みんなでおいしく食べられる“未来のお肉”とは? 葉山の食ベンチャーの挑戦

みんなでおいしく食べられる“未来のお肉”とは? 葉山の食ベンチャーの挑戦

葉山の古民家で創業した「食ベンチャー」

神奈川県葉山町の森戸海岸のほど近く、この先に何があるのだろうかとワクワクする小道がある。歩いて抜けると、季節の草木や花が咲き、小動物もふらりと現れるリノベーションされた古民家があった。

車が通れない小道を通って〈SEE THE SUN〉を訪れた。

車が通れない小道を通って〈SEE THE SUN〉を訪れた。

ここは〈SEE THE SUN〉という食ブランドの本社。葉山のこの場所から、世界が抱えるさまざまな食に関する課題に向けて、発信し、行動していくという。

流木でつくられた看板がお出迎え。

流木でつくられた看板がお出迎え。

SEE THE SUNでは、動物性の原料を一切使っていないヴィーガン対応や、小麦などに含まれるグルテンを使用していないグルテンフリー、食物アレルギー物質である卵や乳製品不使用などの食品を多く発売している。

〈ZEN MEAT〉という玄米入りの大豆ミートを中心に、グルテンフリーの玄米クッキー〈BROWN RICE COOKIE〉や玄米パン〈ROUND BREAD MADE FROM BROWN RICE〉、発酵した豆乳でつくった〈SOY CHEESE〉などを展開している。

こうして見てみると特定の人に向けられた食品を発売しているようだが、本来の目的は正反対で、みんなが食べられるものをつくることにある。

〈ZEN MEAT〉はFILLET、MINCE、BLOCKの3種類。下はZEN MEATが入ったレトルトの〈KEEMA CURRY〉、〈EUROPEAN STYLE CURRY〉、〈BOLOGNESE PASTA SAUCE〉。

〈ZEN MEAT〉はFILLET、MINCE、BLOCKの3種類。下はZEN MEATが入ったレトルトの〈KEEMA CURRY〉、〈EUROPEAN STYLE CURRY〉、〈BOLOGNESE PASTA SAUCE〉。

実はSEE THE SUNは、製菓メーカー〈森永製菓〉の社内ベンチャーである。代表取締役社長である金丸美樹さんは、森永製菓でスタートアップ企業などを支援するアクセラレータープログラムに従事し、学童保育所に食を宅配する会社を支援していた。ここで感じた「学童保育所や幼稚園などでのアレルギー対策への思い」がブランド発足のきっかけとなった。

ある幼稚園から「食物アレルギー体質の子どもも含めた全員が、一緒に食べられるお菓子はないか」というリクエストがあった。もちろん小麦や卵を抜いた製品をつくることは技術的に可能ではあったが、少量だけつくるのではコストがかさんでしまう。そしてなにより、子どもたちが食物アレルギーによって区別されてしまう現状をどうにかしたいと思った。

「幼稚園や学童などでは、子どもの体質によって違う食べ物を配りますが、万が一の間違いがないように、教室にカーテンが引かれたり、お盆の色が違ったりする現状があります。小麦が食べられない子には“おやつナシ”にして、『自分がアレルギー体質であることをわからせる』という先生もいて。安全面、教育的観点からの理屈はわかりますが、その様子を見て単純に、楽しそうではない、と感じたんです」

それならば、全員にグルテンフリーや卵や乳不使用のお菓子をおいしく食べてもらったほうがいい。そのほうが食を楽しむことができる。それも豊かな食文化のひとつだろう。

ZEN MEATが使われたレトルトカレー〈KEEMA CURRY〉や〈EUROPEAN STYLE CURRY〉をいただいた。通常のお肉と遜色なく食べごたえもあっておいしい。ZEN MEATを使ったガパオライスやチリビーンズ、SOY CHEESEのカプレーゼなど、すべてがおいしかった。この「おいしい」という感覚が重要だ。

「ヴィーガンや食物アレルギーではない人が食べても、おいしいと思える味じゃないと続きません」

最近では、ヴィーガンやハラールへの理解も増えてきた。敢えてそうした飲食店に行く人も増えてきているが、まだまだ彼らと一緒に食事をすることが簡単ではない現状がある。そこに差がなく、和食、中華、イタリアン、フレンチ、そしてヴィーガン、ハラールと、すべてが並列になっていけばいい。

「日本ほど、いろいろな食文化をとりいれている国はありません。逆に言えば、どんな食でも受け入れる素地があるのではないか。そして食文化の違いを認識していけば、文化が異なる人にもやさしくしていけるのではないかと思うんです」

食物アレルギーでも、食文化でも、食の違いによって人と人の間に境界線を引いてしまうのはもったいない。みんなでひとつの食卓を楽しく囲むことができれば、コミュニケーションをとって、仲良くなれる。これも食が持つ一番の“効能”かもしれない。SEE THE SUNはそんな食のブランドを目指している。

ローカルが持つ食への思いとともに

食の世界はグローバル化が進んでいくなか、一方で、多様でもある。本来は地域ごとに食文化があり、最近では地産地消やローカルが果たすべき価値が見直されてきた。SEE THE SUNでもローカルと協力した「コ・クリエーション」を掲げている。

商品は、完全自社製造ではなく、地域のメーカーとも組んで製造されている。金丸さんは地域で一生懸命に商品開発に取り組んでいる人たちを見て、その熱意に胸を打たれたという。

「新しいものを発明するのは、エジソンのような個人の発明から、企業の研究室で生まれたものまでいろいろな歴史がありますが、いまは、個人や起業家、事業家、そして想いのある生産者と企業とが組むことで、世の中に新しい価値を届けることも増えてきたと思います。

スタートアップの方や研究熱心な生産者さんは0から1をつくることが得意で、大企業は1から10にスケール化することが得意です。地域の生産者や事業者は、突き詰める姿勢や情熱がすばらしく、そういう部分に惹かれています」

お互いにないものを補い合って、いい関係性を構築する。たとえばZEN MEATやBROWN RICE COOKIEは、福井県鯖江市にある〈マイセンファインフード〉という企業が製造している。

KEEMA CURRYやEUROPEAN STYLE CURRYは、兵庫県淡路市の〈沖物産〉と一緒に開発した。沖物産が持つ技術と、SEE THE SUNのブランディングをうまく融合させて世の中に出している。

ほかにもSEE THE SUNの商品のみならず、地域の加工品と料理人や飲食店とのマッチングも行っている。地域では、1次産品を自ら加工し、販売することで、6次産業化を目指す動きも多い。しかし、なんとかがんばって商品ができても、宣伝や流通などがうまくいかず、その加工品が売れるとは限らないし、似たような商品が出回っていることが多い。そんな現状を打破できる仕組みだ。

「私たちには、料理人がどのようなものを欲しがるかというネットワークとデータがあるので、生産者に加工方法の提案をして、料理人につなげています。ちゃんと価値をわかってくれるシーンに届けることができると思っています」

たとえば、フルーツをすべてジャムに加工してしまうのではなく、皮を剥いて、種を取っておく。その状態で飲食店に渡せば、さまざまな料理に生かせる。飲食店側としては手間が省けるし、生産者は必ずしも消費者向けに直接売るような最終製品にまでしなくてもいい。

さらに地域の事業者に対して、生産管理支援や知的財産保護、海外へ輸出するためのシッピングなどのバックアップも行っている。

「SEE THE SUNが持っているリソースを活用してもらうことが、食文化を俯瞰して見た場合には、みんなのためになると思っています」

大企業ができること、地域の企業ができること。目指す方向性は同じなのだから、それぞれの置かれた立場で役割を果たしていけばいいのだろう。

「大きな食の課題に対しても、地域の人たちのほうが課題解決の意欲やビジョンを強く持っていることがあります。しかしひとりひとりでは難しいし、私たちのような企業であっても容易ではありません。そこで、『一緒に力を合わせてがんばりましょう』という旗振り役ができればと思っています」

これがSEE THE SUNが見据える、食のプラットフォームとしての未来の姿だ。

SEE THE SUNは葉山で創業した。葉山周辺には「自分が納得のいくものを選択し、他人の選択も認める生き方をしている人が多い」と感じているという金丸さん。

葉山にある本社は、商品開発・研究のラボ機能を果たしながら、地域での交流やコミュニケーションの場としても活用していけるだろう。そのようなエリアから、食とライフスタイルのブランドとしてSEE THE SUNを育てていきたいという。

おいしいものをつくって食べるという食文化の原点。そこで生まれるコミュニケーションには、人の多様性を個性と認めて、楽しく暮らす力が宿っている。そのヒントを、SEE THE SUNは教えてくれるようだ。

information

株式会社 SEE THE SUN 

住所:神奈川県三浦郡葉山町堀内810-2

https://seethesun.jp/

writer profile

Tomohiro Okusa

大草朋宏

おおくさ・ともひろ●エディター/ライター。東京生まれ、千葉育ち。自転車ですぐ東京都内に入れる立地に育ったため、青春時代の千葉で培われたものといえば、落花生への愛情でもなく、パワーライスクルーからの影響でもなく、都内への強く激しいコンプレックスのみ。いまだにそれがすべての原動力。

credit

撮影:川瀬一絵(ゆかい)

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