のニッサン」!

ほとんど死語となってしまった「技術のニッサン」が、実はいまでもちゃんと現存していることが確認できたのは、日本人として嬉しい限りである。ただ、現在のニッサンの国内における商品戦略については「いつまでe-POWERで引っ張るつもりか」「フェアレディZやエルグランドはいったいいつモデルチェンジするのか」「ニューモデルの追加はまったくないのか」など、首を傾げたくなるのも事実。だからといって、インフィニティの日本展開はレクサスの悪戦苦闘ぶりから鑑みて、必ずしも得策ではないような気もする。でも、この可変圧縮比エンジンを既存の車種に搭載することぐらいはできるだろう。エンジニアの努力が母国でもきちんと報われるような今後の商品戦略を期待したい。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

【補足】

2リッターの直列4気筒ターボ+CVTを横置きする「QX50」。このユニットは縦置きもできるそうで、FR車へのコンバートも可能だとのこと。

マルチリンク可変圧縮比機構の構造と作動原理。Uリンク/Lリンク/Cリンク/Aリンク/アクチュエーターを使い、燃焼室容量(=上死点のピストンの位置)を調整することで、圧縮比の可変に成功した。


エンジン回転数とトルクから、圧縮比が実際にどのように変化しているのかを表したグラフ。トルクが150Nmくらいまでなら常用域の回転数では最大圧縮比の14.0を使っていることが分かる。

VC-TURBO ENGINE

(GENROQ Web編集部)


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