二拠点暮らしから一拠点へ。移住から5年で考える、新しい暮らしと仕事

二拠点暮らしから一拠点へ。移住から5年で考える、新しい暮らしと仕事

第三子の出産を機に考える、新しい暮らしと仕事

北海道にエコビレッジをつくりたい、そんな夢を掲げて連載を始め、この回で丸2年となった。これまでのことを一度振り返ってみるのにちょうどよい時期かな? と思っていた矢先、自分の暮らしを見つめ直す大きな出来事がやってきた。予定日より1か月弱早く、7月中旬、第三子が産まれたのだ。

予定日より早く生まれたため、1日保育器で過ごしたが、その後はスクスク元気に育ってくれている。

思い返せば、自分にとって出産は人生の大きな節目となっている。第一子が産まれて半年後に起きたのが東日本大震災。震災は、小さなわが子をこれからどうやって育てていくのかをあらためて考えるきっかけとなり、東京から北海道への移住を決断した。幸いなことに、当時務めていた東京の出版社は、在宅勤務で働くことを認めてくれ、それから3年ほど北海道と東京を往復しながら勤めを続けた。

しかし、第二子が産まれた年に、その出版社が民事再生法を申し立て、私はフリーランスの編集者として独立した。

そして、今回、第三子の出産と重なったのは、岩見沢の市街地から、人口わずか400人ほどの山間部の美流渡(みると)地区への転居だった。

長男6歳、長女3歳。赤ちゃんとの初対面。「小さい〜、かわいい〜」と興味津々の様子だった。

改装中の古家。現在の住まいは、岩見沢の市街地。そこから車で30分ほどのところが、転居を予定している美流渡地区。山間の美しい景色が広がる。

わが子の誕生と自身の転機が重なったのは、偶然と言えば偶然なのだが、出産は、まるで自分も生まれ変わったような感覚を味わう体験と言えるため、新しい気持ちで暮らしを始める、とてもよいタイミングとなっているのは確かだ。

この美流渡への転居にあたって、わたしが目標としているのは、二拠点暮らしから一拠点暮らしへのシフトだ。都会と田舎の両方の良さを取り入れようとする二拠点暮らしは、ウェブや雑誌でも話題のライフスタイルとなっているが、2012年から約5年、東京と北海道を往復してきたわたしとしては、できれば早く北海道へしっかりと根をおろしたいという気持ちのほうが勝っている。

私の本業は編集者。主にアートやデザインの専門誌や書籍などの仕事が多く、依頼のほとんどは東京の出版社からだ。月に1回、1週間から10日ほど東京に滞在して打ち合わせや取材を行い、北海道に持ち帰って原稿をまとめたり編集をしたりしてきたが、第三子が産まれたいま、二拠点の往復は、当分のあいだ難しい状況となった。

しかも、第二子もまだ3歳。2歳の頃までは、飛行機代がかからないので一緒に東京に連れて行っていたが、これからは留守番を強いることになるだろう。別れ際に泣かれたりすると、こちらも本当に辛い気持ちになり、東京滞在中も気が気ではなくなってしまう。

こうしたこともあって、子どもが小さいうちは、やっぱり拠点はできるだけひとつのほうがいい、というか、そうするしか方法はないんじゃないかというのが、わたしの考えだ。

いまのところは出産後も、東京の出版社から仕事の依頼はやってきているが、やはり一度は直接顔を合わせて打ち合わせたいという案件も多く、徐々に東京の仕事は減らさざるを得なくなるだろう。そのため、いま仕事の内容を根本から変えていく必要に迫られている。

出産後6日間で退院。退院の日、家族でささやかに誕生日を祝った。

自分の暮らしを極めてこそ、おもしろい本がつくれるのかも?

こうした試みのひとつといえるのが、この連載でも紹介したことのある、自分で小さな本をつくる活動だ。今春に1冊、自分が岩見沢の山を購入した体験記をまとめ、これによって一筋の道が見えたように思えた。これまで20年以上、編集者として本づくりに関わってきたが、自分自身の体験をまとめ“著者”となったのは、これが初めてだった。

そして、この本をつくって強く思ったのは、頭の中でおもしろそうなネタを考えるだけではダメで、自身の暮らしを工夫したり、可能性を拓くような挑戦を極めていかなければ、本としてみんなが興味を持ってくれるようなネタは生まれないんじゃないかということだった。

美流渡への転居も、こうした考えに基づいている。美流渡はかつて炭鉱街として栄えたが、現在は過疎化が進む地域だ。夫が現在改装を進めている古家があるのは、裏に山が広がり、シカや野うさぎが現れる、自然に囲まれた場所。ここで、まずは畑や山の恵みを生かした暮らしを実践し、さらに6月から始めたクリエイターをゲストに招くワークショップの活動〈みる・とーぶSchool〉を通じて、地域の人々との出会いの場をつくっていけたら。

同時に空き家や空き地が多いこの地域だからこそ、エコビレッジができる可能性についても探っていきたいと思っている。

現在、すでに新しい本の制作を進めている。この本は、大先輩のグラフィックデザイナーとの共同プロジェクトで、わたしが日ごろ目にしている、北海道の自然の営みをテーマに小さな絵本をつくるというものだ。この地に生息する植物の成長をじっと観察するなかから、物語を紡ぎ出そうと試行錯誤を重ねている段階だ。

いまはまだ古家は改装中のため転居は先になるが、これまで以上に自然に近い場所で暮らすことで、こうした絵本づくりにも、きっとよい影響があるにちがいないと期待を持っている。

通常であれば、過疎地に転居すると仕事を探すのが難しくなるが、あえてこうした場所で暮らしそのものを変えていくことによって、自分なりのネタを探り仕事につなげていこうという、ある意味無謀なこの挑戦……。

夫は古家の改装に忙しく、子どもも3人。一家5人を養うお金は、わたしの収入だけという待ったなしの状態で、こんなことしていて大丈夫? と自分でも不安がよぎるが、不思議と出産後は大胆な気持ちになれるので、この転機を逃さず、まずは信じた方向に歩みを止めず進んでいこうと思っている。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、2001年『みづゑ』の新装刊立ち上げに携わり、編集長となる。2008年『美術手帖』副編集長。2011年に暮らしの拠点を北海道に移す。以後、書籍の編集長として美術出版社に籍をおきつつ在宅勤務というかたちで仕事を続ける。2015年にフリーランスとなり、アートやデザインの本づくりを行う〈ミチクル編集工房〉をつくる。現在、東京と北海道を行き来しながら編集の仕事をしつつ、エコビレッジをつくるという目標に向かって奔走中。ときどき畑仕事も。http://michikuru.com/

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